大きなお客様

自らのキャパシティを定めず、柔軟に対応していくと、いつしか自分のリミッターが外れ、キャパシティが大きくなる、と若い頃の上司にはよく言われたものだが、それは自分には当てはまっていたように思える。

私の設計スタイルは、お客様からご契約を頂いたのちに担当者として入るのではなく、ご契約前から打ち合わせに同席して、少しでもお客様のご意向を汲み取らせて頂くというスタイルだった。そのため、ご契約前、ご契約後、仕様打ち合わせ中、建築中のあらゆるお客様と同時に打ち合わせをせねばならなかった。
最も多くのお客様に同席させて頂いた時は、37件もの案件が重なってしまった。

そんな中、こちらのお住まいに住んで頂いてるお客様に非常に迷惑をかけてしまうことになった。
完全に自分のキャパシティをオーバーしてしまい、ミスも増え、現場が思う様に進まず、仲間や業者様にも嫌な思いをさせてしまった。
そして私自身がそのミスを認めることができず、忙しい自分を肯定し、仲間から助けられていたことにも気付いていなかった。


しかしながら、そんな自分の過ちにお客様は気づいていらっしゃった。私のミスを認めつつ、その後私がどのように対応されるのかを見ていらっしゃのだ。
そして、建築中の現場の庭先でお客様と一対一で会話し、柔らかな表情で私の会社での立場を認めつつ、厳しく諫めてくださった。

初めて仕事で涙を流してしまった。お客様の前で涙が全然止まらない。声も出ない。情けないのか、悔しいのか、とにかく人目を憚らず泣いた。そしてその時、自分が一番でいなきゃいけないという、勝手なプライドが消えた。楽になった。仲間の笑顔が素直に心に入ってきた。

今の自分があるのはこのお客様の存在が大きい。これからどのような壁があろうとも、信じる仲間とともに取り組んでいければ素敵だなと心より思う。

かなり恥ずかしい昔の話。
器の大きなお客様に感謝。
そして今も楽しくお付き合い頂いていることを誇りに思って頑張ろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?