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中国に関連して生じた事実

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https://blog.goo.ne.jp/fu12345/e/7cc5e1ad373775c11668b88a748c64a6 政治的文化的側面を中心に年代順に採録。
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記事一覧

天津とレバノンの爆発事故 Explosions-2015 Tianjin and 2020 Beirut

 私たちは比較的最近、最大級の爆発事故を目撃している。  一つは2015年8月12日の夜遅くに起きた中国天津浜海新区倉庫の爆発事故。ニトロセルロースが乾燥、発火し他の危険物を爆発させたとされる。死者173名、負傷者798名、行方不明者8名とされる。  この事故を上回るものはないと勝手に思っていたところに起きたのが、2020年8月4日の夜に起きたレバノン、ベイルート港倉庫の爆発事故。保管されていた2755tの硝酸アンモニウムが発火し爆発した。死者218名、負傷者7000名以上と

Collier & Rohner, "Democracy, Development and Conflict", 2008

ポールコリアの民主主義と経済発展との関係についての論文 Paul Collier and Dominic Rohner, "Democracy, Development and Conflict" , Journal of the European Economic Association, Vol.6 No.2/3, Apr.-May 2008, 531-540 解題 Paul Collier(ポール・コリア 1949-)はオックスフォード大学に所属する経済発展論の教授。

大西広『西側民主主義』を拒否する中国 を読む

 大西広さんは京都大学から慶應義塾大学に移った研究者で、中国の政治制度に詳しい。すでに慶應も退職されて慶應大学名誉教授。取り上げる論文は『季刊経済理論』第59巻第4号、2023年1月、33-44に掲載されたもの。 中国が欧米型民主主義を取り入れないことを私は正しくないと考えるのだが大西さんは、この論文で、そうした中国の立場を肯定するロジックを書かれている。また中国の政治制度を弁護されて、それは多数決民主主義よりは良いものだとされる。今回、丁寧に読む時間があったので、大西

Deflation in China should help inflation in the West to moderate

中国のデフレを歓迎する欧米報道機関の報道について  直近の欧米の報道を読んでいささか驚いたのは、中国の輸出品価格の低下、成長の鈍化を単純に歓迎していることであった。そのことの中国経済への影響とか、中国が日本のようにデフレ経済あるいは長期停滞に陥るリスクへの危惧と言った観点での報道は少数派であることに戸惑った。 もちろん報道の中ではVOAのGarverにように、デフレが不況を深化させることやデフレスパイラルに陥る懸念を伝える「中国経済」に絞った報道もある。ただこうした報

Releasing ALPS treated water into the sea caused concern over harmful rumours

ALPS処理水の海洋放出について  まず日本側というか経済産業省がいろいろな案を検討したことは事実だ。ただ最初から海洋放出案に経済産業省がこだわっていたことはうかがえる。まず2016年の段階。5つの案を並記しているが、海洋放出案が時間的に最も短期でかつ経費的に安く処理水を処理できるとしていた。なおここで政府の言い分を入れて「処理水」としておく。絶対反対の立場からは、トリチウムが残るという意味で「汚染水」である。  そして処理方法の決定においては(2019年)、大気放出案と海洋

王志安と柴静の「封殺」

 封殺はその人物が書いたものの発禁の意味にも使う。王志安は2019年に,また柴静は2015年にそれぞれ「封殺」された。   王志安(1968-)の「王局拍案」を見ていて、柴静(1976-)のことを、ふと思い出し出した。王志安は社会的な事件を追及してきた調査記者。2017年に中央テレビ局(中央電視台)を退職後、ネットなどを通じて活動を継続していたが、2019年6月4日に、自身のネット上の主要アカウント3つが突如停止され、中国での活動が事実上出来なくなった(封殺された)。2020

US-China Decoupling and Japan

(2023年9月15日追記) 米中のデカップリング。これに対して、当初は国際的なサプライチェーン網を破壊する、このサプライッチェーンの恩恵を米国企業も受けているとして否定的意見が多かった。しかし次第に過度に中国に依存したサプライチェーン網そのものを見直すことは必要だとの意見が増えている。またデカップリングの問題を別にしても、中国でゼロコロナ政策が強行され、サプライチェーン網が途絶した記憶もなお鮮明である。中国が貿易上の許認可を、政治的圧力の手段として使う傾向もリスクとして意識

China should focus on own economic recovery.

