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バイオインディゴの冒険【RING HIROSHIMA】

デニムなどの生地の染料として使用されているインディゴ。それってアレでしょ? 藍っていう植物から作られてる天然素材だよね――と知ったかぶったこと言ってるアナタ、少々お待ちを。確かに紀元前~1800年代後半まで藍は天然でしたが、1900年代に入り化学合成技術が発達すると合成インディゴが主流となって、現在天然モノは市場5%程度。

ふーん、と豆知識に感心したところで、もうワンステップ。そのインディゴの最新の冒険、気になりません?

CHALLENGER「マイクロバイオファクトリー株式会社」清水雅士さん 


今回のチャレンジャーは清水雅士(しみず・まさし)さん。東京理科大学~同大学院で生物工学を専攻。2018年に「マイクロバイオファクトリー株式会社」を創業した。

もともとバイオでのものづくりに興味があって、学生時代から起業したいと思ってたんです。当初は石油から作られる化学製品全般を植物バイオマス資源で作れないか研究してました。その過程で微生物でインディゴが作れることがわかって。それで市場調査したら環境問題に関心のあるアパレルも多いと知って、「これなら収益化できるかも」と事業化を進めていったんです

マイクロバイオファクトリー(株) 清水さん
石油を使わずバイオ化学で作ることで多くのメリットが

「マイクロでバイオなファクトリー」で清水さんが目を付けたのは件のインディゴ。インディゴといえばデニム、デニムといえば備後!――ということで「デニムやジーンズの生産が盛んな広島で、自社製のバイオインディゴを使った製品を開発する」という企画でRING HIROSHIMAに応募した。エシカル消費などの機運も高まるファッション業界に向け、オーガニック染料の商品化に取り組むつもりだったのだ。

しかしプロジェクトはいきなり暗礁に乗り上げる。想定していた広島の企業と協業できなくなってしまったのだ。採択直後の想定外。清水さんは新たな可能性を模索しなければならなくなった。

SECOND① 寺岡良浩さん

そんな清水さんに付いたセコンドは2人。まず1人目の寺岡良浩(てらおか・よしひろ)さんはネット通販やマーケティングの専門家。福山出身という縁もあって地元貢献のため応募した。

デニムは広島で盛んな産業。だからバイオテクノロジーを使った染料とは接点があるだろうと思いました。私的にはこれをどう事業展開していくか、アイデア出しで貢献しようと考えました

寺岡さん

SECOND②「ツネイシキャピタルパートナーズ株式会社」鯉江洋輔さん

もう1人のセコンド、鯉江洋輔(こいえ・ようすけ)さんは「ツネイシキャピタルパートナーズ株式会社」所属。ツネイシといえば福山。そして普段の仕事もスタートアップの支援という適役だ。

私は普段からベンチャーキャピタルの仕事をしていて、いろんな会社を見てるんですけど、その中には「本当にできるの?」と思うようなものもあって。でも清水さんの事業は継続的に発展していけそうな、事業化できるビジネスだと感じました

ツネイシキャピタルパートナーズ (株)鯉江さん

両サイドに付いたセコンドに共通するのは「福山」。RING HIROSHIMA的に全力の備後シフトを組んで、バイオインディゴの挑戦ははじまった。

想定外の事態に
すぐに「プランB」発動

県内でのバイオインディゴ生産は壁にぶつかったが、すぐに清水さんは「プランB」に切り替えた。以前から研究していたインディゴ染料のリサイクルに取り組むことにしたのだ。 

ユニクロとかでも服のリサイクルをやってるけど、あれは繊維を回収して新しい繊維に仕立てるというもの。私たちがやろうとしているのは回収した服から染料を抽出して、それを再利用するというもの。廃棄ジーンズや染色工場で発生する糸や生地の端切れから染料が取り出せれば資源の活用になる。世界的に見ても、服から染料を作り出す取り組みはほとんどやられてませんからね

マイクロバイオファクトリー(株) 清水さん

AがダメならすぐにB。こうした切り替えの早さはトライ・アンド・エラーが欠かせないアントレプレナーに必須の資質のように思われる。

RING HIROSHIMAでは春までになんらかのアウトプットがなければいけないので、清水さんはリサイクルインディゴにテーマを切り替えたんです。私たちはそれをいかに企業成長につなげられるかシナリオを作りました

