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人の成長とは?

 昨年、漫画スラムダンクがTHE FIRST SLAM DUNKとして映画化されることとなり、折に触れてスラムダンクのことを考える機会が増えました。自分の中でスラムダンクを読み進めていた時期は大きく分けて3つ(+α)です。

  • 小~中学生時代の週刊少年ジャンプ・テレビでのアニメ

  • 大学時代のスラムダンク完全版

  • 数年前に発売された新装再編版

  • +α:少年ジャンプ創刊50周年でジャンプ展が開催された頃

 最初の小~中学生時代はNBAブーム等もありながらただただ熱中して毎週の少年ジャンプを読み進めていましたが、スラムダンク完全版が出版された大学時代は懐かしく読み進めるとともに「もう、スラムダンクのキャラより年上だ」と言う感情とともに、より深く選手の心情も想像しながら読んでいたように感じます。
 その後、新装再編版が出版される頃には自分も教育に関わる立場になっていたので、感情移入の対象がメインの選手から監督やベンチの選手に移っていきました。
 そこで今回は、今までスラムダンクを読み進めてきて自分がそこから学んだ(・・・と思うこと)をまとめていきたいと思います

1.自己決定性とモチベーション

 まずはじめに挙げられることとして、自己決定性とモチベーション(外発・内発的動機)の重要性です。動機づけ研究として、DeciとRyanが提唱している自己決定理論を良く聞くようになりました。動機づけには段階があり、自己のモチベーション(動機)が内在化される過程で大きく以下の分類に分けることが出来ます。

  1. 無動機づけ(全くやる気が無い状態)

  2. 外発的動機づけ(外的報酬:称賛や報酬、名声などで動機が高まる状態)

  3. 内発的動機づけ(やること自体が楽しくて、自分からそれを望んで行う状態)

 この各段階は対立した概念でなく、連続するものであり、自己決定の度合いにより変化するという理論です。

バスケットは好きですか? 

赤木 晴子

 最初に引用文は第1巻のはじめに晴子さんから主人公の桜木花道に掛けられた言葉です。花道はバスケが嫌いでそもそもやる気なんて全くなかった。そんなときに、晴子さんから不意に掛けられた言葉で、この時点で本当は花道はバスケなんかやりたくなかった。つまりバスケをやる理由としては晴子さんに良い格好をみせるためだけで、無動機づけに近い外発的な動機の段階でした

大好きです。今度は嘘じゃないっす

桜木 花道

 今度の引用文は完全版だと最終巻の山王戦終盤に、腰の痛みで意識が朦朧としながら、バスケを始めてからの今までを走馬灯のように回想した花道から出た言葉です。最初の引用文に対するその時点での花道の答えかと推測できます。この時点では本当に花道自身がバスケをすることそのものに楽しみとやりがいを感じており、モチベーションが内在化されている状態、つまり内発的動機づけの段階であると言えるでしょう。

いや、そうじゃねぇ、バスケット選手になっちまったのさ

水戸 洋平

 最後の引用文は花道と昔からつるんでいた桜木軍団の一人、水戸洋平からです。山王戦終盤で流川と花道がケンカになりそうなとき、必死に自分の感情を抑えた花道に対して向けられた言葉で、もう少し花道軍団の文脈を足すと「かつての花道なら絶対殴ってるよ。試合なんか関係なしに」「あいつ、大人になったな」「いや、そうじゃねぇ、バスケット選手になっちまったのさ」となります。
 花道が様々な経験を通して成長したことが他者からの目を見ても判る一節でしたので、加えさていただきました。

 引用が長くなりましたが、ではどうやって自己決定性を高めてモチベーションを内在化させられるのか?
 その答えとして、DeciとRyanは以下の3つの欲求が関係しており、その欲求を適切に支援することで自己決定性を高めることが出来ると提唱しています。

  1. 有能性欲求(やれば出来る、能力があると感じたい)

  2. 関係性欲求(いろんな人と精神的な関係を築きたい)

