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ヘンダーソン ビジネスとしての民主主義救済 HBR Mar.2020

(解題) ヘンダーソンは事業展開にとって基礎になるのは、民主的政府による事業環境の公正・公平さの維持だとして、公正な法制度の担い手として、また不正競争を防止するなど市場の調整者として、また教育・医療など公共財の供給者としての、政府の役割の重要性を説いている。この話は、自由市場資本主義と民主主義とがどのような関係にあるかを論じるということでもある。ヘンダーソンは、公正公平な競争の維持、教育や医療の面で政府の役割を積極的に認め、将来の経営者たちに、民主主義的政府を支持する立場、過度の市場主義ではない立場を説いている。

Rebecca Henderson, The Business Case for Saving Democracy, Harvard Business Review, Mar.10. 2020

本文
 民主主義はは危機(trouble)にある。最近の世論調査は深刻なsobering絵を描いた。55%のアメリカ人が彼らの民主主義は弱いと、そして68%のアメリカ人が弱くなっていることを恐れていると答えた。およそ半分が「アメリカは非民主的な権威主義国家になる危機にある」ことに同意した。さらに多くは制度が歪められているriggedと信じている。アメリカ人の70%は「我々の政治制度は、金と権力のあるインサイダーのため機能しているだけのように思える」と答えた。アメリカだけでなく、民主主義に対する不満は、世界に広がっている。(世界全体では)わずかに45%の人が、「彼らの国で民主主義が機能している有様に満足している」と答えている。

図1 民主主義に対する不満が多くの国で上昇している 2018年の調査

 懸念がとくに若い人の間で顕著である。年齢18-29歳の回答者では、3分の2のアメリカ人は、アメリカにおける民主主義の将来に関して希望よりは恐怖を持っている。合衆国と連合王国において、第二次大戦前に生まれた層の3分の2以上が、民主主義のもとで生きることが不可欠essentialだと感じているのに、最若年層ではその数字は30%に満たない。

図2 若い年代ほど民主主義的規制を不可欠だと考えない傾向がある

(中略)
 普通であれば、会社が民主主義救済に飛び込んでくるとは思えない。企業人は、厄介な規制、税金、官僚的手続き、余計なものに関連付けて政府を気に掛けない傾向がある。ビジネスの関心は、政府を作り上げるより、数十年にわたり政府に反対するキャンペーンに従事するところにあり、しばしばその過程で民主主義を支持する組織は弱体化された。事業人は合衆国において、ニューデイール(政策)に猛烈に反対し、社会保険やメディケアのようなプログラムに反対してきた。会社は組合を壊し、自由な報道を押しつぶし政策をコントロールしようと政治制度にカネをあふれさせた。
 しかしその結果は、ビジネスリーダーたちが期待したような、自由市場の勝利を祝う感情とはならなかった。一般大衆の犠牲の上に、金持ちと十分なコネのある人々に有利なシステムが出来上がった。格差が急速に高まり、環境悪化は前例のない比率で進んだ。(中略)
 もし政府が自由市場の拮抗力(counterweight)だとすれば、市場の統制を追求するseizing民主主義は、政府が暴政(tyranny)に譲位(devolve into)させないことを保証する力である。私は、民主主義を強化することは、自由市場資本主義の広汎な生き残りを保証する唯一の方法だと信ずる。それはまた国際的な温暖化から格差に至る世界最大の脅威に取り組む唯一の方法である。今日人々は、政府やメデイアより経営者を信頼していると報道されているし、最近の国際調査では、回答者の71%は「自身の企業トップ(CEO)が挑戦する機会timesに応じることが決定的に重要だと」信じていることが分かる。
 ビジネス社会は、チリ、南アフリカ、ドイツのように広汎な国々で、民主主義を強化するうえで、そして社会を再建する上で重要な役割を演じた。もしビジネスリーダーたちが、自由市場が民主的政府に依存する範囲を理解するなら、そしてもし民主的政府が破壊されることを進んで積極的に止めようとするならば、そのことは今一度起こりうる。
 
