ソーシャル×エシカル×ファッション。デニムの端切れがつくる未来とは【RING HIROSHIMA】
社会との関わりを避け、半年以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す「ひきこもり」。政府の調査では全国に150万人ほどの方がひきこもり状態にあるとされています。こうした方達の社会参加の形について模索を続けてきた岡山の男性が、デニムの端切れをアレンジして作ったジャケットを身につけてRING HIROSHIMAにやってきました。彼がデニムを活用してやりたいこととは…?
CHALLENGER NPO 法人吉備たくみ会 内田和雄さん
岡山出身の内田さんは高校卒業後、ニューヨークや東京を経て福山市の障害者就労支援事業所で5年間支援員に。その後、2015年に倉敷市で法人を立ち上げ、障害者の就労支援事業に取り組んできました。そこで分かったこと。
「だんだんと障害者じゃない方の相談が増えていった。ひきこもり状態とかグレーゾーンといわれる発達障害で障害者には認定されない、かといって一般の企業などで働くと厳しいものがあって仕事が続かない人たちです」。
こうした人たちに対する支援は圧倒的に足りません。そんな中で内田さんは、10〜40代の20人以上の方々を受け入れ、一般就労につなげてきたそうです。
自宅から出ることが難しい人にどういう仕事を提供したらいいか。考えているうちに、この4月に思いついたのが、デニムのアップサイクルでした。
定規で三角形を書いて、デニムパンツの部品から一枚一枚生地を切り出してもらう。それを買い取ったものをつなげ、大きくしていって、ジャケットなどの製品として売る、という内容。
裁断作業から始め、どのようにやっていこうかというとき、RING HIROSHIMAの募集があったそうです。
もともと福山=広島に縁がある立場。備後備中エリアの地場産業でもあるデニムを使った事業に全国展開できる可能性を感じ、他地域に広げるためのステップとして広島で実証実験ができたら、と応募しました。
SECOND 株式会社ノテモ 寺岡良浩さん
高校卒業までずっと福山。東京で30年弱、インターネット関連の仕事をしてきた寺岡さん。今はネット通販ECの仕事が中心で、広島の某薬品メーカーでのEC戦略コンサルティング支援も手がけています。
RING HIROSHIMAは、昨年から引き続き2回目(去年はバイオインディゴ)。「地元に貢献できる仕事ができたらと思って」
というわけで、寺岡さんは2年連続でインディゴ案件です。
SECOND 学校法人産業能率大学総合研究所 富永宏一さん
広島市出身在住の富永さんもまた、セコンド経験者。前回は、デジタルスキル習得による育児中女性の就業支援のプロジェクトに関わりました。
マネジメント研究機関で働く富永さんは、社会人教育部門で、会社や行政のコンサルティング、研修指導に携わってきた方。地元NPOにもプロボノの形で色々参加している、熱心な知恵袋です。ご本人は「多分参加者最年長なんで、スターウォーズのヨーダみたいなじいさんになりたい」との弁。
さて、デニムの端切れのアップサイクルプロジェクト。ご存知でしょうか。製品をいったん原料に戻す「リサイクル」と違って、製品をそのまま再利用することを「アップサイクル」と言います。
「工芸品も、クッキーもやってきた。デニム製品もその一つ。いろんな特性を持った若者がいるので、いろんな事業に取り組まないとそれぞれの長所を生かすことができない」。
家具工場や木工作業を行うB型就労支援事業所で働いていた内田さん、最初は木工を中心に始めましたが、女性利用者からミシンを使った作業がやりたいとの要望があり、工業用ミシンを導入しました。「デニムの名刺入れをつくる自治体の案件に取り組むこととなり、デニム製品を製造している地元企業とのつながりができ、デニムの端切れを使うことを思いついたんです」。
「一番は販路。営業的な面で力を貸していただきたい。やり方のモジュールを作ったら、この後大阪や東京で販売する流れができるんじゃないかなと。材料調達ではメーカーが福山には多いので、そういう文脈で横展開できる」
ECの経験豊富な寺岡さんの感触は。
寺岡さん「社会的な意義。引き込もりの方が仕事を得て、それを経済として回すことによって存在意義というか、社会復帰のきっかけになるような事業になっていく可能性が興味深い。材料として廃棄用のデニムを使っているので、エシカル的な文脈もある。どっちの方向で行くのがいいかはマーケティングの話だが、両方どちらも面白い切り口だなと」。
