PMSって知ってますか?オンナとオトコの間の深い溝 【RING HIROSHIMA】
月一回女性がしんどくなる原因、知ってますか。月経? 残念ながら答えはそれだけではありません。月経開始の数日前に身体に現れるさまざまな不調、総称して「PMS」についてもお忘れなく。ということで、PMSや月経に対する男性の理解を促したい!とリングにやってきた女性をご紹介します。
CHALLENGER 県立広島大学大学院経営管理研究科・岩下三希さん
月経前、腰痛が1週間ぐらい続いたり、気分のイライラがあったりという症状に毎月悩まされると言う岩下さん。生理痛に加えて貧血もあって、しんどくなる時期、パートナーとの関係もギクシャクするそうです。
そんな岩下さんは大学院で学びながら働く現役の会社員。女性が多く、長時間の接客サービスを伴う職場で働く中で感じたことが、この問題に取り組もうと思ったきっかけでした。
「勤務先に生理休暇があっても使いやすい環境ではない。女性の健康にシビアな業界なのに、それに対して会社が着手しない。それでこのテーマで挑戦してみたいと思ったんです」
大学院でMBA取得を目指す岩下さんは起業家を目指して勉強中。そんな中、PMSに対する啓発を事業化できないだろうか、と考えました。
具体的な目標は、啓発のためのワークショップを開催すること。それに先立ち、PMS・月経の理解度や意識を調べるアンケートを実施し、短期間で回答を集めました。
「ご結婚されている男性は、パートナーがいらっしゃらない方に比べると、月経やPMSに関する関心や知識量が多いというのが結果を通じてわかりました」
男性への啓発が当初の目的でしたが、新たな気づきも。
「女性の4人に1人は我慢しているというか、対応策がわからないから放置してるとおっしゃっていました。男性の知識はもちろん、女性の知識も意外と見過ごされてるなって。皆が知るべきトピックだというのが大きな収穫でした」
「もっと知りたい」という前向きな姿勢や意欲が、男女通じて感じられたそうですが…。
「啓発をお金にするってすごく難しい。セミナーやワークショップという位置づけはできても、その先の、マネタイズされたビジネスモデルを作るところで苦戦しています」
そんな岩下さんの悩みを隔週聞きながら、アドバイスを続けているのが後藤さんです。
SECOND 後藤幸起さん
学生時代に起業し、広告や人材派遣などの業界を経て、現在はCOOを務める会社で500社以上のスタートアップとのお付き合いがあり、ヒューマンリソースに精通している後藤さん。新規事業立ち上げの経験も豊富です。
「幅広い業種のスタートアップとやり取りすることが多いんですが、ここ1年から1年半ぐらいでフェムテック系ベンチャーが出てきたと感じます」
フェムテックという言葉、最近耳にする機会が増えました。Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語で、女性の健康課題をテクノロジーの力によって解決に導く製品やサービスを指します。
「でも、大きなイノベーションで勝ち筋を見つけて、事業が軌道に乗って大きくなった会社はまだほとんどない。これからのマーケットなんだろうなと」
これまでさまざまな起業の現場を見てきた立場から、新規事業が成長する重大な要素のひとつは「時代の流れ」だと言います。
「時代の流れがないとビジネス化するのが難しいなと思ってるんですけど、その流れからすると少し先に進み過ぎちゃってるなっていう感覚はあるものの、ビジネス化はいずれできるだろうなっていう感覚」
こういう考え方もある、とかこうした方がいいんじゃないか、みたいな話はしつつも、最終的には岩下さんの決断を信じていると言います。
ただ、斬新なアイデアも時代が追いついてしまったら競合してあっという間にレッドオーシャンになってしまう。先取りしすぎも難しいけど、時代が追いついてしまったらもう遅い。啓発をマネタイズすることの難しさを乗り越え、限られた実証時間の中で具体的なアイデアに辿り着けるのでしょうか。
後藤さんは自身の体験談を教えてくれました。
「大企業に勤めながら1年間、期間限定でベンチャーで働くという仕組みをやっている。今まではそういうのなかったので『本当にそれってビジネス化できるのか』ってみんなに言われました。『そんな世の中が来たらいいよね』とも。そんな世の中来るはずないじゃんって言いながら実現していくみたいな。感度の高い人たちが共感してくれるかが鍵」
PMSがテーマの挑戦に、男性として関わることへの躊躇などはなかったのでしょうか。
「年の離れた姉が2人おり、現在の勤務先もほとんど女性。だけど、PMSって単語は今回岩下さんとご一緒して初めて知ったんです。月経前はお腹痛くなるぐらいの知識はうっすらあったけど」
女性なら誰でも知っているし体験していること。でもやはり、男性にはなじみのない言葉。
「このプロジェクトをやることになり、『PMSって知ってる?』と妻に聞いたら、『何のために毎月サプリメント飲んでると思ってるの』って(笑)。理解してなかったことを痛感しました」
私たちの「ウェルビーイング」を求めて
大学院では理論を学ベるけれど、実践部分で越えきれないところがあるーー。そのもどかしさが、RING HIROSHIMAへの参加理由という岩下さん。
「後藤さんの存在はすごくありがたくて。私にない考え方や男性側の意見、さらに起業家、一役員としての目線も持ち合わせている。いったん受け取った上で、『それって近未来で起こることか』『それってお客さんが求めてることか』って、リアルと理想の狭間をコーディネートしてくれるので貴重な存在」
ワークライフバランスの見直しとともに、昨今よく聞かれるようになったウェルビーイングという言葉。狭義の健康ではなく、感情として幸せを感じたり、社会的に良好な状態を維持していることを意味します。
「ウェルビーイングって自分の周りの環境が健康なのかも大事だと思う。自分の身体的精神的なケアとか病院行ったりとか、自分だけでも解決できる問題かもしれないけど、やっぱり周りの理解は、生きていく上でも働く上でも大事」
3姉妹で育ち、祖父母からも女の子として大切に育てられ、女性が多い職場で働いていても、直面するのは男性優位社会。そんな中で、「女性にとってのウェルビーイング」について考えるようになったといいます。
「男女関係なく、みんなが活躍できる社会が平等性ってところで見えてきたら。私のプロジェクトが一助になれるかわからないけど、いろんな人を巻き込みつつ何とか実現させていきたい」
今期が2回目のRING HIROSHIMAへの参加となった後藤さんは、実務で日本各地を見てきた上で、社会の課題解決に向けたイノベーション支援に取り組む広島県を「だいぶ先んじている」と評価しています。その上で、岩下さんにエールを送りました。
「真正面から『変わりましょう』って言っても、なかなか社会は変わらない。だから、そこがアイディアのひねりどころ。ビジネスなのか、ビジネスじゃないのかわからないけど取り組んで、気づけばちょっとずつ浸透していってるよね、って持っていけたら。あるべき社会に向けて、今回はPMSというアプローチだけども、多分違うアプローチをやる人もそれぞれいて、変化球を投げてみたりしながらやっと近づいていくものだと思います」
●EDITORS VOICE 取材を終えて
コンビニで生理用ナプキンを買ったとき、頼んでもいないのに茶色い紙袋に入れる店員に出会うたび、「隠すことでもないのに」とモヤり続けていた私。でも、そういう配慮が、オープンな議論のしにくさを着実に生んでいたように思う。オンナの悩みはオトコの課題、逆もまた然り。みんなにとってのウェルビーイングを、みんなで追い求めよう。(Text by 宮崎園子)