自由市場が生き伸びる上で必要なものは何か
 自由市場は人類の偉大な成果の一つである。それは世界中において、革新、機会、富の推進者(driver)であった。しかし自由市場は、引き継がれる自由な政治制度を必要とする。それ(訳者補語 自由な政治制度あるいは民主的制度)が欠けた市場で何が起きるかを見るために、ロシアのケースを考えよう。ロシアは制約されないunconstrained市場を積極的に受け入れようと動いた。しかし誰も自由市場にとり不可欠の民主的制度を建設する時間をかけなかった(あるいはその志向clinationがなかった)。ロシア政府は国家所有物(経済の大部分)を一握りのオリガルヒoligarchs(財閥)に売却し、なお今日存在している縁故資本主義の忌まわしい形を作り出した。
 民主的政府は本質的に自由で公正な資本主義の(少なくとも)四つの不可欠な柱を供給することで、自由市場を保護し強化する。
 偏りのない司法制度(impartial justice system)。自由市場は所有権と契約とを必要とする。それは、土地とジャガイモからアイデアと情報まですべてを守る。それらはまた市場の参加者たちがその約束を守るだろうという理解に依存している。もしそうでないときは、その結果が生ずる。(所有権と契約は)法というルールに依存し、それがなければ腐敗がはびこる。所有権の変更は力のある者の気分(whim)次第になり、契約は書かれた書類の価値をもたなくなる。いかなる法制制度もかつて完全に偏りがなく有効effectiveだったことはないが、しかし政府が民主的だとされるところは、より強力でより腐敗の少ない司法制度を有する傾向がある。
 真実のコストを反映している物価(Prices that reflect true cost)。物価は数千の買い手と売り手が形式ばった調整の必要なしに共に働くことを許している。それは世界の繁栄をもたらす日々の奇跡である。ミルトン・フリードマンは、「同じ言葉を話さない人々、異なる宗教に属する、もし出会うと互いにいがみ合う人々」の間で、いかに価格メカニズムが多くの取引を容易にしているかについて、言葉巧みに語った。(中略)
 本当の競争。市場はそこに出入りすることが容易で、参加者たちが不正な共謀を防止されているとき、自由で公正である。そうある時に競争は栄え、企業に最新技術の採用を迫り、効率と生産性の改善を迫る。そして革新を促し、政治経済学者ジョセフ・シュンペーターが祝った創造的破壊のサイクルを前進させる。その都度、我々は新薬あるいはスマホのアプリに喜ぶことになる。(しかし)競争が守られなければ、革新が止まり、効率は墜落し、物価が着実に上昇する。AT&TそしてIMBを解体したのは政府だった。競争の爆発の引き金を引き、物価を大きく下げた。アマゾン、グーグル、フェイスブックのような会社に本質的な競争があることを保証するのは、確かに政府である。
 機会の自由。すべての人が参加できるときにだけ、市場は本質的に自由である。経済が国家あるいは政治エリートにより統制されているときには、その反対であり、仕事へのアクセスそして経済機会は堅く統制されている。仕事を見つけることは、権力のレバーを統制する人々の帽子を手にしているかどうかの問題になる。
 自由市場では、誰でも参加できる。移民の起業者が自身の企業を立ち上げ繁栄できる。女性がCEOs、医者、スポーツヒーロー(sports icons)になれる。政府は機会の自由を保証する上で不可欠であり、エリートの権力をチェックするとともに、両親の所得、人種、性別にかかわらず、すべての市民の成功の基礎である教育や医療などの公共財を供給する。

(自由な社会と包摂的組織)
(ヘンダーソンは自由な社会の見取り図を包摂的inclusive組織として示している。それは経済的にはさまざまな人々が自由に経済活動をすること、それを人々が政治プロセスに参加すること、つまり民主主義で、政府が監視され統制されている。言論の自由や、政治的多元主義が対応する。このように人々に監視された政府が、自由市場の機能を支持する。他方で、これと対照的なのが排外的extractive組織で構成されている社会である。そこでは経済的には、権力に近いものが権力に取り入る縁故資本主義crony capitalismがはびこる。これに政治的対応するのが一党独裁体制single-party ruleである。以下の表は、経済のありかたと、政治的組織との関係を示したもので、大変優れた着想を示している。福光) 

図3 包摂的組織(経済と政治)
図4  排外的組織(経済と政治)


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