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【30EGGS】人の豊かさを“歩く”で創る(Ashirase)

今回は30の卵のうち、「Ashirase」をご紹介します。

Ashiraseは、視覚障害者の歩行を支援するナビゲーションシステム「あしらせ」を開発。靴に専用の器具を挿し込みスマートフォンアプリと連携することで、振動により目的地までナビゲーションしてくれます。

そんなAshiraseが、D-EGGSの最終30案に採択され、広島県を舞台に実証実験を行います。

起案内容

Interview

代表の千野歩さんにお話を伺いました。

D-EGGSではどのような実験を行いますか。
D-EGGS参加以前から「あしらせ」の開発を進めていますが、今回は11月の大型アップデートに向けての実証実験となります。
具体的には大きく2つ。まず7月までは、航空宇宙系の衛星データの利活用などを進める宇宙システム開発利用推進機構の協力により、広島市で衛星データを取得しました。
そして8月後半からは、いよいよ視覚障害者の方と一緒に歩行実験を行う予定です。
今回は中高生にも協力いただきたく、教育委員会を通して特別支援学校と調整しました。そのほか、知人や障害者団体、大学、盲導犬関係の団体など、広島市や県の団体に協力を仰ぎ、歩行実証には約40名参加いただきます。

谷田さん実証2

「あしらせ」の特徴を教えてください。
歩行時の危険や安全な箇所を見つけて知らせるシステムは存在しました。でも私たちの視点は少し違います。人には「注意資源」というものがあって、注意を向けられる容量が一人ひとり決まっています。
例えば駅のホームへの転落事故。実は点字ブロックだけに集中していたら絶対落ちないと言われています。でも電車に乗るとき、何時に何番線、どこの扉から乗ろうとか、次の予定のことを考えているとそれだけでも注意がそれて、転落することがある。別のことを考えていると注意資源がそちらに使われて、事故は起きやすいんです。
視力が弱いロービジョンの方の場合は、スマホなども顔から5センチほどの距離に近づけないと見えません。ルート情報を得ようとすると、集中がスマホに向いてしまって他のことを感じにくくなってしまうんです。

でも「あしらせ」なら、ルート情報は足に知らせてくれるので、他のところに注意を向けられる。ルートに気を取られずに歩行できると、他のことに注意資源を使うことができるようになります。
実際に使ってもらった方からは、「いつも通る道に花屋さんがあることを初めて知った」「店員さんとお客さんの会話が初めて聞こえた」「今度は海を散歩してみたい」という言葉もいただきました。

機能説明_アートボード 1

そもそも、「歩く」ことに着目したのはなぜですか。
きっかけは、高齢の親戚が川に落ちてしまった事故でした。検視結果は足を滑らせて落ちてしまったということでしたが、目が悪かったことも原因だったのではないかと思われます。
これをきっかけに、視覚が不自由な方はどのように歩行をしているのだろうということに興味を持ち始めたんです。

もともとは、バイクやモビリティへの憧れもあってホンダに入社しましたが、この事故を経て「歩く」もモビリティのひとつだと感じるようになりました。
自分自身、歩くと脳内もリフレッシュできます。ほんの2キロでも、ゆっくり歩いていると30分ほどかかることもありますが、そういう時間も大事にしていきたいですね。

歩いていると、いろいろなことを感じますね。
人が社会のなかで自信を持って生きるには、人とのつながりや、五感が脳に与える刺激が大切だと言われていますが、五感を刺激するために最適な速度が、歩く速度だと感じています。
周りを見ながら歩くと、余裕を持っていろいろなことを感じ取ることができて、聴覚や嗅覚も反応できる。
感性が豊かになって、自分のことを好きになること、そして他人をも尊重できることが、人生の豊かさにつながると私たちは考えています。

歩くということ自体に、漠然と良いイメージを持っている人も多いと思いますが、実は学術的にも、腸の動きがよくなる、健康寿命を延ばす、脳への刺激から認知症も防げるなどの研究結果が出ているんです。
例えば、歩きたい、健康になりたいと思ったとき、今は何らかの障壁があってできない人でも可能にする手段があることが、人の豊かさにつながる。誰もが五感で感じる機会に出会えるようなプロダクトを作っていきたいです。

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