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地域のために。Z世代が作るVR商店街【RING HIROSHIMA】

バーチャル空間で会話やイベントができるVR SNS。
この記事を読んでいる皆さんは、もう体験しましたか?
筆者はまだです。(興味だけはあります)

RING HIROSHIMAに挑戦中の松尾龍弥さんと安部貴弘さんは、広島工業大学情報学部に所属する大学生。
3Dプリンタが並ぶ研究室で取材を受けてくださった2人は、株式会社ドラッグアンドドロップとして、社会課題を解決する一手に挑みます。

その手とは、VR SNS上に商店街を再現すること。
もちろん品物を販売・購入できます

「いまどきの大学生」と侮るなかれ。
セコンド・下定弘和さんに「天才」と言わしめた2人と、RING HIROSHIMAでの実証実験をご紹介します。

CHALLENGER「株式会社ドラッグアンドドロップ」松尾龍弥さん・安部貴弘さん

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チャットやウェブ会議によるコミュニケーションと、VR SNSとの違いは、距離の概念があること。
ウェブ会議ではお互いの声が重なって聞き取りにくいことがありますが、VR空間では、アバター同士が少し離れると声が聞こえなくなるので、雑談にも向いています。(松尾)

4年ほど前まで、VRを楽しむにはゲーミングパソコンと30万円台のVRゴーグルが必要でした。
最近は10分の1ほどの価格で手に入ります。また、VR機器がなくても、パソコンだけでVR空間に入ることができるようにもなってきているのだとか。

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私は2年ほど前から“VRの民”です。この大学を選んだのも、VRに関する研究室がたくさんあったから。
今はVRの専門家に近い状態になってきているので、そこを活かしていきたいです。(安部)

これがZ世代か…バーチャルな空間で生きているのね、と思っていたら。
リアルな社会課題も見つめているところが、さすがチャレンジャー。
実証実験の目標は、VR空間に広島の商店街を再現して、VR SNS上で販売活動を行うことです。

県外を訪れたとき、ショッピングモールに立ち寄ったんです。
でも、広島のそれと大差なく、せっかく遠い場所に来たのに“県外に来た感”がなかった。
大型ショッピングモールも便利ですが、地域のオリジナリティは、まちづくりやまちの根幹を担う商店街に出ると思います。(松尾)

しかし、大型店舗の台頭により、利用者が減り、常時シャッターを下ろす店も増えている商店街。どうすれば商店街を盛り上げられるか、と考えたときに、思いついたのがVRでした。

でも実証実験としては期間も短く、商店街の方との連携が難しいので、「雑貨のクリエイターズ商店街」を作ることにしました。
VR SNS上での物販もだいぶ増えてきましたが、まだまだ浸透していない。まずはやってみること、そして現実の雑貨と3Dモデルを組み合わせて販売することによる効果を実証します。(松尾)

販売する雑貨は8つ。そのすべてが広島の雑貨クリエイターの作品です。
そして3Dモデルとは、VR空間内でアバター(自分の分身となるキャラクター)が身に着けるアイテムのこと。
「雑貨クリエイターズ商店街」では、本物の雑貨の3Dスキャンを基に3Dモデルを作り出すため、現実の品物をそのままVR空間に持ち込める感覚が得られます。

雑貨クリエイターズ商店街は2月中旬に開催予定です。

広島の商店街をVR空間で再現しようとしていた2人に「まずは雑貨クリエイターズ商店街をやってみよう!」とアドバイスしたのは、セコンドの下定弘和さんでした。

SECOND「株式会社BRAVE UP」下定弘和さん

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イベントの企画から運営を行う下定さん。雑貨店も営んでいます。
挑戦者とのマッチングはどうでしたか?

実は第一希望のプロジェクトだったので嬉しかったです。DXに関わりたかったのと、VR SNSにも興味がありましたから。
コロナで小売業も打撃を受けました。VR空間で物販ができることが一般化しないと、こういう非常事態に耐えられない。
リアルでの買い物や、実際に会って話すことがいちばんいいとしても、VR空間でできるということが確立されている世の中であってほしいと思っています。
それを進めてくれる2人は天才!

