長崎きまぐれ案内その14 −精霊流し 爆竹
いつ知ったのか忘れてしまったが東京では7月にお盆だった。もうお盆は終わったらしい。
関西や九州はだいたい8月中旬がお盆で年によって違うがたいてい終戦記念日と重なっている。つまり8月15日だ。
長崎のお盆と言えば精霊流し。
1年以内に近親で亡くなった人がいる家庭やら会社で精霊船を流す。流すと言うのは海に流すというのがもともとの意味である。確かにかつてはそうしていた時期もあったと聞くが今は長崎市などの自治体が準備した広場にまで運ぶ形でその後自治体がゴミとして処分する。
お盆の日は夕方3時位からボチボチ爆竹の音がどこからか聞こえて来る。4時ぐらいから公道に精霊船を引く姿がチラホラ見え始める。5時から7時くらいが一番賑やかになる頃で2車線のうち1車線はほとんど精霊船とそれを引く人達が燦々午後通り過ぎて市街地は混雑する。爆竹の音も鳴り止まない。この日は安全上ガソリンスタンドは少なくとも午後は休業で爆竹の火の粉が飛び散っても引火しない様に努める。イヤイヤ終日休業だったか。
長崎に住んで初めて精霊流しを見たときの印象をどう表現したら良いのだろう。
それまでお盆に限らず冠婚葬祭の中でお葬式とかお彼岸とかお盆を日本人は静かに迎えると勝手に思い込んでいた。
後にブラジルで見た黒人宗教の儀式は音楽がないと成り立たない、静寂とは正反対のものでなるほど地球の反対でもそうなんだ。死者を呼んだり迎えるには聴覚に訴えるのは自然なのかなと思ったりもした。
日本で西に位置する九州でも最も西にある長崎は大陸に地理的に最も近い。必然的に中国文化の影響を色濃くうける。
精霊流しに必須の爆竹も市内の華僑のお店で大量に準備されていて他ではなかなか手に入らない。まぁ、インターネット通販が流行る昨今では事情も変わっているかも知れないが。
一言で表現するなら精霊流しは喧騒の中にある。
大通りで近くで精霊船を見ようと思えば耳栓が必要になってくる。それだけ爆竹の音がひっきりなしになる。近くに飛んで来た爆竹が鳴れば鼓膜が破れるのではと思わずおののく。
どうしてこれほどの喧騒に包んだ中で船をひくのだろうか。地元の人に言わせると、故人が迷わず生前住んだ土地へと戻って来られる様に音で知らせるのだという。
しかし、思う。どれだけ爆竹を鳴らして喧騒の中にいたとしても愛しく懐かしい故人を呼ぶ精霊船を引く当事者にしてみれば心は静寂の中にあるのだろう。まるでここはどこだろう?と自分の居場所が分からなくなる、そんな面持ちになりながら船を引いているのだろう。
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