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みんながみんなを守る社会へ【RING HIROSHIMA】

ピロリ菌は「お腹が痛くなるヤツ」くらいのイメージでした。(勉強不足ですみません)

でも、実はピロリ菌は、胃がんの原因の98%を占めるとんでもないヤツだと教わりました!
「お腹痛い」どころではありません。
しかも、国民の3,500万人がピロリ菌に感染しているのだとか。

日本人の2人に1人ががんにかかる時代。
今回の挑戦者は、病院や健診とは異なったアプローチによりピロリ菌を撲滅することで、私たちの胃を守ろうと立ちあがりました。

CHALLENGER「森ノ宮医療大学」「NPOまもるをまもる」西垣孝行さん

実証実験では、対象者にピロリ菌と胃の状態の血液検査を受けてもらい、陽性の場合は胃カメラ検査へ。エンターテインメント性を加えることで胃カメラへのモチベーションを上げてもらうことを目指します。

ピロリ菌の中でも、東アジアに生息しているものは胃がんになる要素を持っています。検査方法も除菌方法も確立していて、日本でもおよそ1千万人が除菌済み。でも数千万人はまだ除菌しておらず、年間およそ4万人以上が胃がんで亡くなっています。
ピロリ菌が発見されると、その時点でがん化した細胞が存在している可能性があるので、継続的に胃カメラ検査が必要です。胃カメラはそれ自体ツラいと感じる人が多いので、ピロリ菌がいることがわかっても病院へ行かない人もいるようなんです。
コロナより簡単に退治できるのに、除菌に至るステップが難しい。

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コロナ禍により世界中の誰もが感染症を意識するようになりました。感染が原因になるがんがあって、しかも防げるなら、どんどん予防していきたいところ。
子宮がんはHPVウイルス、肝臓がんはBC肝炎ウイルスと判明し、既に対策が講じられています。しかし胃がんはどうでしょうか…。
予防のためには、まずは興味を持ってもらい、検査を受けてもらう必要があります。

しかし、病院に対する認識の多くは、“病気にならないと行かないところ”。病院から積極的に受診を促すことはできません。病院に行くことができない人や健康意識の低い人たちの早期予防ができないか、というのが今回のプロジェクトの大きなテーマです。

最初のステップは、ピロリ菌について興味を持ってもらうこと。
西垣さんは、病院に行かなくても検査ができる「胃がんリスクABC分類検査キット」を、100人分確保しました。これを、検査する本人に直接渡すのではなく、コミュニティの代表者から届けてもらいます

例えばひとり親家庭の場合、仕事と家事育児で精いっぱいで病院に行くこともできない。でも、自分の大事な人の健康には気を遣います。だからこそ、病院に行けない人たちのコミュニティを代表する人、誰かを救いたいと思っている人に検査キットを届けてもらうんです。

コンセプトは、「大切な人をピロリ菌から守る」です。ひとりひとりの意識を動かそうと思っても大きな動きは起きにくいものですが、だれかを守ろうとする人がひとりいると、周りが救われます
健康意識の低い人を、今回のようなプロジェクトで変えていければ、胃がんをはじめ、胃炎や潰瘍、消火器以外のピロリ菌関連疾患のリスクまで減らせると思うんです。

欲しい人ではなく、関係者を救いたいと思う人に届けるところがポイント。
検査キットは、郵送型血液検査キット「DEMECALデメカル」を使います。専用の器具で指先に小さなキズを作り、少量の血を容器にとるだけ。特殊な容器で、血球成分と血漿成分を即時に分離してくれるので、あとは郵便ポストに投函して検査結果を待つだけです。

デメカル

このキット、希望小売価格9,900円(税込)のところ、実証実験では1,000円で販売。
無料にしなかったのは、少しでも負担があることで検査を促すためです。

そして検査結果が陽性となった人には、胃カメラ検査を受けてもらいます。
ここが、次のステップ。

胃カメラ検査を受けた人には、農家さんからてんこ盛りの野菜が届きます。
理想としては、例えば子どもが親に検査を促して、検査を受けてもらうことで、新鮮野菜が届く。「お母さんが検査してくれたおかげで、美味しい野菜食べられるね!お母さんも元気な胃で美味しく食べられるね」というストーリーが、当たり前になる世の中にしたい。

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RING HIROSHIMAに採択されたとき、胃カメラ検査の“ご褒美”は決まっていませんでした。しかし挑戦者同士のつながりで、新鮮な野菜という“ご褒美”を届けられることに。

野菜は、広島市のFROM EATSにご協力いただきます。同じくRING HIROSHIMAに挑戦中の「オーウェル」野村さんに紹介していただきました。
「FROM EATS」は、規格外の野菜などを飲食店に届け、そこで受け渡してもらうことで、飲食店にも訪れる人が増えて、ほかの商品も売れるという仕組みを確立されています。もちろん、農家さんとしても廃棄野菜を減らすことができます。

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元気な胃で、美味しい野菜がさらに美味しく感じそうです。

(「オーウェル」の実証実験はこちら↓)

SECOND「株式会社E.S CONSULTING GROUP」佐藤祐太朗さん

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医療の知識はまったくありません。胃がんの原因はピロリ菌だと初めて知ったくらい。
すでに方針が固まっているプロジェクトでしたので、助言なんてほとんどしていません。

