「広島大トロこおろぎ」が人生100年時代を変える!?【RING HIROSHIMA】
写真は広島県廿日市市のお好み焼店「峠道 TAO TAO」の人気トッピング「広島大トロこおろぎ」。さっくり香ばしくてほのかな甘みを感じるというこの食用コオロギが、将来的な食糧難、そして日本のシニア雇用を変えようとしている。案ずるより食べるが易し!
CHALLENGER「株式会社ACORN徳の風プロジェクト」高橋貴幸さん
最初はいつも面白半分。
アメリカの球場で見た
コオロギの唐揚げが旨かった!
謙遜しつつもとにかく豪快。画面から飛び出してきそうなエネルギーを感じる「株式会社ACORN徳の風プロジェクト」高橋貴幸さんが今回のチャレンジャーだ。40年ほど前、食用油をリサイクルして車両燃料やペンキ、インクなどにする事業をスタート。この事業を基盤としながら、常にアンテナを働かせ新しい取り組みに挑戦してきた。
これまでに試したものの一つが、ウジ虫を使った糖尿病治療(マゴットセラピー)。ロシアの宇宙食で、人糞からウジ虫を育てて人間のたんぱく源にするという研究(ひえ~)を知ったことがきっかけで取り組んだそうなのだが…。
(失敗を語るときも笑顔!)
その後、フランス料理にコオロギを使ったメニューがあることや、アメリカの球場でコオロギの唐揚げをビールと一緒に食べているのを見たことなどをきっかけに、食用コオロギの養殖を思いつく。
2017年からスタートした高橋さんの食用コオロギ事業は、その養殖方法の細やかさから、国産昆虫食のパイオニア的企業である「TAKEO」に注目され、「広島大トロこおろぎ」の名前で商品化される。
(広島県産フタホシコオロギをロースト。気になる人はTAKEOオンラインショップで…)
こうして生まれた「広島大トロこおろぎ」は、記事冒頭に登場したお好み焼き店をはじめ、「ACORN徳の風プロジェクト」がある廿日市市の飲食店4店舗でメニューとして提供中。コオロギ目当てに全国から集客があるそうで、地元の活性化にも寄与している。
さらに高橋さんが見据えているのは、この養殖事業を全国的にフランチャイズ展開すること。現在あるコオロギ養殖のマニュアルを精査して大規模生産できるようにし、コンテナ単位で企業に委託。養殖のための材料をフランチャイズ先に販売、収穫されたコオロギを買い取って全国に加工・販売していくというビジネスモデルを目指している。
(コオロギ養殖コンテナの内部。成虫に育つまでの1サイクルが40日程度だ)
実はこのフランチャイズ化には、これから深刻になっていく高齢者や障害者の雇用問題を解決するという狙いもある。
来るべき食糧難時代への布石、地域の活性化、さらにはシニア雇用や農福連携への広がり。「面白そうだから」と食用コオロギを育てるに留まらない高橋さんの発想の広さ、深さには驚かされるばかりだ。高橋さんたちの食用コオロギ養殖のもようは、広島県の「ひろしま県民テレビ」Youtubeでも配信中。こちらもぜひ見てみてほしい。
SECOND 武田洋之さん
凄いのはデジタル技術じゃない
革新的であり続けること。
高橋さんは真のイノベーターです
高橋さんのセコンドに就任したのは、IT企業の武田洋之さん。これまでのひろしまサンドボックス事業でも、大崎下島でのレモン養殖のIoT化などに取り組んできた。一次産業をデジタル技術でサポートしていくことは、武田さんのライフワークの一つでもある。
今回のRING HIROSHIMAでは、食用コオロギ養殖事業をもう一段階加速させるため、武田さんの協力のもと以下の実証を行っている。
●フランチャイズ化に向けた養殖マニュアルの精査
●コオロギパウダーを加工製品化するための技術検証
●将来的に加工製品を販売するためのブランディング
なかでも、コオロギを加工品にするために必要な乾燥機の導入とパウダー化は、今回の実証実験で進捗したことの一つ。これまで乾燥に24時間以上かかっていたものが大幅に短縮された。
(武田さんの協力により、木原製作所(山口県企業)から導入した乾燥機)
今後は、食用コオロギの販売というだけでビジネスがシュリンクしてしまわないよう、この乾燥機によって作られたコオロギパウダーを使った加工商品の開発・六次産業化を目論んでいるという。
TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”
僕らがやっとったことは良かったんだと
自信を持って言えます
――最初のころは週1回、今では2日に1回は連絡を取り合うという高橋さんと武田さん。実証期間も終わりを迎えようとしているが、RING HIROSHIMAでの出会いは二人にどんな影響を与えたのだろうか。
高橋さん:RING HIROSHIMAは、うちの若いもんがインターネットで見つけてきてダメもとで申し込みました。広島県となんかやってみたい、いうて。おかげでいろんなアドバイスいただけて、ありがたく感じております。武田さん見た時は、広島にこんな男前がおるんか!と思いましたね。顔だけじゃないですよ、考え方が深いいうんですかねえ。僕は失敗してもええからやってみよういうタイプですけど、武田さんは違うね。石橋をたたくというか、いろんな方面から意見をくれますわ。
武田さん:自分で言うのもなんだけど、僕みたいな人間を『石橋を叩いて渡る』って言うなんて、高橋社長のスピード感は相当なものです(笑)。だからこそ、社長の周囲におられる方が、その行動力をきちんと事業として起こしていくことが必要。そこを今支援させていただいているつもりです。
高橋さん:あと補助金ね!今まで補助金なんて貰ったことなかとですよ、嬉しゅうてねえ。100万円いつ入るんじゃろ~って毎日銀行通帳チェックしてますわ。ははは、僕こんなんばっか言いますから、いつも武田さんに怒られるんです。
武田さん:今後は観光庁なんかの公募にもどんどん応募したらいいんですよ。こういう助成金の情報を伝えたり、申請のお手伝いをすることでも支援していきたいですね。広島県庁や各市町からも関係者を繋げて、この事業が全国に展開していくきっかけが作れれば嬉しいです。
高橋さん:皆さんに面白がってもらえて、僕らがやっとったことは良かったんだなと勇気を持って言えます。明日もね、近くの飲食店貸切ってちょっと広島こおろぎの名物を作ろうとしとるんですわ!これはまだあんまり言えんのんだけど…。武田さんのおかげで凄いものができますんで!!広島はもみじ饅頭だけじゃないよ!!!力作が出ますよ!!!!
武田さん:社長、まだ言っちゃだめなんで、もうそのへんで…(笑)。
EDITORS VOICE 取材を終えて
「本当にイノベーティブな人っていうのは、デジタル技術に長けている人じゃない。イノベーションを起こせる人のことを言うんだ」というセコンド武田さんの発言が、今日の取材だけではなく、ひろしまサンドボックス事業のすべてを表しているなと感じられる時間でした。人生100年時代、定年後の生業として広島では食用コオロギを育てるのが普通…そんな社会になったら本当にすごい。可能性の塊のような挑戦に感銘を受けました。とりあえず私も廿日市市にコオロギお好み焼きを食べに行きたいと思います!(Text by 山根尚子)