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「オーダー車だから良く走る自転車とは限らないんだよ。」というお話(28)

「設計にまつわること」を続けます。

取材メモのうち、ミニベロ(=小径車)について記されていた箇所をまとめてみました。
前回までご紹介して来たような「奇抜なフレームデザイン」では無い、ダイヤモンド形フレームのミニベロについてのお話です。

廣瀬さんがお店を始めた頃流通していたダイヤモンド形フレームのミニベロは、乗り辛くて当然な代物と見做されていたそうです。
とてもじゃないが「良い走り」や「乗り味」等を求められる対象では無い、と世間では認識されていた…。

廣瀬さんが、どのようにダイヤモンド形フレームのミニベロを改善して来られたか。ご紹介していきます。

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設計にまつわること 14 「ダイヤモンド形フレームのミニベロ(小径車)について 1」


私のYouTubeチャンネルにおける「オーダーメイド車紹介」シリーズの中で、再生数が多い一台が、注文工作満載の白いミニベロです。

スクリーンショット 2022-02-09 10.34.22(3)

完成車紹介「ケーブル内蔵フレームのミニベロ」その1
https://youtu.be/4YdtxlTPYrc

このミニベロ動画をネットに紹介すると、「ヒロセ車には既定のモデルなんてものは無く、オーナーさんとの一対一の対話を経て、毎回ゼロから作られる」ことをご存知で無い世界中のミニベロファンから、「これを売って欲しい」「これと同じのを作ってほしい」といった内容のメールが定期的に舞い込んで来るようになりました。
その都度「このミニベロは特定の個人の為に作られたもので、世界に一台だけのもの。ヒロセでは、誰からのオーダーでも受け付けていますが、それには廣瀬さんと直接会っての綿密な打ち合わせが必要です。」等と廣瀬流オーダーのしきたりを英語で記し、返信したものです。

と同時に「こんなミニベロ、かっこだけで乗れたもんじゃ無いに決まってる!」等と、「ご自身では実際に乗って走ったことも無い自転車の走り」を中傷する国内からの書き込みも。
このミニベロのオーナーさんは、これに普通に乗られ、普通にあちこちを巡られていますし、一方的な決めつけの捨て台詞では全くお話に成らないので、書き込みは削除し、ブロックさせても頂きました。
しかし、これだけの工作を施して、なおかつ、普通に走るミニベロが存在することを、自転車製作に詳しい人ほど、信じられない気持ちになるのもわからないではありません。

廣瀬さんにこの書き込みのことを伝えると、これと通じる、昔のエピソードを教えて下さいました。

廣瀬さん、作ったミニベロが、あまりに普通に走るので、注文したオーナーさんに怒られたことがあるそうなのです。
「普通に走って、普通にあやつれて、普通に止まる。こんなのちっともミニベロじゃないじゃないか!」と。

昔は、ミニベロが良く走らないことが当たり前だった時代があったそうで、そういう時代においては「まともに走らない乗り物であるミニベロを、ベテランの俺様が、見事に乗りこなすことこそが粋でカッコイイのだ!」といった妙な美意識が一部の方々にあったそうなのです。
ここで云う昔のミニベロとは、モールトンやブロンプトンといった専用設計のものでは無く、あくまでもダイヤモンド形フレームのミニベロです。

大きなホイール径のダイヤモンド形フレーム用の設計思想や技術をそのままミニベロに転用、流用しても、普通に走る自転車にはならない…。
しかし、ミニベロとはそういうものだ、という共通認識があった。だから、皆が我慢して、あるいは、諦めて、良く走らないダイヤモンド形フレームのミニベロに乗っていた…。
だからこそモールトンなど、専用設計のミニベロが登場した…。
これが素直に捉えたミニベロの歴史なのだと思います。

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廣瀬さんは、独力で「こんなのミニベロじゃ無い!」と文句を言われるような、普通に走るミニベロの設計、製作方法を構築しました。

しかし、廣瀬さんも決して最初から普通に走るミニベロが作れた訳では無かったそうです。廣瀬さんのミニベロ第一号(1980年台の製作)はまったくもって酷い出来だったとか。
「自分で乗ってみたら、ちっとも良く無かったんだよ。いろいろ見直し、2台目以降は良くなっていったけどね。」と仰っていました。

下の写真がそのミニベロ一号とのこと。

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廣瀬さんがビルダーとして目指されたのは普通に良く走るダイヤモンド形フレームのミニベロでした。
しかし、間違えてはいけないのは、それは、大きなホイール径の自転車と全く同じように走れる小径車では無いということ。目指されたのはあくまでもミニベロとして、普通に良く走る自転車でした。
この違いは、この「ダイヤモンド形フレームのミニベロ(小径車)について」を最後までお読み下されば、ご理解頂けると思います。

まずは廣瀬さんが設計上、具体的に小径車のどこを見直し、どういう工夫をされていたか。具体的に二つ、ご紹介します。

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