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主役は「竹」!海と山の問題を一気に解決【RING HIROSHIMA】

広島が誇る海の幸・牡蠣。その養殖に必要なプラスチックの細いパイプが、朽ちてゴミとなり、瀬戸内海を汚している。ならば昔ながらの竹を使った、自然に還るパイプを作ろう!と奮起したのが今回のチャレンジャー。竹パイプを使うと、海にも山にもいいことずくめなのだが…。

CHALLENGER「山海環」谷川裕之さん

広島の竹が循環していけばいい
「森は海の恋人」なんです

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牡蠣筏をつるす時に使う細いパイプは、昔は竹で作られていました。牡蠣の生産量が増えて必要数が増えたり、竹パイプの作り手が減ったり、耐久性の問題などもあり塩ビに置き換わっていったんです。しかし今、海洋プラごみの問題は大変なことになっています!

本業は翻訳家だが、竹林にいることの方が圧倒的に多い…と笑う谷川裕之さんが、今回のチャレンジャー。繁殖しすぎた竹の伐採や再利用を行う「竹の駅あきたかた」事務局と、海と山の循環を考える「山海環」の代表を務めている。広島県「竹」原市の生まれで(←たまたま)、2014年の土砂災害をきっかけに森林ボランティアの世界へ足を踏み入れた。

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実は、山に生えすぎた竹は日本の大きな環境問題の一つ。荒れた竹林が農作物を食い荒らす害獣の住処になったり、土砂災害の危険性を高めたりしているのだ。

一方、広島を代表する海の幸・牡蠣には、養殖の際に使用するプラスチックや塩ビの素材が海を汚しているという問題が。広島の牡蠣は、「垂下式」といって、牡蠣の稚貝が付いたホタテ貝の殻を長い針金に通し、筏に吊るす手法で育てられている。この針金にホタテ貝を通す時、牡蠣の生育に合った間隔が空けられるように、プラスチックや塩ビの短いパイプを挟むのだ。

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(ホタテ貝同士の間隔を空けるためにパイプを挟む。この貝殻に牡蠣の稚貝がくっついて、やがて大きな牡蠣に育つ/写真提供:広島県)

朽ちたパイプが日光に当たってバラバラになると、それを魚が誤って食べてしまいます。さらに、その魚を人間が食べる。最終的には人間の体の中にプラスチックが蓄積してしまう。もっと環境負荷の小さい素材でパイプが作れないか、と考えてたどり着いたのが、「篠竹」を使って作る竹パイプなんです。

直径3㎝ほどの篠竹は、切断して節を抜けばそのままプラスチックパイプの代わりに使える。朽ちても自然に還るし、竹林の伐採は里山保全の面でもありがたい話。まさに三方よし、海の環境に優しくて山の環境を整えるナイスアイデアなのだ。

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(篠竹をカットすると、プラスチックのパイプとさほど変わらないサイズ感のものが完成。1.7㎝の豆管、21㎝の七寸管、24㎝の八寸管の3種類がある)

今回のRING HIROSHIMAでは、この篠竹を使った牡蠣筏用の八寸管3万本を試験的に生産して廿日市市の漁協に納める。伐採に必要な行政の許可取り、シルバー人材センターや福祉事業所と連携しての生産体制作りまでの仕組みづくりを目指している。

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(スライド丸鋸での加工はシルバー人材センター、検品は福祉作業所に依頼。シニア雇用や農福連携の点でも意義のある取り組みだ)

「森は海の恋人」とは、気仙沼の牡蠣生産者・畠山重篤先生の言葉ですが、広島も同じことが言えるんです。竹はもともと、牡蠣筏の材料になるなど海と山で循環してきました。実は、広島の牡蠣筏にはあまり広島県産の竹材が使われていないという問題もあります。竹林の整備が追い付かず、太さのある竹を安定して供給できないからです。広島の竹が、海と山でもっともっと循環していけばいいじゃないのと思っているんです。

今回の谷川さんのチャレンジは、大まかに分けると以下の6工程に分かれる。

1・国土交通省や県からの篠竹の伐採許可の取り付け
2・シルバー人材センターや福祉作業所との生産体制作り
3・実際の伐採・運搬・加工・検品作業 ←NOW!
4・作業工数の割り出しと単価の設定
5・乾燥状態の確認や強度・耐久性試験
6・事業の継続に向けた漁業組合等への営業活動

1~3までは着実に進み、2月上旬現在で1万本弱の八寸管が完成した状態。生産体制は整いつつある。一方で、現段階で未着手なのが後半の取り組み。ここに手を差し伸べたのが今回のセコンドだ。

SECOND01 岸拓真さん

工学的エッセンスが必要なところは
どんどん協力していきます

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高専は大学同様の高等教育機関ですので、地域の困りごとの解決や海に関する出前授業・実証実験への参加などは普段から多数展開しています。RING HIROSHIMAには、これまで培ってきた浮体構造物や海洋環境に関する僕の知見が使えそうだなと思い参加しました。この取り組みに工学的エッセンスが必要なところには対応しようと思っています。

