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ストック癖の2人が挑む「災害備蓄プラットフォーム」【RING HIROSHIMA】

災害大国、日本。もしものときに備えて生活用品を備蓄しておかなければならないというのは、もはや常識となっている。

【災害時に必要な備蓄品リスト】
飲料水(1日3リットル)、非常食(カップ麺、缶詰、ビスケットなど)、トイレットペーパー、カセットコンロ、懐中電灯……

え、これが人数分必要?

え、1週間分も用意しないといけないの?

え、部屋にそんな置き場所ないよ?

え、いつのまにか賞味期限切れてた?

え、電池も切れてるの?

……自分で用意&管理するのなんて絶対ムリ!

そんな人のために「災害備蓄プラットフォーム」はどうだろう?

CHALLENGER「株式会社Laspy」藪原拓人さん

コロナ禍での品不足から
備蓄の必要性を痛感した

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非常時のために必要な水や食料などの防災備蓄。今は各自が自分のスペースを潰して保管してますが、私たちはそれを建物単位、コミュニティ単位で保有しようとするスタートアップです。

防災備蓄はみんなやらなければならないと思っているけど、実際は面倒臭くてなかなかできない分野。個人では1割程度しか必要量を準備できてないのが現状です。でも私たちがそれを引き受けることで、コストもスペースも管理の手間も下げられると思うんです

株式会社Laspy(ラスピー)代表取締役社長・藪原拓人(やぶはら・たくひと)さんの前職は証券マン。起業なんて考えていなかったところに突然アイデアが降ってきた。

僕はもともとボディソープやシャンプーのストックがないと落ち着かないタイプで。ヘアワックスを落としたいのにシャンプーが切れてるときなんて絶望感すら感じるんです。それがコロナの緊急事態宣言時にハンドソープが品切れで……そのあまりのストレスから「専用の備蓄があればいいのに!」って思い付いたんです

一度ひらめてしまったアイデアは止まらない。コロナでリモートワークなのをいいことに、徹底的にリサーチを進める。参入プレイヤーはいない。市場規模は大きそう。これはいけるのでは?……そして2021年2月、Laspyを創業した。

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当初は法人向けのサービスを考えていました。法人は全従業員の3日分の防災備蓄を用意しなければならないという条例が東京ではあって。やはり東日本大震災の教訓があるし、いつまた大きな地震が来るかわかりませんからね。ただ、共同の備蓄倉庫を建てるには資金が必要なので、まずはサービス需要の調査や協力企業さんを募っていたんです

まだ業態への認知がない中、ひとまずひとつ実例がほしい――そんな中で目に留まったのがRING HIROSHIMAだった。

SECOND「株式会社ローンディール」後藤幸起さん

面白いけど実現できるのか?…
同じ起業家としての共感と不安

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一方、今回のセコンドとなるのは株式会社ローンディールのCOOを務める後藤幸起(ごとう・こうき)さん。後藤さん自身も大学時代から自分で会社を興すなど起業家精神豊富な人だ。

現在在籍するローンディールも2015年創業のスタートアップ。大企業社員がベンチャー企業に“レンタル移籍”することで人材育成に繋げるという興味深い事業を行っている。

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人材開発や派遣事業が得意分野で、その関係で広島に2年間居住。それゆえ広島の大企業とのパイプも強い後藤さん、「会社としてももっと地域に根を拡げたい」という気持ちからセコンドに応募した。

僕にとって最初Laspyは第2希望だったんです。第1希望は人材系のプロジェクトで、ここなら間違いなく役に立てると思って。Laspyを2番手にしたのは、ビジネスの仕組みづくりの難易度が一番高いと思えたから。

ただ、僕は小学校のとき阪神大震災に遭って、家が半壊して。だから「こういう仕組みがあったらいいな」とは思ったんです。「これは災害大国の日本がやるべき事業だな」と。でもこれをどうやって事業化するのか? B to Bか? B to Cか? それもスタートアップの規模でやれるのか?……っていうことに関してはわからなくて

面白いけど難しい――だから躊躇して第2希望という説明にはリアリティがある。しかし藪原さんと後藤さんには妙な偶然が2つあった。1つは同い年なこと。もう1つは――

僕もストックタイプなんです。コロナでマスクやトイレットペーパーがなかったじゃないですか? 「なんやねん、これ!」って思ってて(笑)

