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キャンピングカーの聖地になりつつある?広島県三原市【実装支援事業】

この記事を読んでいる方の中に、キャンピングカーで車中泊したことがある方はどれくらいいるでしょうか。
さらに、広島県三原市で車中泊したことがある方は?

筆者もまだキャンピングカーを利用したことはありませんが、「寝られるように作られた車で寝る」ことを想像すると、その非日常感にちょっとワクワクします。

「でもキャンピングカー持ってないし…」
「キャンピングカーと三原市にどんなつながりが?」
はい。今回の記事は、ここ最近三原市で起こっている、静かなるキャンピングカー・ブームについて書きます。
火付け役は、キャンピングカーのオーナーさんもそうでない方も、どちらも嬉しいサービスを提供するスタートアップと、三原市でまちづくりに取り組む事業者です。

地域の課題×スタートアップ×「ワクワク」で始まる

キャンピングカーのレンタル、個人が所有するキャンピングカーのシェア、そして車中泊できるスポットをシェアするサービスを展開しているのがCarstay(株)です。
昨年度、D-EGGS PROJECTに採択され、広島県で実証実験を行うこととなったCarstay(株)がその舞台に選んだのは、三原市でした。

キャンピングカーユーザーにとって、有料の車中泊場所が少ない広島県は「泊まらない県」という印象で、滞在せず通過点になりがちです。それが顕著だったのが三原市でした。
三原市の大きな課題のひとつとして、滞在者のうち観光目的の方がおよそ3%ほどというデータもあります。
でも十分な道幅があって、海も山もある。キャンピングカーユーザーにとってはとてもいい環境で、やりがいのある場所だと感じました。

Carstay(株) セールスマネージャー 野瀬 勇一郎さん
イベント参加者に説明する野瀬さん

ただでさえ実証には時間とコストがかかり、さらに縁もゆかりもない場所でスタートアップ企業が動くには、まず地元との関係づくりで数年費やすことも想定されます。
そこで伝手をたどって紹介されたのが、地域を良く知り、地元との調整役となってくれる(株)KOTOYAだったのです。

三原市には空港や港、新幹線駅はありますが、そこからの移動手段が乏しいことが観光の面での大きな課題です。
この二次交通の問題をなんとかしたくて、タクシーやバスを活用することや、補助金でトゥクトゥクを購入しようかなど、自分たちでなんとかすることばかり考えていました
Carstay(株) を紹介いただいたとき、「他社と連携すればいいのか!」「キャンピングカーという手があったのか!」と軽い衝撃を受けました。連携の決め手は「ワクワクできそう!」という第一印象。普段から頭で考えるより気持ちで動くことが多いんです。(笑)

(株)KOTOYA 代表取締役 泉 太貴さん
代表取締役の泉 太貴さん(左)と取締役の小松 愛香さん

泉さんは三原市出身。(株)KOTOYAを創設してイベント企画や観光事業などを行う傍ら、空き家対策や移住促進事業を取り組む(株)まちづくり三原の統括マネージャーや三原商栄会連合会の会長を務めるなど、様々な立場でまちづくりと地元・三原の活性化に取り組んでいます。

この連携によって、通常では考えられないようなスピードでコトが動いていきます。
三原の課題と“キャンピングカー”がぴったり重なって、地元事業者参画のもと「三原市車内寝泊ねとまり計画実行委員会」が立ち上がり、そしてD-EGGSプロジェクトでは実証実験として「島キャンin佐木島」と「カメラガールズフォトウォーク」が開かれたのです。

そして今年度、本格的な実装に向けて、実装支援事業に採択されたのでした。
日常的にシェアできる車と車中泊場所をますます増やすこと、そして一緒に活動する仲間づくりを進めながら、三原に“車中泊客”を呼び込む仕掛けが展開されています。

今年も2つのイベントで三原にキャンピングカーが集合!

ひとつめは、三原の一大イベント「やっさ祭り」に合わせたモニターツアー「YASSA CAMP」です。

  • 車中泊会場から祭り会場、三原市街、海水浴場、花火会場、入浴施設を定期巡回するバス運行(10時~22時)

  • 花火鑑賞特別スペース付き

  • キッチンカー出店

  • 三原駅を中心としたキャンピングカー専用ドライブマップ付き

という充実の内容!
コロナ禍で例年どおりとは言えないまでも、歴史あるやっさ祭りを参加者は感じてくれたことでしょう。

ふたつめは、広島空港近くの県立中央森林公園で「秋のAirPortCamp in MIHARA」を、11月の毎週土曜日に開催しています。

  • 車中泊会場から佛通寺、三景園、温浴施設を定期巡回するバス運行(12時~20時、翌朝8時~12時)