そう謙遜する佐藤さんですが、検査キットをお渡しするコミュニティの半分は、佐藤さんが紹介しました。

ひとり親家庭や子ども食堂の支援活動をするコミュニティとは元々つながりがあったんです。いわゆる“社会的弱者”と言われる人たちに届けたいという西垣さんの思いは聞いていました。
広く情報を拡散したとしても、自分ごとにしてもらいにくい。特に医療の分野は一般の人には難しいことも多く、丁寧に届けないと伝わりません。

数々の自治体のコンサルタントを務めてきた佐藤さん。財政状況の厳しさや医療費問題も十分ご存知ですが…

これまで医療系の課題は避けてきました。でも、RING HIROSHIMAで難しい分野に向き合ういい機会をいただきました。
「オーウェル」や「FROM EATS」、今回協力いただくコミュニティも、これまで個々で頑張っていた人たちがつながった感じがします。
医療の知識がなくても、こういうことでお役に立てることを実感できて、多くの価値を得ることができました。

今回、挑戦者とセコンドが直接対面できていないグループも多々ありますが、西垣さんと佐藤さんは、マッチングが発表された直後にご対面。佐藤さんが、「広島市長とお話会」に西垣さんを招待したからです。

そこは、検査キットを使ってほしいと思っていた人たちや、健康意識の高い人たちが集まる会。広島市長や佐藤さんとも直接お会いできて、ありがたい機会でした。
市長を囲む会を開けるような佐藤さんの働き方も興味深い。私にとって、地域に根差した活動がこれからの課題になるので、佐藤さんには今後もいろいろ教えてもらいたいです!(西垣)

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健康を手に入れる、その先のゴール

ピロリ菌を発見して除菌して、美味しい野菜を食べられた!では終わらないのがRING HIROSHIMA。
西垣さんが目指すゴールは、医療費の削減です。

実は、ピロリ菌検査が陰性(未感染)の場合、企業が行う対策型=集団検診でのバリウム検査を漫然とする必要はないと言われています。バリウム検査では、がん細胞がある程度の大きさになっていないと見つけられないから。
でも、人間ドックではバリウム検査が組み込まれており、必要がなくてもバリウム検査をしないと、私学共催事業などにおいて人間ドック利用費用補助が受けられない場合もあります。必要がなくてもやらないといけない。費用もかかるしツラいのに、ほとんどの人がバリウム検査を受けています。

郵送型血液検査キット「DEMECAL」による検査でピロリ菌陽性となり、胃カメラ検査で実際に胃がんが見つかる人もいる。初期であれば手術も負担の少ない簡単なもので済みます。バリウム検査をしなくても、胃がんによる死亡者は減らせる可能性があります。

つまり、「DEMECAL」で胃がんが見つかるきっかけとなれば死亡リスクが減り、見つからなかった場合でもバリウム検査をしなくて済む可能性があるということ…!
西垣さんは、このふたつの視点から医療費の削減を見込んでいます。

“病気になってから病院に行く”(2次予防)という文化の日本。病院以外の場所でも病気を見つけられる、または病気にならない(1次予防)ようにしないと、日本全体の医療費問題はどうにもならない。
家にいながら検査をすれば、治せる病気をいち早く見つけることができるんです。

さらに、医療費を使わずに、行政の予算や企業版ふるさと納税、ソーシャルインパクトボンドなどでこういう取組みを進めていきたい
社会的弱者など自ら病院に行けない人には公的資金を投じて、お金や時間に余裕がある人はご自身で負担してもらうなど、「検査しないともったいない!」という風潮が広まればいいですね。
特に日本は、内視鏡に強い国、そして胃がんの画像診断A Iの開発も進んでいます。東アジアに先立って胃がんを制圧してほしいと切に願っています。

ゴールは“医療費の削減”。なるほどなるほど…

さらに言うと、例えば今回野菜を置いてもらう飲食店。この実証実験に関わることで、これまで意識していなかったお客さんの胃を守ることを意識したら、みんなでみんなの命を守ることになっていきます。
これまで病院だけに任せていた医療の課題ですが、「自分たちにできることがあるんだ」とみんなで意識してもらいたい。医療が生活に溶け込めば、医療を守ることにもつながります。

ゴールは医療費削減じゃなかった…!
真のゴールはもっと深いところにありました。
そこに住む住民の健康が都市(街)の価値を決める時代。

セコンド・佐藤さんのゴールも大きく、そして深く。

今後、少子高齢化が進むけど、「だから楽しいことなにもない」と思ってほしくない。誰もがわくわくできる地方を残していくのが私の目標です。
そのためには、時間とかお金とか健康が、きちんと維持されていくことが大事。医療費が削減できれば、老朽化している公共施設やまちづくりに予算が回せるかもしれない。
豊かな地方を残すためのひとつとして、医療系プロジェクトに注目しています。
西垣さんには、今後も自治体との連携などお手伝いできることがありそうです。(佐藤)

今回のプロジェクトは本当にたくさんの協力者により実施されました。この場を借りて感謝申し上げます。(西垣)

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(Text by 小林祐衣)

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