  3. 自律性欲求(自分の行動は自分で決めたい)

 この3つの欲求とその支援について、主人公の桜木花道がどのように成長していったかを中心にまとめていきたいと思います。

1-1.有能性欲求とその支援:適切な課題、地道な努力、成長実感

 ここでは、花道がバスケがうまくなるために行ってきたことを簡単にまとめてみます。ざっくりまとめると以下の内容が挙げられます。

  • 毎日の練習後の基礎練習(入部後から全国大会前まで継続している)

  • 陵南戦後:レイアップシュートの習得 ⇒ 自分から朝練を実施して取得

  • 海南大附属戦の敗戦後:ゴール下シュートの習得 ⇒ 昼休みや全体練習後の特訓だけでなく、武里戦前に自ら朝練(寝坊して武里戦に遅刻)

  • 全国大会前の合宿(シュート2万本) ⇒ 夜間にビデオでシュートフォームの確認

 これらのことから、花道は人に見られている所でも見られていないところでも、変わらず努力する姿勢を見せ、先輩や指導者の適切な指導やアドバイスのもと、出来ることが増えていきました。
 これらの課題・花道自身の取り組む姿勢・アドバイスから、結果とともに自己効力感の向上にも繋がっていると考えられます。
 自己効力感とは、自分自身が目標を達成できるという信念です。自己効力感がある人は、自信を持って行動し、困難に直面しても諦めずに取り組むことができます。自己効力感は、過去の成功体験、モデルの存在、そして自己認識などの要素に影響を受けます。

1-2.関係性欲求とその支援:仲間・ライバルがいることの意味

 スラムダンクでは、花道の回りにいるキャラクター達から様々な刺激をもらいながら、花道自身もそのキャラクター達も成長していく姿が描かれています。簡単に列挙すると以下の通りとなります。

  • 流川:絶対的なライバル

  • 赤木:憧れ、少し先のなりたい姿、メンター的な存在

  • 木暮:頼りになる兄貴分的な存在

  • 桜木軍団:気の置けない仲間、リフレッシュさせてくれる存在、何かと手伝い、支えてくれる

  • 仙道、牧、清田・・・etc:バスケット選手としてライバル・徐々に認めてくれる存在

  • 安西先生:様々な助言により花道の成長を後押しする

  • 他高校の監督:試合中の花道の欠点をあぶり出し、結果的に花道の成長に繋がっていく

 これらの関係性が構築される中で、花道自身がバスケ選手として自己規律の能力を高めていきます。
 自己規律は、自分自身を管理し、自分の目標に向かって行動する能力です。自己規律がある人は、自分自身のモチベーションを維持し、自分自身を励まし、自分自身に挑戦することができます。自己規律には、自己管理、集中力、そして自制心などの要素が含まれます。

1-3.自律性欲求とその支援:「君次第です」の一言

 大前提として、花道自身が自分で考えてすぐに行動に移せるキャラクターであり、安西先生はその花道自身の行動や考えに対して常に支援的に接します。また、試合中は適切なタイミングでやるべきことを伝え、花道の試合での目的や役割期待を明確にしています。
 チームメイトで先輩に当たる三井や宮城、赤木、木暮も、練習中や試合中の花道のプレーに対して尊重する姿勢で接しています。
 このような環境に常に接していることで、花道の自律性欲求は基本的に阻害される環境では無かったように感じます。
 その中でも特徴的なのは全国大会前の合宿での以下のやり取りです。

(安西先生)
「インターハイまであと10日、その間はこのシュートだけを徹底的にやる、徹底的に」
「そのために桜木君はここで合宿です」
(花道)「は・・・・・・入るようになるのか・・・」
(安西先生)「君次第です」
(花道)「・・・・・・・・・・・・」

#194 合宿

 ここのシュート2万本合宿で花道が「入るようになるのか・・・」と、珍しく不安や疑問の反応を見せたときに、安西先生が細かいアドバイスではなく、「君次第です」と一言だけ伝えた場面は、改めて読み返したときにとても印象に残り、自己決定理論と照らし合わせて考えるきっかけとなりました。