  • 夜間や早朝の飛行機の離発着見学

  • キッチンカー出店

  • 朝ヨガ

  • 広島空港を中心としたキャンピングカー専用ドライブマップ付き

こちらも、紅葉や秋の三原を満喫できる特典が満載です。

中央森林公園は17時に閉園するため通常夜間は利用できませんが、広島県との連携により、今回のイベントが実現。県外からの参加者はもちろん、地元の方にとっても、普段見られない夜間と早朝のフライトを間近に見られる貴重な機会となりました。離発着を少し上から眺められるスポットは、全国的にもなかなかないようです。

観光コンテンツを作ろうと思っても、そのひとつだけで集客できる“メジャーコンテンツ”はごく一部で、9割ほどは“マイナーコンテンツ”が占めます。マイナーコンテンツだけでは集客は見込めませんが、そこにキャンピングカーが重なるとこんなにも人を呼び込める。私たちが抱えていた課題解決にもつながっていくと感じています。

(株)KOTOYA 泉さん

そして今回のイベントで大きなポイントのひとつとなるのが、キャンピングカー専用マップです。
イベント参加者には紙で配布されましたが、その内容はGoogleマイマップにも落とし込まれていて、アナログとデジタルのハイブリッド仕様となっています。

これまで空港周辺のスポットをまとめたマップ自体が少なかったので、掲載した施設のPRにも活用されているようです。
また、各施設に対してCarstay を認知してもらえたことで、新たな車中泊場所としてスペースを提供してくれる可能性もあるかもしれません。

(株)KOTOYA 取締役 小松 愛香さん

車を置いてバスに乗って紅葉や入浴を楽しんだり、フライトを見たりと、イベント自体を満喫した方も多い中、半分ほどの方は、定期巡回バスには乗らず、車中泊場所でキャンピングカーの品評会を始め、そのうちいすを並べて長話をしていたのだとか。
しかし、そんな方でもイベント前後にはマップを使って周辺を回ってくれていて、思い思いに、でも確実に、三原を楽しんでくれていることは間違いないようです。

そして確かに起こりはじめる変化

昨年から今年にかけての継続的な取組みにより、泉さんや小松さんは、変化を実感しているといいます。

「行けなかったけどイベントをやっていたことは知っていた」「キャンピングカーをよく見るようになった」と言ってくれる人が増えました。私自身も、キャンピングカーを見かける機会が増えています。
県内周辺地域からのお問い合わせも増え、県外ナンバーも見るようになって、中四国での三原市の認知度も上がっているような気がします。

(株)KOTOYA 泉さん

キャンピングカーユーザー同士は、SNSでつながっているなど交流が深い独特の文化があります。広島県のなかでも三原市がキャンピングカーに力を入れているということ自体の認知は広がってきている。あとは来るきっかけを探したりレビューを見たりしている段階だと感じています。

Carstay(株)  野瀬さん

初めて見るもの、これまでなかったものへの抵抗感を少しずつ払しょくしていくことも、重要なステップです。

お問い合わせに対しては、まずはCarstay のアプリを見せながらお話をしています。
地方の場合、都会と比べてキャンピングカーの使用頻度が高い方が多いので、自分の部屋のように思っている車を他人に貸すことは抵抗が強いようですが、これまでの利用者のようすやCarstayの仕組みを知ってもらうことで、意識が変わってきていると感じています。

(株)KOTOYA 小松さん

新幹線駅も空港も港もある三原に全国各地から集合して、キャンピングカーに乗り合わせて移動するという手練れの観光客もいるそうです。
旅上手ですね。

「日本で最もキャンピングカーに優しいまち」を目指して

二次交通、宿泊客が少ない、そしてローカルのマイナー体験へのつなぎという課題から始まった「三原市車内寝泊計画」。今後も、空港や駅から、三原の様々なコンテンツへつなげる取組みが続きます。

そのためには、日常の風景としてキャンピングカーを使える環境づくりが大切だと思っています。あまり使われていないキャンピングカーのオーナーさんにはシェアできる車両を登録していただき、遊休地・広いスペースを持つ方や事業者には車中泊場所として登録していただき。そして一緒に活動する仲間を増やしていく。
そうした車中泊を通じたつながりづくりの先に、観光のまちづくりがあると思っています。

(株)KOTOYA 泉さん

店舗やホテル、道の駅の駐車場から、空き地や個人宅の敷地まで、三原のあちこちで車中泊する観光客が見られる日が来るかもしれません。


●EDITORS VOICE 取材を終えて

筆者は、旅先ではお風呂にゆっくり入りたい派なので、大浴場のあるホテルやスーパー銭湯の駐車場で車中泊できたらいいなあと、インタビューしながら想像がふくらみます。
次の旅行はキャンピングカーを借りて、ドライブ&車中泊旅にしようかな…?
「ホテルの1室のような部屋と一緒に移動するキャンピングカーは、災害時にも活躍するんですよ」とお聞きして、確かにそうだよなあと深く納得しました。
(Text by 小林祐衣)

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