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#3 企業スローガンの英語化に、反対します。

企業スローガンというのは、主に目にするのは広告になるけど、企業理念のエッセンスをキャッチフレーズ化したもので、タグラインとも言われます。キャンペーンスローガンとは違うもので、キャンペーンで使ってたものが企業スローガンまで格上げされることもあるでしょうが、知ってる限りでは旭化成の「昨日まで世界になかったものを。」くらい。これは企業広告のキャッチフレーズだったけど、その時点で企業の理念やビジョンをしっかり言い当てたからこその昇格で(素晴らしい)、珍しいことだと思います。それはともかく、企業スローガンはその企業のブランディング上、思いを伝えるという重要な役割を果たします。多くの広告はものを売るために作られるので、思いを伝えるバランスは低いのが普通ですね。コマーシャルでは企業広告を除けば、せいぜい最後にロゴと一緒にスローガンを出して「ちょっと思いも」という感じでしょう。スローガン無しも、良く見ます。

それでちょっと気になるのが、企業スローガンはあるけど、どうも英語が多いこと。なぜだかね?「Inspire the next.」「Eat well,Live well.」「The Power of Dreams.」「Value from Innovation」といったところが有名ですね。企業スローガンの位置づけじゃないのがあったらゴメンナサイ。で、海外の企業ならともかく、日本企業が英語のスローガンを使っているのは、まあまあ不思議です。グローバル感とか、先進感があると良いのかもしれないけど、思いを伝える意味ではかなり損してると思いますよ(僕が思ってもどうでもいいでしょうけれど)。

日本人の言語感覚では、外来語と日本語では、腑に落ち方が変わります。もっと言えば、訓読み、音読みでも変わります。音読み、もとは中国語ですからね。思いを素直に伝えようとするなら、やはり英語よりは日本語の方が有利です。

海外の企業ならともかく、と書きましたが、外資企業の方が、思いを伝えることに神経を使っていることが多いかもしれない。昔、NIKEが日本で人気が出始めた頃に、「どうも"Just Do It."は、なんとなくカッコいいって思われてるだけらしい」ということで、"Just Do It."の言わんとするところを表現する企業コマーシャルをつくったこともあるくらい、真剣です。

また、最近チェックしていないので、もう違ったらすみませんが、BMWのスローガンは本国ドイツでは"Freude am Fahren.”、アメリカでは"Ultimate Driving Machine.”、そして日本語では「駆けぬける歓び」と、ローカライズされています。国ごとに思いを伝えることに熱心なわけです。スローガンからはちょっと離れますが、BMWの仕事をしたときに人伝えで聞いたのが、「ミュンヘンの本社では、役員たちが毎週木曜日の午前中、定例会議をする。議題はいつも『BMWとは何か?』に決まっている」というものでした。

このように、自分たちの思いをしっかり考え、伝えるのは、ブランディングの観点で考えると、これからさらに重要度を増すでしょう。今の人たちは、企業を製品の優位性だけでなく、どんな思いでいるか? どんなビジョンを持っているか? で判断するようになりましたからね。

そういうわけで、自分たちの思いを伝える大事なスローガンを、伝わりにくい言語で表現することはやめたほうがいいというのが、僕の意見です。さらに、多くの広告はものを売るために作られると書きましたが、コマーシャルでも最後のロゴとスローガンだけじゃなく、もっと思いを伝えるように、「もの訴求」に対する「思い訴求」のバランスを上げるべきだと思います。

そういえば、企業スローガンで思うことをもうひとつ。現状とズレがあるものを使ってはいけません。例えばサントリーの「水と生きる」です。サントリーにはサントリーウエルネスという会社があって、そこでは健康食品や化粧品を扱っています。とても人気のあるスローガンですが、健康食品会社の「水と生きる」はよく分からないですね。いや「水と生きる」は飲料系の理念だろう、って思いますか? でも、これ、ホームページに行くと「サントリーグループの約束」と書いてあるんですよ。サントリーウエルネスに勤めてる人はどう思っているんでしょう。自分たちの仕事は主流ではないって思わないか、他人ごとながら心配です。

この、現状とズレのあるものは使わないって話は、企業スローガンに留まらず、理念体系をまとめる上でも大切です。これらは、会社を支えている事業で考えるのではなく、会社が本来何を目指しているのか、存在意義は何なのか、どういう会社になろうとしているのかに従って考えられるべきです。それでこそ、より多くの社員と、より多くのお客様の共感を得られるはずですから。

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