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「BBQ型官民共創」で人口流出STOP!【RING HIROSHIMA】

年末のささやかな楽しみ&節税としてすっかり定着した「ふるさと納税」。しかしそれに企業版があることをご存じだろうか。ある企業が地方自治体に寄附した場合、法人税等が税額控除されるのだ。今回のチャレンジャーはその「企業版ふるさと納税」を使って地方創生を目論むという。そのカギとなる「BBQ型官民共創」とは一体?

CHALLENGER「株式会社E.S CONSULTING GROUP」佐藤祐太朗さん

 
今回の挑戦者・佐藤祐太朗(さとう・ゆうたろう)さんは広島在住。新卒で広島銀行に入行し、その後会計事務所に転職。10年近く自治体の会計コンサルティングを行ってきた。そして2019年「E.S CONSULTING GROUP」を設立。引き続き自治体のDX、業務量調査など地域の課題解決に取り組んでいる。

そんな佐藤さんが今回提唱するのが「BBQ型官民共創による地方創生」。これは企業版ふるさと納税を活用した施策だという。

企業版ふるさと納税は個人版に比べてまだ全然知られてなくて。自治体にとっては数少ない財源獲得の手段であり、企業にとっては税額控除や地方貢献ができる貴重な機会。徐々に認知も広がってきて、2024年までに400億まで伸びることが予想されてます。でもせっかくの制度をうまく使えてない自治体が多くて。自治体が提示する地域再生計画が魅力的じゃなかったり、企業にとって寄附するメリットが感じられないものだったり。それを改善したいと思って提案したんです

佐藤さん

佐藤さん曰く、現状は自治体が自らの課題を一方的に提示する「レストラン型(=決まったメニュー)」の計画提案が多く、企業のニーズとマッチしてないものが多いという。であれば自治体と企業、地域のキーパーソンなど関わる人が一堂に会して、みんながWin-Winになる計画自体を作成しよう、つまりワイワイとバーベキューを楽しむ感覚で官民共創プログラムを制作していこうというのがその主旨である。

 やっぱりふるさと納税で寄附してもらうには、企業の視点を計画に盛り込まないと採用されにくいんです。それで官民が一緒になって話し合える「共創会議」を設置できればと考えました

佐藤さん

すでに進行中の具体例については後ほど述べるが、興味深いのは佐藤さん、これまで2回、RING HIROSHIMAにセコンドとして参加していることだ。

1年目は「ピロリ菌検査キットの普及」、2年目は「江田島デジタルアイランド化計画」。最初は地方創生や新規事業の開発に興味があってセコンドとして参加したんですけど、挑戦者に伴走してるうちに「自分も挑戦してみたい!」という熱がどんどん上がってきて。どの現場でも刺激はあるし、つながりも広がっていくし。とりあえず今回はダメ元でいいからチャレンジャー側で応募してみることにしたんです

佐藤さん

セコンドから挑戦者への転身はRINGとして初。後方支援のアドバイザーからファイターへ。3度目のRINGで佐藤さんはこれまでと違うゴングを聞いたのだった。

SECOND「株式会社ローンディール」後藤幸起さん

 
そんな元セコンド・佐藤さんに付くのはこちらも初回からフル参加、セコンド歴3年目となる後藤幸起(ごとう・こうき)さんだ。

 個人版のふるさと納税はやったことあるけど、企業版は全然知らなくて。最初は「どういうこと?」と思ったのが率直な印象です。ただ佐藤さんの話を聞いていく中で、まだ誰も手を付けてない領域であり、いろいろやりようがありそうだということは感じました

後藤さん

後藤さんが所属する「株式会社ローンディール」は大企業人材のベンチャー企業への「レンタル移籍」を手助けする会社。そういう意味で、今回官民共創を進めるにあたって大企業のニーズをヒアリングしたい佐藤さんのサポートにはうってつけだ。また、同じセコンド経験を持つ佐藤さんの気持ちもよくわかるという。

 僕の本業も挑戦する人を応援する仕事。僕も普段仕事してて、応援する側から自分が舞台に上がってみたくなる瞬間は多々ありますからね。だから佐藤さんの行動はすごく理解できます

後藤さん

これまで見たことのないタッグの形ができあがった。

 すでに進行中のプロジェクト
「海ッションインポッシブル」


さて、そのBBQ型官民共創のカタチとして実は1つのプロジェクトがすでに動き出している。それは「広島に魅力的な海を作り出す」ことを目的にした「海ッションインポッシブル」。広島県が主催して地域の課題解決を行おうと多くの地元企業が集まった「SCRUM HIROSHIMA(スクラムひろしま)」に参加した広島テレビが中心になって立ち上げたプロジェクトだ。