“天才”の2人と、イベント会社の下定さん。
イベントのための会場の調整、設備、運営ノウハウは問題ない。より多くの方に見てもらうための工夫もすぐ用意できる。
でも実証実験に向かうための課題は、そもそも“商店街をVR化すること”にありました。

商店街を丸ごとVR化するには時間が足りない。かつ、年齢層の高い商店街の店主さんたちと交渉するには、材料が少なかったんです。
まちおこしと同等のことをするには、地元の人たちの心を動かせるだけの実績が必要です。

そこで、まずはモデルとして「雑貨クリエイターズ商店街」を作ることに。
人脈も太い下定さんの紹介で、クリエイターが集まってくれました。

下定さんから、商店街の実情や、様々なハードルの高さを教わりました。
下定さんは広島以外にもネットワークをお持ちなので、もし今後さらに展開できるなら、全国からクリエイターを募ってやってみたいです。(松尾)

VRの可能性——リアルでできることはすべてVRでもできる?

筆者はまだまだ、VR=アトラクションという認識が強いのですが、チャレンジャーの2人にとってはそうではないようです。

安部:VR SNSで生きている人たちは、人との会話とか、星空の下でリラックスするとかを楽しみにしています。私にとって、VR空間は寝る場所です(笑)。

下定:不眠症の人がVR空間でなら寝られたという事例もあると聞きました。いろいろな人の救いになりそうですよね。

安部:聴覚障害のある知人の誕生日には、たくさんの人がVR空間に集まってお祝いしていました。手話やVRペンで字を書いたりしていて、音はないので静か。だけどにぎわってるんです。感動して涙が止まらなかった。
VRが障害の壁を超えたコミュニケーションを可能にしてくれるなら、どんどん進歩して、浸透してほしいです。

松尾:がん患者さんの挙式に使われた事例も。病気の人、障害のある人の救いにもなるのではと思っています。
いろんな壁を乗り越えるひとつの糧になるのであれば、本当に素晴らしいことですよね。

安部:VR SNSで出会って結婚まで至ったカップルも見たことがあります。そのカップルのために3Dモデルで指輪を作ってほしいという依頼もありました。VR SNSはそんな場所になりつつある。“VR婚”も普通になっていくのでは。コロナで結婚式ができない人の役にも立てるかも。

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下定:リアルで起きていることは、全部VR空間でできると思います。距離や経済の概念を超えて、リアルとは別に、もうひとつのチャンネルが持てる。夢のある話!
その1チャンネルを作ってくれる2人は本当にすごい。途中で飽きずに(笑)頑張ってほしいな。

安部:すでに2年ほどVR空間に“住んでいる”ので、飽きるにも時間がかかりそうです(笑)。僕にもしもなにかあったら、VR空間にお墓を立ててもらおうと思っているくらい。どこかに爪痕を残したら、たくさんの人に思い出してもらえそうじゃないですか。

RING HIROSHIMAの、その後

そもそも、どうしてRING HIROSHIMAに挑戦したのでしょうか。

僕はただ楽しんでるだけなんです。同級生の安部さんがVRにどっぷりはまっているのを見て、それいいじゃん!と思って。
そんなときにRING HIROSHIMAを知って、応募してみよう、ワンチャンあるかも!という感じ。若者言葉ですみません(笑)。

RING HIROSHIMAは公式サイトもイラストが多くポップで、「チャレンジャー」「セコンド」という言葉も、誰でも親しみやすくしてくれているという感じを受けました。
ゼロから始める僕たちとしては応募しやすかった。採択後のこともガチガチに決められているわけではなくて、僕らにもやさしいプログラムでした。(松尾)

出会いとタイミング、そして挑戦しやすい環境がそろっていたんですね。
RING HIROSHIMAが終わったあとの展望も聞いてみました。

VR界隈では将来的に、世界規模の大きな市場バーチャルマーケットができたり、世界遺産を再現したりということが起こります。それらは、大きな企業がやっていくはず。
だから僕たちは地域性を重視して進めていきたいです。商店街はもちろん、知られざる地域の魅力、広島県のいいところを集めた空間とか。

安部さんと会っていなければ事業として始まっていなかったし、RING HIROSHIMAに採択されて下定さんと出会ったことで、どんどん加速しています。(松尾)

(Text by 小林祐衣)

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