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ルーチェのお散歩日記 夏は夕暮れ

 どうもールーチェです。犬やってます。ここ最近は、生活習慣が変わりましたよ。朝、夕方、夜と、1日3回行ってた散歩(戦さ)が、朝と夕方の2回になりましたよ。病院の先生からも、歩き過ぎは良くないと言われてますし、私も永遠の3歳ではありますが、ちょっとずつ歳を感じる事もありましてね。とほほ。若いってええのう。昔は1時間でも、2時間でも散歩しておったんじゃ。最近の若いもんはどうじゃ。元気がないのう。とそんな感じで、最近は30、40分ぐらいでしょうか。長く歩けばいいってもんでもないですから。質ですよね。質にこだわる犬、ルーチェです。夏の散歩は大変ですよね。アスファルト熱いし、いくら私のスーパー肉球でも、さすがに耐えきれませんわ。靴も試してみたけどね。でもね、やっぱり直に熱さは感じたいものです。それが夏ですから。焼けるように熱いアスファルトから、肉球をつたい、身体へ。私の数億本ある、美しい白毛の一本一本の毛先まで、全てに熱が行き渡ったとき、我は次なる形態へと進化するのである。そうです。あのビゼンさんです。ビゼンさんは、地獄の門番です。身体全体がすごい熱です。身体の毛は、燃えているのにけして焦げる事はありません。身体は備前焼きの焼き物のようにカチコチなのです。そうなってしまっては、私を止めることは不可能でしょう。ですから散歩時間を抑えるようにしてるのですよ。けして歳とって体力無くなったわけじゃないですよ。みくびるなかれ。ビゼンさんと化した私を誰も止める事は出来なかったのです。我の時代は数100年続いたのだ。さてさて、
「ルーちゃん、ぐだぐだ言って、クーラーの部屋にいたいだけでしょ。そろそろ散歩いきますよ。」
「はーい」
夏の夕暮れです。
ようようなりゆく山際
夏の夕暮れは本当に夕方だ。
熱はエネルギーだ。
日中これでもかと言わんばかりに、エネルギーを放出きったあとの、とてつもないやりきった感。
光はパワーだ。それを受け、植物は
青々と生き生きとする。
太陽からのパワーだ。惜しみもなく出し切るのだ。最後の一滴まで絞りきる。マヨネーズの容器をぶんぶん振って、コスコス出し切るように。歯磨き粉のチューブを根本からぐいぐいぐいと押し進め、ぐいーと絞りだすように。とにかく出し切るのだ。そうするとこの夕暮れのような新たな世界が開かれる。ラーメンもしっかりとスープまで飲み切るのだ。器の底には新たな世界が待っているのだ。バランス良くこなすなんて事は一切必要ない。やり切ったら次のステージへ。やり切ったら次のステージへ。その繰り返しである。すべてが終わったのだ。
あまりの清々しさに、こっちまでなにか壮大に事を成し遂げたかのような錯覚に陥る。果たして錯覚といえるだろうか。やはり実際に成し遂げているのではないか。そうですよ。この地球上の全ての生物が、成し遂げているのですよ。我々は地球という船の船乗りですぞ。私が操縦していますからね。そこは作られた世界ではない。思いのままに達成感が表現されているだけなのだ。
物悲しさなど、1ミリもなく、
達成感に満ち溢れている。
夕暮れとは物悲しいものだ。カラスの鳴き声も妙に切なげですしね。みーんな切なくなるんです。みんなもっと遊んでたいもんねー。でも帰らないと。石ころ蹴りたくなるよねー。切ないから。切ないときは、石ころ蹴るに限るよねー。わかります。みーんなそうです。でもね、でも夏の夕暮れだけは違う。
少しの寂しさ。少しの心残りもない。夏の夕暮れは教えてくれるのです。
達成感は清々しい。達成感は気持ちいい。
迷いの無い状態です。
山登りをして、頂上から見る絶景の感動。
よーし、写メしてインスタアップして
いいね稼ごうー!とはならないだろう。
写真家は思わずシャッターを切るかも、
しれないが。
圧倒的な達成感ってなかなか経験ないですよね。同居人男よ、一度もないだろう。
「そうですね、ルーチェさん。一度もございません。」
「だろうな、私ほどの存在でも、この夕暮れを除けば、ほんの数回しかないのだ」「しかしな、夏の夕暮れは、1年に数十回あるのだよ」「それを意識できるかどうかの勝負なのだよ、わかったかい、同居人男よ」
「わかりました、意識いたします」
「よろしい」
そう達成感を得るのは難しいのです。
デカ盛りグルメを完食したときとか。大食いっていう特殊能力ないと難しいですよね。
心地よい風が抜ける。そうです。達成感とは風なのです。雲はオレンジに染まります。そうです。達成感とは雲がオレンジに染まるのです。グレーや紫のグラデーションも達成感には重要です。
昼間の光と青と白のハッキリした空とは違う。秩序なんてものはない。すべてが終わったのだ。やり切ったのだ。もう何に従う必要もない。なされるがままだ。何にも考えなくて良いのだ。
「そうですね、やりきりました!ルーチェさんありがとうございます!」
「同居人男よ、あなたは、仕事が残っているだろう、もう帰って、働かんかい」
「いいえ、ルーチェさま、もう達成致しました、許してくださいませ」
「いいえ、許しません、それとこれとは話しが違うのです。しっかりと私のビッケ代を稼ぐのです。さあ走るのじゃ」
「ははぁー」
そんな夏のひと時でした。

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