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先生はロボット!?三次の小学校に未来がやってきた【RING HIROSHIMA】

「未来の世界のネコ型ロボット」ドラえもんの誕生は2112年。その90年前である2022年2月、広島県三次市立青河小学校では、ヒト型ロボット「ユニボ先生」が算数の授業を教えていた…!?大人も子どもも思わず笑顔になる、驚きの実証実験を紹介する。

CHALLENGER「有限会社ソリューションゲート」鈴木博文さん

ロボット先生なんて無理?
いやいや10年後を見てろよ
…って感じです(笑)

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「昔、映像教材が出始めたころは『こんなんで教育できないよねえ』と現場の先生から反発を受けることもありましたが、今やタブレットやZoomなどによる授業はごくごく当たり前のこととして広がっています。ユニボ先生も『ロボットが先生の代わりなの~?』って思われるかもしれませんが、10年後を見てろよ…って感じです(笑)」

今回紹介するチャレンジャーは、子どものころ弟に勉強を教えたことをきっかけに、教育業界に興味を持ったという鈴木博文さん。東京学芸大学修士課程卒業後、一般企業を経て45歳で起業。2003年、塾や学校などで使用する動画や電子教材の制作を行う「有限会社ソリューションゲート」を立ち上げた。

そして2018年、自社で販売できる新商品を!と開発したのが「ユニボ先生」だ。コストを抑えるためユニロボット社の既存ロボット「ユニロボット」を採用し、AIを使った会話機能などを搭載。子どもとやり取りしながら算数を教えるプロトタイプが完成した。

「大阪のアジア太平洋トレードセンターであったロボットのイベントに出展したのが最初ですね。2日間で80組ものご家庭が参加してくれて、子どもたちも保護者の方も一様に素晴らしい笑顔で…。これは本格的にやろう!となりました」

その後、開発と並行して不登校児支援施設や学習塾などで数々の実証実験を実施。利用者のフィードバックを受けてユニボ先生の改良を進めつつ、導入先を探している。

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(中萬学院での実証実験の様子)

「実証実験後にアンケートを取ると、子どもたちが『ユニボ先生が~~してくれた』と表現しているのが印象的でした。ユニボ先生の機能はアプリやタブレットでも代用できますが、それだと『アプリが~してくれた』とはならないですよね。ロボットによる授業は、タブレットなどでの一方的な授業とは違う、人対人に近い教え方ができる可能性を秘めています」

ユニボ先生には不登校児への学習指導、発達障害児など従来の教育方法では難しい子どもたちへの学習指導などさまざまな可能性があるが、今回RING HIROSHIMAで取り組むのは「複式学級における課題の解決」

島しょ部や中山間地域など児童数が減少している学校では、一人の先生が複数の学年の児童を一度に教える「複式学級」が行われる。これは担当教員の負担がとても大きい。広島県内の複式学級がある小学校に「ユニボ先生」を導入し、児童の学習能力を落とさず教員の負担を減らせたことを確認するのが今回の実証内容だ。

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(表情も豊かなユニボ先生。話しかけてみたい!)

鈴木さんの挑戦は、以下の流れで進行している。

2021.12 協力校の獲得と必要機材の準備
2022.01 学校側との打ち合わせ・授業見学・事前アンケート
2022.02 実証実験の実施と事後アンケート ←NOW!

コロナ禍もあり完全に予定通りではないものの、2月1日より3月末まで、三次市立青河小学校での実証実験がスタート。5・6年生の算数の授業への導入を皮切りに、他の学年や特別支援学級での実証も検討されている。

「ありがたいことに、青河小学校さん側が『やりたいことがあったら何でもやってください』と言ってくださって…。実証期間が終わってもしばらくロボットを使っていただこうと考えています。他校の先生が見学に来たりしてもらえる場になればいいなと。正直、三次市の教育委員会も含めてここまで協力いただけるとは想像していなかったですね。先生がたは長年苦労されてご自分のやり方を築いているわけで、ロボットが代わりになることに抵抗感を持たれる場合も多いんですよ。でも、青河小学校の貞丸昭則校長先生は『ワクワクします!』と言ってくださる。それが嬉しいです」

SECOND 石井彰さん

実証からビジネスに
持っていくための
お手伝いができれば

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「ユニボ先生は今後の日本に絶対に必要! 複式学級の課題については今回初めて知りましたが、実は義理の姉が教員なんです。とにかくやることが多く、傍で見ていてもパンパンだなという印象です。さらに2学年教えるなんて至難の業ですよね…」

鈴木さんのセコンドを務める石井彰さんは、計算や伝票処理などのルーティン作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の専門家。「ITの知識は数年たつと陳腐化する」と、自己研鑽のためセコンドに申し込んだ。本業では様々な企業の業務内容を聞き取り、RPAを使った業務効率化を提案するコンサルティングをしているため、ユニボ先生を今後どうやってビジネスとして社会に導入していくのかが気になるという。

「今回のように現場が興味を持ってくれれば、学校単位での実証実験はできます。でも、各学校に予算があるのかと言えばそうじゃない。じゃあどうやって導入してもらうのか。教育委員会に声をかけるのか。実証からビジネスに持っていくための筋立てを決めたりといったお手伝いができればいいなと思っています」

石井写真(講師風)

TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

自分の思い込みだけでやっていると
新しい視点が生まれない

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――実証実験の目的も明確で、着実に進行しているように思える鈴木さんのチャレンジ。セコンド石井さんとのタッグは、二人にどのような影響をもたらしているのだろうか。

石井さん:実証実験そのものは、筋道がすごくしっかりされていると思います。気になるのはやはり、ビジネスモデル化や他校での展開など、今後が明確になりづらいところですね。

鈴木さん:石井さんからビジネスモデル化に課題があることを指摘していただき、非常に心強いです。私、起業して19年目になりますが、いまだにヒーヒーいいながら会社を運営しているわけです。自分を分析すると、ビジネスを大きくすることより、ものづくりが好きなタイプだと思うんですよね。どう儲けるかとか、本当は考えなきゃいけないんですけど…。

石井さん:いや、でも根底にそれがないとビジネスにならないんですよ!本質的に何をやりたいのか、というのがないと上手くいかないんです。

鈴木さん:営業的に弱い面があるので、今後はビジネスモデルを組み立てたうえで動かないといけないですね。それにしても、RING HIROSHIMAは素晴らしい仕組みですね。ただ事業を採択されて、さあやってください!って言うのとは全然違う。自分の思い込みだけでやっていると新しい視点が生まれないのでありがたいです。

石井さん:僕はね、正直、ロボットを見てもあんまり人格を感じないんです。でも、鈴木さんと一緒に三次に行った時、子ども達どころか、先生も喜んでたんですよね。「あー、ユニボ君ユニボ君!」って…。

鈴木さん:そうそうそうそうそう(笑)。

石井さん:これは現場に行って感じられた衝撃というか、大きな気付きですね。AIロボが今後の教育現場に普及していくのは、今後必然的な姿になって来るんじゃないかと確信しました。

鈴木さん:ありがとうございます!

EDITORS VOICE 取材を終えて

令和の世界の人型ロボット。すごい時代がやってきた!と思ったのが最初の印象です。そして、ユニボ先生の未来を語る時の鈴木さんのキラキラぶり!少年のようとはまさにこのこと。未来を変える人ってのはこういう人だなと。セコンド石井さんの前のめりなほどの情熱、もっと研鑽したいというエネルギー、わがことのように鈴木さんの取り組みを語る寄り添いぶりも印象的。まだまだ話は尽きない、あっという間の90分でした。(Text by 山根尚子)

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