China's economic grew 4.5% in the first quarter, CNBC, Apr.17, 2023 China's Recovery is taking longer than expected, CNBC, Apr.6, 2023 Analysis: Hiring spree by China's debt-laden local government fuels fiscal fears, Reuters, Mar.30, 202

広東省全省一般公共予算分析:2021年から2022年へーコロナと中国ー

 ここではゼロコロナ政策下の2021年と2022年の予算、執行額を対比することで2021年から2022年にかけて、中国の地方財政に何が起きたかを例証的に確認する。数字は広東省の「全省一般公共予算」と言われるもの(全省の公的予算と仮解釈している)を分析する(開示レベルは省により違いがある。武漢を含む湖南省の場合は、予算や執行情況の概要が公開されている。広東省の場合は付属表を含めて開示されている。ただし年により記述には精粗がある)。  まず2021年から2022年にかけて歳入面で

コロナが中国の地方財政に与えた影響―2021年広東省全省一般公共予算分析

2022年の分析に続き、2021年についても分析をすすめる。数値は全省というもので、予算額と執行額との対比で年中のインパクトをみる。 使用資料:広東省2021年予算執行情況和2022年予算草案 2022/02/11公開  歳出のところでは衛生健康のなかの「公共衛生」「基本医療保険補助」が増えているのは予想通り。しかしそれ以上に、「医療保障管理」「医療救助」が伸びている。歳入の中で「非税収入」「転移性収入」「債務収入」が増加。なかでも「債務収入」の増加は著しい。この債務収入の急

コロナが中国の地方財政に与えた影響ー2022年広東省全省一般公共予算分析

 コロナが中国の地方財政に深刻なマイナスの影響を与え地方政府の債務問題が深刻化したといった報道記事が内外で見られるが、果たして実態はどうだったのか。ここでは省全体で2022年に711.39億元のコロナ対策費を使ったとして話題になった、広東省について予算執行状況の説明と状況表(2023年2月9日公表)とを、実際に読んで検討した(予算の開示は省により違いがあり、武漢を含む湖南省の場合は、概要しか開示していない。広東省は付属表を含め開示している)。  結論を先に述べると、711.3

コロナが中国の医療保険と地方財政に与えた影響 2020-2022 

ゼロコロナ対策と医療保険  2023年2月に中国で起きた白髪運動では、中国の医療保険がコロナで受けた負の影響が、医療保険改革につながったとの指摘があった。最初に「医療保障事業発展統計快報」を読んで、どのようにコロナが記録されているかを確認する。  読み取った結論を最初に述べると、医療保険については2020年に取られた企業納付金の削減措置は大きな影響があった。ただそれを除くと、コロナが医療保険に与えた影響は意外に小さい。収支統計から確認できることは、2021-2022年と医療保

中国の医療保険統計(参加人数)

 中国で2023年2月に起きた定年退職者による、医療保険改悪反対運動である「白髪運動」を分析するために、中国の医療保険について統計的にわかっていることを2回に分けて報告する。まず最初は参加人数についてである。とりあえず2018年末から2022年末までの5年間について。  基本医療保険への参加人数は2021年末まで増加し、2022年末に減少に転じた。全体の総数は13億5000万前後の数値であり、城郷居民基本医療保険の加入が任意であることのほか、制度の質を別にすれば「皆保険」を中

中国の医療保険統計(基金収支)

 2023年2月に中国で起きた「白髪運動」の背景を探るため、中国の医療保険の統計を実際に見る作業を行っている。まず白髪運動とは、中国の各地で、定年退職の老人たちが、医療保険の制度改革反対の声を上げたというもの。反対の焦点は、医薬品購入や問診費用に使える個人勘定に振り込まれる金額の削減である。  そこで老人たちの間に流布した意見に、ゼロコロナ政策遂行に必要な費用が、医療保険の基金から引き出され、そのために医療保険基金が空になってこのような事態になった、というものがあった。今回は