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ルーチェのお散歩日記  晴れ日(1) 〜 草

 どうもルーチェです。犬やらせてもらってます。僕目線で話させてもらいます。今日はいい天気です。僕は散歩が好きで朝昼晩3回必ず行きます。散歩は僕にとっては戦いの場なので戦と呼んでいますが、それは冒険でもあります。草木を掻き分けて突き進むのが好きです。この時期急激に伸びますよね。一日の草の伸び率に驚愕です。伸びれば伸びるほどテンション上がります。そして、そのど真ん中を突き進むのみです。ほんとに草の生命力には驚かされますよね。同居人の男にも見習ってもらいたいです。なよなよへなへなハキハキしない。おまけに声も小さい、しまいに毛も伸びない。ほんと同情するぜ。
 でもね草むら入るのは、たまきちゃんに怒られるんです。僕って目がまん丸でくりっくりで超可愛いじゃないですか。大きい瞳なんですよ。チャームポイントってやつです。大きいが故に傷つきやすいって言う反面もあってね。草が目に当たるといかんよって怒られるんですけど、わかるんですけど。抑え切れないのよこの衝動。頭ではわかってるつもりなんだけど体が勝手に草の方へ草の方へと動いちゃうのよ。なんていうかさぁ、「草達!お前たちの生命力に真っ向から向き合いたい!」ってそんな感じなんだよね。本当にあなたたちはどこからでも生えるるよね。アスファルトまで突き破って。「そんなヒョロヒョロの体になんでそんな力があるの?」ほんの少しでも隙間があればそっから這い上がって出てくるんだもんね。あっぱれだよ。だからね、僕はね、真っ向から向き合いたいの。わかってくださいね。
 そして何よりも芸術的なんだよね。生命力って芸術だよね。ほんとにこの時期は草木の生命力が爆発してるもん。芸術は爆発だって言ったもんだよね。

「おーい。こっちこっち」どこからか呼ばれてます。「おーい。こっちだよ。僕らの話も聞いてくれよ」水路の構造のコンクリートの目地の隙間から生えている草木が呼んでいました。ルーチェは、立ち止まり、耳を傾けました。
 僕らは、この中で生まれたんだよ。目が冷めたときは、あたりは真っ暗で、何も見えないんだけど、湿っていて、ものすごく狭いところにいることだけはわかった。 胎児がお腹の中にいるときと同じかな。いやそんなに温かなところではないね。聞こえてきたのは、微かに水の流れる音だけ。とにかくそれをを頼りに進んだ。
 水路の土留のコンクリート目地から、顔を出す、草たち。息が出来なくて、苦しくて、苦しくて、必死に出口を、かざして、出口がどこかも分からずに、もがきつづけて、やっと見つけた、一筋の光だけを頼りに、突き進んだ。知らぬうちの彼らの身体は、鍛え上げられ、立派なものになっている。勇敢な戦士と化している。重い、狭い中を、筋肉の限り、力を入れ、ほんの少しずつ前へ進む。そこへ一筋の光が見える。希望が見えた瞬間だ。限界は、とうに超えている筈だ。途中で力尽きた仲間も大勢いる。彼らには、仲間がいた。だから進み続けれたかもしれない。仲間の思いも背負って、突き進む。力は、みるみる漲る。ちょっとずつ。ちょっとずつ。コンクリートに擦り付けられた身体は、ボロボロであるが、気持ちはどんどん前を向く。一歩ずつ。一歩ずつ。進んでゆく。光の差し込むほうへ。無心で突き進む。どのくらい時間が経ったかわからない。もともと時間の感覚など、なかったかもしれない。彼らは、一歩ずつ一歩ずつ強くなる。狭い空間のなかで、感情だけが、どんどん膨れ上がってゆく。憎しみでもない。悲しみでもない。光に向かって、漲る力と感情。光の先に何が待っているかも知らない。そんな事は、どうでもいい。とにかく光の方へ進む。もうちょっと!もうちょっと!もうちょっと!出るぞー!

ボッ!!


出たんだよ。
それがこの状態。


僕は、同居人の男に言います。「隙間は、希望の光なんだよって。」「何言ってんだよ、ルーチェ。隙間があったら、水が入って建物劣化しちゃうよ。性能も落ちちゃうし。」「お前、今までの草たちの話聞いてたのかよ。根本的に考えかたが間違ってんだよ。」「でもまあとりあえず考えてみるよ。」「そうだね。、とりあえずまずは考えることだね。一歩ずつ一歩ずつ進んで、行けばいいよ。」コンクリートの誘発目地は、ひび割れを許容するためにつけるけど、自然を許容する為につくるんだね。とういうよりも、草木は、自らの力で、隙を見つけて、突き進んでいるだけだ。自然を許容する様に作るとかなんとか偉そうにすんじゃねえ。僕らはどんな環境だって生きてゆける。あなた方とは、生き抜いてきた環境が違い過ぎる。

コンクリート壁に佇むその姿が。ここまでの死闘を物語っている
まさに爆発している。


「歩かないなら帰るよ!」たまきちゃんの声
ふうっと現実にもどる。草たちが風を受け、涼しげにしている。

 颯爽と歩きだすルーチェ。
「どうした急にスイッチ入っちゃって」
 とにかく無心に突き進む。ただまっすぐその先の光だけを見据えて。

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