「海の魅力で人を呼べていない」という社会課題への取り組みを広島テレビが番組で放送
趣旨に賛同した多くの企業が協力している

 これは江田島の海をきれいにしたいという問題と、企業の環境活動の取り組みをタッグを組んで進めていこうという試みです。環境に優しいカキ筏で作った「地球にやさしいカキ」に江田島市が認証を出し、それを広島テレビさんが『かき小屋コットン』という番組を作って宣伝し、さらに他の企業さんが販路として扱うことで循環的なシステムが作れないか。僕たちはプロジェクト全体のデザインに携わっています

佐藤さん

ただし「海ッションインポッシブル」は実証期間中に寄附を集めることが不可能なため、あくまで今回のRINGのゴールは「企業としてどんな施策だったら参加しやすいか?」について大企業にヒアリングを行うこと。あとベンチャー経営者が議論する「アウトサイト」という研修プログラムにも参加して、大企業からフィードバックをもらう。これはどちらも後藤さんのネットワークが活かされた実証実験である。

 いま「海ッションインポッシブル」に関しては水面下で動いてて。それが表に出た時にどんな打ち手を用意しておけるか準備してるところです。それを元に、今後は他地域への横展開も進めていければと思ってます

佐藤さん

個人的には江田島のプロジェクトが特殊なので、今後横展開するとなった時に再現性が難しい気がして。それをスムーズに進めるため大企業のCSRや新規事業などの文脈をRINGで検証できたらと思ってます。あとこの取り組みは1自治体ずつオーダーメイドで取り組まないとできないので、佐藤さんに負担がかかりがちで。佐藤さんがいなくても進行できる仕組みも作っていかなければいけません

後藤さん

官民共創をBBQにたとえるなら、今は食材の調達も、参加者への声掛けも、火起こしも、当日の進行も、場所のセッティングもすべて佐藤さんの肩にかかってる状態。それを分担できるBBQファシリテーターの育成も必要だろう。

まあ僕はうちわを用意したり、トングを用意したり、事前の下準備をやってるくらいですけどね(笑)。あと「こんな人、来ますよ」とか「こういう人がいるから一緒にBBQ行きません?」って連絡するのは僕の役割かも

佐藤さん

なんだか楽しげなBBQ型官民共創のイメージ、だいぶ湧いてきたんじゃないだろうか。

阻止したい地元広島の危機
2年連続転出超過ワースト1


着々と形ができつつある佐藤さんのプロジェクトだが、実はその裏には広島ならではの深い問題が横たわっている。

広島県って2年連続転出超過ワースト1位なんですよね。それも転出してるのは20~35歳の世代。これって広島にもっと挑戦できる環境があったり、多様な働き方の可能性があれば減らせるんじゃないかと思うんです。僕にも男の子が2人いるので、仕事の選択肢が都心にしかないという状態はどうなのかと思って。僕は生まれも育ちも広島ですから

佐藤さん
佐藤さんが手掛けた江田島のシンボルとなる日本酒。故郷の仕事に魅力があれば…

佐藤さんがRINGに上った理由は、故郷に対する強い危機感だったのだ。

金銭的な面や情報の速さを求めるなら都会に勝てないと思うんです。でも自然や地域資源を活かした挑戦であれば地方にも可能性がある。でもそのためにはお金を回していく必要があって、自治体にはお金がないので企業にメリットを感じてもらって、そのお金が地元のプレイヤーに落ちる仕組みを作らなければならない――最終的にはそういうエコシステムを広島に作れればと思うんです

佐藤さん

僕、これまで個人向けのふるさと納税をやってたけど、去年からやめたんです。というのも返礼品に惹かれて自分が住んでる自治体に税金を納めないのは納税者としてどうなんだと思うようになって。今回も佐藤さんのプロジェクトに関わったことで「それぞれの自治体がちゃんと努力しないといけないんだ」って自分事として考えられるようになりました

後藤さん

セコンドとチャレンジャーが微妙に重なり合いながら、それぞれのキャリアで学びと気付きを深めていく。もしかして今後、タッグマッチのように2人揃ってRINGに上がる日が来ても、もう誰も驚かないだろう。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

 
最初「BBQ型官民共創」と聞いて「BBQ? また何か最新型のビジネス用語か?」と思ったのですが、そのまんまバーベキューの略だったとは。しかしそのプロジェクトが個人的に広島の最深刻案件と感じている「転出超過ワースト1」を改善するための策と聞いて、取材にもチカラが入りました。せめて自分の子供たちが夢を持って働ける街であってほしい。故郷に失望し、地元を見捨てる姿だけは見たくない――同じ子を持つ親として、切実に感じた瞬間でした。

(Text by 清水浩司)


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