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「密航のち洗濯 ときどき作家」書評

◆書名 密航のち洗濯 ときどき作家
◆文 宋恵媛・望月優大 写真 田川基成
◆販売 柏書房 1800円(+税)

 終戦から間もない1946年夏、朝鮮から日本へ「密航」した男性と、日本で裕福な家庭に育ちながら、その男性と生きることを選んだ女性が築いた家族の物語です。
貧しい夫婦が生きるために選んだ稼業は洗濯屋。しかし男性は早くに亡くなり、残された女性と朝鮮人として生まれた三人の子どもたちは、差別や偏見と対峙しつつ、それぞれの人生を歩みます。
 歴史の表舞台に出てこなかった家族の歴史は、男性が残した小説と日記によって、明らかになります。終戦後、朝鮮と日本との複雑な関係の中での結婚生活の過酷さは、想像を絶します。
 激動の時代、生きることに命をかけた家族の姿から感じるのは、人間がもつエネルギーの強さ。同時に、この苦境を生み出した政治と社会、そして戦争がもたらす困難の残酷さです。
 戦場だけではなく、その背後に無数の人々の人生に、悲しみと憎しみを及ぼす戦争の一断面を、一つの家族の物語から読み取ることができます。

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