コント『金閣寺』【世界遺産と僕#4】
今年の5月に京都の世界遺産を巡ってきた。
金閣寺こと鹿苑寺庭園はやはり定番中の定番、ベタ中のベタというもので、行かないわけにもいかず、朝イチから修学旅行の波に飲み込まれつつの参詣となった。
いわゆる金ぴかの金閣寺は本来「舎利殿」と呼ばれる建物。
この「舎利」=シャリは、仏教用語でお釈迦様の遺骨を指す。
つまり金ぴかの金閣寺は、お釈迦様のお骨を祀る為の建物。
お米のことを「シャリ」と呼ぶのは、火葬された遺骨と白米が似ていることに由来するらしい。
同様の建物(舎利殿)は各地にあり、何も鹿苑寺庭園にだけ仏舎利が祀られているわけではない。
ちなみに世界遺産の中では、釈迦=ブッダの【歯】を祀った『仏歯寺』というのがスリランカにあったりもする。
この記事では「鹿苑寺の舎利殿」といちいち正式に書くことはせず、わかりやすく「金閣寺」もしくは「金閣」と書くことにする。
そんなことはさておき、
今の金閣寺の建物が他の世界遺産の寺社仏閣と比べてあまり古くないことはご存じだろうか。
1950年に金閣寺は放火により焼失し、5年後の1955年に再建されている。
焼失前の金閣は明治時代に一度大きな改修工事が行われていて、その時の図面が残っていたので、再建はすごく忠実に行うことができたという。
この、「もとに忠実に再建できた」というのが、世界遺産として登録されるのにとても重要なこと。「真正性が保たれている」という言い方をする。
真正性が保たれている限りは、再建された時期が昭和だろうが令和だろうが、それは足利義満が創建したものと「同じもの」という扱いがされるのである。
その、金閣寺放火事件は当時かなり衝撃的な事件だったことは想像に難くない。
事件を扱った文学作品や、さらにそれらを原作とした映画や舞台が制作されたほど。
その中でとりわけ有名なのが、三島由紀夫の『金閣寺』かと思う。
金閣寺放火事件を基に書かれた三島由紀夫の代表作。
一度は読了したが、どんな話かを何となく思い出すにつれ、
これはコントじゃないかと思えてきた。
これはあくまで、僕が覚えている感じの『金閣寺』の概要だということ念の為前置きしておくけど、
三島由紀夫の『金閣寺』はどんな話か。
吃音がコンプレックスの金閣寺大好き童貞坊主が、
内翻足だから同じコンプレックス仲間と思ったらヤリチンだった友達の助けを得て、女性とお近付きになり童貞卒業を計るも、
S〇Xしようとする度に金閣寺の幻影に邪魔をされる。
結局うまくやれずじまいで、童貞をこじらせすぎた結果、金閣寺を燃やしちゃう、
という話。
……いや、
一人称形式での鬱屈した感情の吐露の中に文学的素晴らしさが輝きまくっていることはもちろんなんだけれど、
あらすじを自分なりに思い出して暴力的にまとめるとこうなった。
この、女性とそういうコトに及ばんとする度に金閣寺の幻影に邪魔をされる、というのが本当にもう、空気階段の単独ライブとかでやってくれないかなってくらい、コントだと思う。
よーし、いよいよ僕はこの女性でもって童貞を卒ぎょ……
うわー!! 金閣寺が!! 金閣寺のマボロシが僕のジャマをするぅ~……
というくだりが何度も繰り返される。
繰り返せば繰り返すほど笑えてくるように思える。
舞台上の布団かベッドかを飲み込むようなプロジェクションマッピングで、金閣寺のマボロシをででーんと映してほしい。
三島由紀夫の『金閣寺』の主人公(私)と、実際の金閣寺放火事件の犯人とは、異なる部分が多くあるだろうし、
僕がコントとして見てしまう『金閣寺』のストーリーも、実際の三島由紀夫の『金閣寺』の文学的価値もしくは文章としての面白さとはかなり乖離していることだろう。
他の国の世界遺産とかで置き換えてみるとちょっと面白い。
モン・サン=ミシェルに非常に強い思い入れを抱いているフランス人の青年が、女性とジュテームなことをしようとする度にモン・サン=ミシェルの幻影に邪魔をされたり、
エジプトの童貞青年が、女性とそういう展開になる度、スフィンクスのマボロシに「朝は四本足、夜は三本足の生きもの、なーんだ?」などと、なぞなぞを出されて萎えてしまったり。
「三本目の足は、俺の股間のイチモツだ!」とかいう返しは、童貞にはなかなか難しいだろう。
冒頭に書いた通り、この5月に金閣寺を観に行った際は、中学生と思しき修学旅行の一団に半ば飲み込まれるような形となった。
中学生に前後を挟まれながらも、僕はコント『金閣寺』に思いを馳せながら写真を撮ったりしていた。
せっかく、かなり多くの中高生が修学旅行で金閣寺を訪れるのだから、国語の教科書にどうにか三島由紀夫の『金閣寺』をさわりだけでも掲載できないだろうかとか考えてみたが、教育に用いるような作品ではないとすぐに思い直した。
僕が国語教師だったら、性的なところは差っ引いて、「好き過ぎて思い込みが激しくなり過ぎて金閣寺を燃やしたって事件が昔あってね」くらいの話は口頭でするかも知れない。
今の金閣寺の金箔びっしり状態は、その放火からの再建の賜物でもある(焼失以前の金閣寺は、金箔がかなり剥がれていた)から、それくらいの話はしてから修学旅行に出た方が楽しめるとも思う。
とりとめがなくなってきたのでこの辺で。
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