ツネイシキャピタルパートナーズ(株) 鯉江さん

みんなで半日かけていろいろブレストしましたけど、将来的にどういう会社を目指すかについては特にじっくり話しました。実際バイオインディゴで染めた生地を見せてもらって、それを触りながら話してるといろんな発想が湧くんです。清水さんが手染めで作る手作り感もいいなって思いました

寺岡さん

リサイクルインディゴに関しては現在県内のデニム関連企業と共同で、同社の製品をリサイクルインディゴで染める実験を行っている。

衣料から染料を抽出する試みは世界的にも珍しい

一方、プランAもまだ完全に死んだわけではない。「広島県内の企業とコラボして製品を作る」ことから派生して、広島ゆかりのプロダクトデザイナーと試作品を作れないか探っている。

今は広島県が主催したデザインコンテスト「広島デザインチャレンジ2021」に参加した方を紹介してもらって、バイオインディゴを使って一緒に商品を作れないか相談している最中です

マイクロバイオファクトリー(株)清水さん

企業の成長のため、さまざまな方面に同時進行でアプローチをかける。今回のプロジェクトに関しては現状「プランB」と「プランA’」の双方向で実証実験が進められている状態だ。

2023年には自社製インディゴを
使った商品を売り出したい

RING HIROSHIMA採択後のアクシデントに関して、清水さんは涼しい顔だ。

想定外もあるけど、おおむね順調に進んでます。以前から福山地域との連携は意識してたし、それがRING HIROSHIMAをきっかけに加速したという印象です。入口は変わったけど出口は変わってないんで、結果良ければいいのかなって

マイクロバイオファクトリー(株) 清水さん

「結果オーライ」のしなやかさと、基本のところはブレない姿勢。それはセコンドから見ても頼もしく映るという。

私も仕事でスタートアップの方々と会うことは多いけど、そういう人はみんな「世の中を変えていこう!」というアントレプレナー気質を持ってるんです。齢をとると途中の方針変更は難しくなるけど、清水さんはそこを軽々と突破していく。持ち前の技術と噛み合えば、突き抜けていくと思います

寺岡さん

起業に不可欠なのは、愚直に頑張る勤勉さと情熱だと思うんですけど、清水さんは手足を動かすのも早いし、頭を動かすのも早い。ちゃんと自分で考えて行動できる人だと思います。広島の地場産業として定着できるよう、引き続き支援していきたいです

ツネイシキャピタルパートナーズ (株)鯉江さん

現在、進めている試作品が年内には完成予定。そのメドがつき次第、生産体制に入る予定だ。

バイオインディゴで染めた靴下など。商品化を目指す

自社製のインディゴを使った商品を2023年には売り出したいと思ってます。量産するにはまだまだ時間がかかるんで、最初はクラウドファンディングなどを使って少量からでも進めていければ

マイクロバイオファクトリー (株)清水さん
清水雅士さん (左上)、寺岡良浩さん(右上)、鯉江洋輔さん(下)

そのジーンズは天然インディゴなのか? ケミカルインディゴなのか?
はたまたバイオインディゴか、リサイクルインディゴか?――

デニムを見つめるモノサシが一歩深まる予感がしている。

微生物が生成するインディゴ染料、新たなスタンダードになれるか?

●EDITORS VOICE 取材を終えて

まず、現状のデニムを染めている主流が化学薬品を原料にした合成インディゴってことに驚きました。色落ちとか風合いとか言われてるけど、そのほとんどはケミカルなんですね。

で、そこに新風を吹かすバイオインディゴ、リサイクルインディゴ。世界的に評価の高いデニム産地・福山だけに、これぞまさに広島で進めてほしい案件。「デニム 2.0」じゃないですが、アップデートされた藍染が、広島からグローバルに広がっていくといいなって思います。なんというか「備後とインディゴ、これぞBINGOな組み合わせ」――いや、ホントすいません…。

 (Text by 清水浩司)


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