 以上、スラムダンクでの花道の成長を自己決定理論に関連づけてまとめてみました。
 自己決定理論は、自分自身の行動を選択し、それを維持するために必要な概念について説明しています。自己決定、自己規律、そして自己効力感は、人が自分自身の人生をコントロールし、目標を達成するために必要な能力です。自己決定理論を理解することで、自分自身がどのように行動を選択し、それを維持するかを知ることができます。

 自己決定理論の枠組みを中心にDeciが主に執筆した書籍を、桜井先生と言う方が翻訳した「人を伸ばす力」は昔自分も読んでとても参考になりましたので興味のある方はぜひ手に取って読んでみてください。

2.勝負、そしてリバウンドメンタリティ

 2つ目に挙げるのは、やはりスポーツなので、常に勝敗がついて回ること。そして、負けや失敗・逆境とどのように向き合うのか、その姿勢について色々と示唆に富んでいる様に思います。
 スポーツ(特にサッカーの世界)で「リバウンドメンタリティ(RM)」と言う用語を良く聞くようになりました。
 リバウンドメンタリティとは、何かに失敗した際に、再度同じ失敗を繰り返さないようにするために、自分自身を奮い立たせる考え方のことです。「リバウンド」は「跳ね返る」という意味を持ちます。つまり、失敗から立ち直ることができる人は、その失敗をきっかけに、自分自身を改善することができるのです。
 リバウンドメンタリティを持つためには、以下の要素が必要と言われているようです。

  • 失敗を学びに変える:失敗から得られる教訓を見つけ、次に向けて活かすようする。

  • 自分自身に対する信頼を持つ:自分自身を信じ、自信を持ってチャレンジすることが大事である。

  • ポジティブな考え方をする:ネガティブな考え方ではなく、ポジティブな考え方に変換して行動する。

 参考のために、Jリーグで当時のチェアマンであった村井さんが新人研修で講演した内容の記事を添付しておきます。

 以下に、いくつかキャラクターの言葉を具体例にまとめていきます。
(たぶん、ちゃんと読めばもっと沢山あるかと思いますが・・・)

俺を倒すつもりなら、死ぬほど練習してこい

仙道 彰(陵南高校)

 これは練習試合の陵南戦後に仙道から花道に掛けた言葉。
その後、花道がより一層バスケの練習に励むようになる。

敗因はこの私、陵南の選手達は最高のプレイをした

田岡 茂一(陵南高校監督)

 陵南の田岡監督が、県大会の湘北戦に負けた後に述べた言葉、試合の敗北を選手のせいにするのでなく、指導者として自責の念を素直に表すだけでなく、負けたけれども選手の奮闘をたたえる一言。

君はまだ仙道君に及ばない
まずは日本一の高校生になりなさい

安西 光義(湘北高校監督)

 インターハイ前、流川が留学したいと安西先生に相談した際にいった言葉、この後流川がより一層練習に励むようになる。
 一方の安西先生にも選手のアメリカ留学には苦いトラウマがあった。

オレもアメリカに行くよ
今日、ここでお前を倒していく

流川 楓(湘北高校)

 山王工業との試合中、沢北とのマッチアップで翻弄された流川から出た言葉。
 流川はこのマッチアップ中に仙道から中学時代に敵わなかった相手がいたと言う話を思い出していた。また、マッチアップ中に沢北から流川自身の癖を指摘されるなど、1on1だけでは敵わない相手であることから、闘争心に火がついての言葉であった。
 この一言以降、流川が味方を使うプレイを取り入れながら沢北とのマッチアップで互角に渡り合い、試合の流れを再び引き寄せていく。

こんなでけーのに阻まれてどうする
ドリブルこそ、チビの生きる道なんだよ

宮城リョータ(湘北高校)