今回、谷川さんには2人のセコンドが付く。1人目が、大崎上島にある「広島商船高等専門学校」の岸拓真さん。船員養成の教員をしながら、瀬戸内海でのさまざまな実証実験に参加してきている。谷川さんが依頼先を探していた、完成した竹パイプの乾燥状態の確認や強度チェック・耐久性試験は、岸さんが担当。また、学校の周辺である安芸津・江田島・倉橋を中心に牡蠣生産者とのネットワークづくりも進めている。

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SECOND02 向谷裕次さん

公務員時代とは違う形で
農業者や漁業者を支援したい

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広島県の農業技師として30年以上やってきました。これまで生活できてきたのは農家さんのおかげだなと思って、公務員ではできなかったやり方で農家さんを応援することにしました。漁業者さんと連携した仕事もしてきたので、牡蠣生産者さんとの繋がりもあります。谷川さんの考えた仕組みを定着させるために、元行政の職員としてアドバイスできることがあれば、と思っています。

もう一人のセコンドが、広島県の農業技師を経てNPO法人「がんばる農家のパートナー」を立ち上げた向谷裕次さん。4年前に県庁を早期退職した後は、生産者の所得向上をめざし、HACCPの認証支援などを行っている。谷川さんが試作した竹パイプを手に漁業者へ取り組みの説明に行くなど、今回のチャレンジを継続させるための支援を行っている。

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TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

谷川さんが開拓するこの取り組みは
すごい好事例になると思っています

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――仕組みづくりをする谷川さん、検査など数値的な面からサポートする岸さん、農林水産の幅広い人脈を活かして取り組みの周知を図る向谷さん。3人がしっかり役割分担して順調に進んでいる印象を受ける。

谷川:今苦労しているのは伐採が追い付かないことですね。1月から始めたんですが、現場である安芸高田市北部は雪が多くて…。実は今日も入ったんですけど、作業を断念しました。降っていない日でものり面が危険な状態で、上からも溶けた雪がボタボタ落ちてくるわけです。

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(篠竹が生える場所は川沿いが多く、天候が悪いと地面が緩みやすい)

岸:年始からオミクロン株の流行が凄くて、谷川さんが一番大変な時に現地に行けないのが申し訳ないです。本当だったら課外活動として学生たちを連れていきたいんですが…。こちらでは、今瀬戸内海にどのくらいプラ製のパイプが流出しているのかとか、実地調査を始めています。環境アセスメントは学問的に考えないといけない部分が多いので、裏付けをきちんと取っていきたいですね。

向谷:今後この取り組みを定着させていくには、やはり一番の問題はコストです。広島の牡蠣はずっと同じ値段なのに、牡蠣養殖に使う針金など資材のコストはものすごく上がっています。竹パイプの単価をどのくらいに設定できるかが重要になってくると思います。

谷川:なんぼいいものであっても、漁業者さんが買えないような値段のものだと意味がないですからね。どうやって単価をプラパイプに近づけていくかは今後の課題です。海ゴミゼロを目指す県などの施策とうまくドッキングできないか…考えていく要素はいっぱいありますね。

向谷:海洋プラごみに問題意識を持っている人はたくさんいるんです。高いから嫌だ、ということでもない。山の方には竹で困っている人もたくさんいるし、作業所の方に仕事をしていただく農福連携という面もある。谷川さんの発想はすごくいいので、うまく繋いでいけるといいんですがね。

谷川:今回はお二人がお持ちの背景や能力に助けられてここまでやってきました。この実証実験がどうのこうのじゃなくて、本当に重要なことはこの後にあると思っています。

岸:今、こうしてすごい好事例を谷川さんが開拓してくれようとしています。これが本当にどのくらいできて、どういうリソースが必要で、どういう市場が生まれるかっていうのはまだまだ長い道のりです。RINGHIROSHIMAで僕たちが一番ローテクかもしれませんが、ローテクならではのよさを活かしつつ、今後は少しずつデジタル化していったり、数値として表せるものを残していきたいですね。この取り組みが大きなものに出来るよう、一緒に頑張りたいと思っています。

EDITORS VOICE 取材を終えて

ここ数年牡蠣生産者さんの取材をしていまして、私にとっても興味深い取り組みでした。谷川さんは、広島の牡蠣筏の材料を広島の竹に変えていくこと、今回取り組んでいるプラパイプの竹化、そして牡蠣筏の廃材を炭にして再利用したり海の肥料にすることを今後進めていかれるとのこと。身近な海、身近な山にはもっとよくできることがたくさんあって、そこに心を注いでいる人がいる。自然を改めて大切にしたくなる時間でした。(Text by 山根尚子)

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