どこか似たもの同士だったのだ。

東京と広島、自治体によって
防災意識は異なるという気付き

2021.11 START! 県や市との協業を模索
2021.12~2022.1 民間相手の協業にシフトチェンジ
2022.2 地元住民に対するアンケート調査 ←NOW

「必要なシステムであることはわかるけど、どうやるの?」というのは何十回も言われてきたんです。これは実際に事例を作って見せていくしか方法はないな、と思って―― (藪原)

ということでスタートした広島での実証実験。当初は県や市が所有する公有地や有休スペースを活用して備蓄庫を作る方向で話を進めていた。しかしなかなかうまくいかず。途中から民間企業との協業に切り替えた。

当初は腕ブンブンでいつでも登板するつもりだったのに、県や行政との話し合いが進んでいて「あれ、俺の登板機会ないの?」って感じだったんです(笑)。それが途中で話が変わって。そこからこれまで付き合いのあった広島の企業を藪原さんに紹介していきました (後藤)

後藤さんはむちゃくちゃすごいですよ。ご自身が出張中なのにミーティングに同席してくれたりして。僕は広島にまったくコネクションがなかったのに、十数社――それも地元の大手企業ばかり紹介してくれましたから (藪原)

今回の後藤さんは藪原さんに広島の企業を紹介する、“マッチメイク型セコンド”と言えるかもしれない。そして話をする中で見えてきたのは広島特有の防災意識。

東京は地震に対する危機感が高いけど、広島は地震に対してはそれほどでもなくて。それより重要なのは風水害や豪雨災害。さらに遠方からの電車出勤が多い東京と違って、帰宅困難者も少ない。東京モデルをそのまま持ち込んでも通用しなくて、“広島モデル”を作る必要性を感じさせられました (藪原)

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最終的に今回の実証実験は、地元フリーペーパーにアンケート広告を掲載し、広島の防災意識を調査するというところに落ち着いた。

藪原さんとしては「一足飛びに成果は出ない。自治体ごとに防災意識は異なるということが分かっただけでも大きな成果」と今回の経験を前向きに捉えているようだ。

「絶対必要な新しい価値を
世の中に提供する」という部分は同じ

さて、タッグを組んで3ヶ月。それぞれの印象はどう変わったのだろう?

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藪原さん自身が最初にお会いした11月から変わってきたのが面白くて。たとえば事業説明の様子もどんどん洗練されてきているんです。僕もローンディールに入ったときは最初はグダグダで、やってるうちに勘所がわかってきた経験があって。「この次第に形になっていく感覚がスタートアップの醍醐味だよなぁ」と自分の過去を思い出しました (後藤)

そんなところを見られてて恥ずかしいですね(笑)。でも筋トレと同じで、仕事も少し強い負荷を乗り越え続けてるといつのまにか筋肉が付いている。そんな感じかもしれません (藪原)

実はLaspy、この4月に東京日本橋で1号案件がスタートする。これはLaspyの思想に共感したディベロッパーが倉庫を貸し、オフィスビルの入居者に災害備蓄サービスを提供するというもの。プロジェクトは実現に向けて一歩ずつ動きはじめているのだ。

それだけではない。藪原さんと後藤さん、Laspyとローンディールという新たな協業の芽も吹いている。

これからはLaspyに本業であるローンディールのレンタル移籍先になってもらえたらと考えてます。一方で仕事で各地に行く機会があるので、“Laspyの地方担当”も継続できれば。

Laspyもローンディールも、「絶対必要な新しい価値を世の中に提供する」という部分は同じスタートアップ。だから感覚的に差異はないし、素敵なご縁をいただいたので引き続き関わり続けていきたいと思います (後藤)

今は僕たちの仮説が確からしいことがわかってきた段階。今年はそれを実践して、この形態が実現可能であることを証明していく年にします! (藪原)

背景は異なれど、巡り合った似たものSOUL。今後もベンチャー魂と几帳面なストック癖を引っ提げて、日本全国に新しい“安心”を届けていく!

(Text by 清水浩司)

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