 山王工業との試合の最終盤。
 再びオールコートゾーンプレスを仕掛けてきた山王、深津と沢北にマークされ、深津から「抜けないピョン」「もうキレがないピョン」と挑発されながら、リョータの中で出た言葉(直接言ってはいないので、内言語・思考)
 そこからドリブルで二人を抜いて湘北の反撃に繋げる。

体を張れ むかっていけ
(それがお前のプレーだろうがっ)
そのでかい体はそのためにあるんだっ

田岡 茂一(陵南高校監督)・魚住 純(陵南高校)

 陵南の田岡監督が練習中によくセンターでキャプテンの魚住へ言っていた言葉。ゴール下で消極的になりやすい魚住へ自信を持たせるために使っていたが、これと同じ言葉を魚住自身が山王工業のセンター、河田と対峙している赤木に向かって伝える。

はいあがろう
「負けたことがある」というのが、いつか 大きな財産になる

堂本 五郎(山王工業監督)

 湘北戦に負けた後に監督である堂本が選手達へ伝えた言葉。3年間無敗で「王者」として自他共に勝つことが当たり前であった選手達に、この試合の敗北の目的・意味づけと今後の選手達の奮闘を後押しするための言葉。
 まさに「リバウンドメンタリティ」に繋げるための一言である。

最期まで希望を捨てちゃいかん
諦めたらそこで試合終了ですよ

安西 光義(湘北高校監督)

 最期はスラムダンクを知らない人でも一度は聞いたことがあるかも知れない一言。
 中学時代の三井寿に安西先生から掛けた言葉。また、山王戦の終盤でもベンチで桜木花道へ伝えている。

 以上、リバウンドメンタリティを持つことは、成功するために非常に重要で、失敗が避けられないことを理解し、失敗から学ぶことができる人が、最終的に成功することができる。つまり、成功するためには、失敗を受け入れ、次に向けて進むことが不可欠だと言うことをスラムダンクから学びました。

3.成長する人の条件

 以上、動機づけとリバウンドメンタリティの視点から今回の記事をまとめていきましたが、スラムダンクから、成長する人の条件をまとめると以下の要素が挙がりました。

1.地道な努力を継続できる

 花道に限らず、スラムダンクには地道な努力を継続して成長し、試合に出られるようになった選手が数多く存在します。以下、少し抜粋して挙げさせていただきます。

  1. 海南の宮益(初心者からベンチ入り) #105 天才と雑魚、#106 裸の桜木

  2. 海南の神(毎日500本のシュート練習) #120 SILK

  3. 湘北の木暮(陵南戦の3Pシュート) #183 メガネ君

  4. 山王の一之倉(スッポンディフェンス) #226 出来すぎ

2.人の意見を素直に聴く

3.自分で考える

4.すぐに行動する

【引用元】 発行:集英社『週間少年ジャンプ』 「SLAM DUNK」©井上雄彦 / 集英社 / アイティープランニング / 東映アニメーション / フラワー

 
 最期に、今内容内容を作成している途中で面白そうな本を見つけたので、引用含めて紹介として載せておきます。人はスキルだけでは成長出来ない、マインドセットが必要であると言う主旨の本のようです。

「他の人の考えや行動を変えるのって難しいですよね。ですから、そう考えて悩んでいても、状況が改善することってあまりないと思うんですよ。それよりは、誰が悪いとか、損だとか考えずに、自分にできることは何だろうって考えて、小さいことでもいいので、やると決めて行動する思考と習慣を身につけると悩みづらくなっていきます。それに、そのほうが自分の成長にも繋がることが分かっているので、心の健康にもとてもプラスなんです」

吉田 行宏. 成長マインドセット (pp.109-110). 株式会社クロスメディア・パブリッシング. Kindle 版.

 本を読む時間が無い方は、著者のホームページがありましたので、こちらに概要が判るようにまとまっていました。

 ここまでご一読いただき誠にありがとうございました。
 質問や感想、ご意見などございましたら、コメントお待ちしております。

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