アパレル企業にいたこともある寺岡さん、販路開拓で知恵を出せたら、と考えていました。「単独でブランドロゴとか作ってブランディングを進めようとしても、単独で突き抜けるには時間がかかる。大手ブランドと組むとか、ムーブメントを起こしやすいパートナーに理解してもらって組むとか」。
大手と組むとなると、ある程度の生産量を担保しなければならないのがネック。そのために、事業体としてしっかり生産できる体制を作る必要があると指摘します。
「かっこいいんだけど、よくよく見ると、ちゃんと裏にストーリーがある」。そこがポイントだと富永さんは言います。「3点あって、一つ目がソーシャル。つまり、ひきこもりや不登校の問題を解決したいということ。二つ目は、端切れを使うという環境面。そして三つ目は、ファッション。おしゃれでかっこよくないとねっていうところにストーリーがありますよね」。
内田さん、偶然の良き出会いに恵まれました。備後地域のさまざまな企業などが参加している研究会「備後デザインサロン」がきっかけで、デニム生地で全国シェア50%もある「カイハラ」(本社・福山)とのつながりができたそうです。
デニムの端切れの話をしていたところ「カイハラさんのところに廃棄する生地がたくさんあって困っているらしい」と聞き、コンタクトを取ると「ぜひ」との反応を得て、端切れの提供を受けられることになりました!
さらに、福山市若者・くらしの悩み相談課にも連絡し、福山で廃棄デニムを生かした実証実験をできないか提案したら関心を示してもらったとか。企業はNPOと結びつきを模索しており、行政はなかなかフットワークよい動きが作れない。そこにスポッとはまった格好です。
うまいこと行き過ぎな感じですが、RINGの限られた実証期間内での課題は。
寺岡さん「これは3人のコンセンサスだと思うんですが、実証実験中にまずその物を販売できる体制に持っていくのが一つのマイルストーン。実店舗を持つよりもネットで販売するのが近いと思うので、そこに置いてどういうふうに立てつけていくか。インターネットでどう見せるかとか、その辺の知見はやっぱ私の方がある程度あると思うので、力を合わせてやっていく」
富永さん「アパレルの世界ってどう出るかわからない。ある雑貨店が革のバッグを作って東京のある美容室に置いていたら、口コミでどんどん広がった、なんて話も聞いた。ECも大事だけど、店にもそんなチャンスがある」。
型を使って生地を細断するだけでなく、ECであるならば、たとえばネットにアップする写真とか、販売作業とか、そういったところにも参加してもらう余地があるのでは?
寺岡さんは「それは可能性として考えていて、写真撮るの上手い人とかデザインできる人、いろんな人がいると内田さんから聞いたので、それぞれの関わり方はある。まずはしっかり作り上げて、彼、彼女たちがどこでどう関与できるかを模索していく」というイメージを抱いているそうです。
内田さんは、どのような手ごたえを感じているのでしょうか。
「自治体の人たちって、他の自治体と僕の団体が関係してると、問い合わせをしてくる。RING HIROSHIMAという県の事業だということ、福山市から県に問い合わせがあったらしい。県から採択されてるっていうのは、一種認められてるっていうことで、その辺でありがたいです」
ベテラン富永さんは、「寺岡さんもわたしも、何とか広島を元気にしようってのがベースにあるんですけど、湯﨑英彦知事がスタートアップや起業に関心が高い。そういう文脈の中で広島が持つリソースを使って広島を盛り上げていくのが一番のポイント。全面的にバックアップできれば」と語りました。
EDITOR'S VOICE 取材を終えて
買い物で、同じような何かの間で選ぶとき、「社会課題の解決につながる」という付加価値は消費のインセンティブになる。わたしのように、モノを作って売る側ではなく、消費する側の人間からしたら、わたし自身の消費行動によって何か小さくても社会貢献ができるならば、と思うから。自己満足かもしれないけれど、社会が変わっていくドライブって、結局はそんな小さなことの積み重ねなような気がする。(text by宮崎園子)
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