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世界一やさしい「研究テーマ」の見つけ方

佐藤ひろおです。早稲田の大学院生(三国志の研究)と、週4勤務の正社員(メーカー系の経理職)を兼ねています。

今回はある本を参考にして、世界一やさしい「研究テーマ」の見つけ方を整理したいと思います。研究のモヤモヤから解放されるメソッドです。
#卒業論文 #修士論文 #博士論文
すべてに当てはまるでしょう。

テーマ探しを妨げる5つの誤り

最初に、研究論文のテーマ探しを妨げる5つの間違いをあげます。直後に矢印を置いて、正しいことを書きます。

間違い①
「一生続けられること」でなければならない
→ いま一番やりたいことをやればいい

間違い②
研究テーマを見つけたとき「運命的な感覚」がある
→ 研究テーマを見つけても最初は「興味あり」のレベル

間違い③
「人のためになること」でないといけない
→ 自分のために研究した結果、人のためにもなる

間違い④
テーマを見つけるには「たくさん勉強」あるのみ
→ テーマを見つけるには自分を理解する

間違い⑤
研究したいことが「論文」にならない
→ 研究したいテーマは自分のなかにあるが、
論文化の方法は研究史(先行研究の流れ)のなかに

テーマ探しを最速で終わらせる公式

研究テーマは、自分のなかにある。
ただし、やみくもに内省しても苦しいだけ。
以下の3つの交わるところを、研究テーマとすればよい。

A 好きなこと(情熱がある)
B 得意なこと(才能がある)
C 大事なこと(価値観)

ぼくの具体例をつかって説明しましょう。

◆A 好きなこと(情熱がある)

A 好きなこととは、題材として興味があること。
ぼくの場合なら、三国志です。
しかし「三国志が好きなので、三国志の論文を書く」だけでは、まだ完成に遠い。好きなことのみ発見した段階で、大学の先生に「三国志の論文を書きます!」と言っても、「どうやって?」と困惑されます。

情熱は大いに結構であり、研究の最初の原動力になります。
しかし、A 好きなことが暴走すると、題材の名を連呼する「熱心なファン」になります。「三国志!三国志!」とか「諸葛孔明!諸葛孔明!」とか叫ぶことになります。
三国志好きのオフ会・イベントなどにいくと、このタイプの人とたくさん出会います。趣味として楽しむ分にはこれでよいのです。しかし、研究テーマを見つけるとなると、次の観点も必要になります。

◆B 得意なこと(才能がある)

B 手法として得意なこと。むりな努力をせずとも、他人よりも出来ちゃうこと。その行動自体に熱中し、苦にならないこと。

ぼくの場合なら、歴史書(漢文)の文字を一字ずつ点検すること
これが得意なことの1つ。※他にもありますが
ほかの人からしたら、「面倒くさいだけ」「目が疲れるだけ」と敬遠されますけど、ちょっとした文字遣いの変化や差異を追いかけると、脳汁(ドーパミン・アドレナリン)が出ます。

論文と関係がありませんが、ぼくの会社員としての仕事も同じ。だれかの無理解やシステムのエラーなどで集計結果が不適切なとき、数千件のデータを突合(突き合わせ)する作業が発生する。どこでどういう不照合が起きたか探索し、不具合の規則性を見つけ、不具合が起きた理由を推定し、修正するのは作業として好きだった。※Excelを使った作業

ただし、B 得意なことが暴走すると、エンドレスな作業を延々とやっているけれど、「で?」と言われて終わります。がんばったのは宜しいが、「ご苦労さまでした」以外に返ってくる言葉がない。
それ自体が楽しくて、麻薬的に没頭しちゃうので罠でもあります。

◆C 大事なこと(価値観)

C 大事なことは、「価値観」とも言い換えられて、「どうありたいか」という状態を指します。

ぼくの場合なら、歴史書(漢文)を正しく理解していたい。
歴史書に出てくる文字やことばを誤らずに理解したい。どういう約束ごとで書かれているのかも、正しく理解していたい。書かれたときの時代背景(当時の常識)や、書いた人の境遇も含めて、きちんと頭に入れた上で、正しく理解していたい。
21世紀日本の「直感的な常識」を強引に当てはめて読むのではなく、その歴史書がもともとどのような書物であり、何を書き、何を伝えようとしていたのか、正しく理解していたい。

C 大事なことは、内側に向かえば、勉強の目的になる。外側に向かえば、成果を発信する目的になる。
ぼくの場合、価値観が内側に向かえば、「歴史書を正しく理解したい」から勉強するのだ、となる。この件を論文を書いて発表するなら、「歴史書を正しく読むひとを増やしたい(読める状況を作りたい)」というかたちで視線の角度が少しだけ上がるだろう。

現代で三国志に興味を持ったひとが、1人でも多く歴史書を読めたらいいなと思うし、1年でも長く、1世代でも先まで、古い文献の読みの伝統が広がり、「選手層が厚く」存続してほしいと感じる。
この価値観は、研究テーマを見つけるために捻り出したというより、もともと持っている考えだと思います。だから自分で大学院に学びに行こうと思ったし、一般の三国志ファン向け(大学外)に本を書いたり講演を書いたりしています。
歴史書『晋書』の翻訳プロジェクトを主催するのも同じ価値観の一側面。
http://3guozhi.net/sy/top.html

C が暴走すると、「こうあるべきだ!」という主張を押しつけるだけの困った論客になります。インターネット上の匿名の書き込みに多い印象です。研究という文脈ならば、具体的な題材を用い、データ等を積み上げることで、はじめて大事なこと(価値観)を表明できるでしょう。

ぼくの場合、歴史書の三国志(A 好きなこと)、文字遣いの検証(B 得意なこと)という具体的な材料を切り捨て、「とにかく歴史書を正しく読むべきなんだ!」と叫んでも、だれにも何も伝わらない。

研究テーマはABCの交点

研究テーマには、
・A 好きなこと(情熱がある)
・B 得意なこと(才能がある)
・C 大事なこと(価値観)
の交点から見つかるのではないか?という話でした。

各項目で、1つに偏った場合の落とし穴を書きました。
2つのみの場合(残り1つを欠いた状態)でも、やはり不十分です。

たとえばぼくの場合、
・A(三国志)を欠落させて、ローマの歴史書の文字遣いを検討して、歴史書の正しい読み方・読まれ方を検証する
・B(微細な文字の検討)を欠落させて、歴史書から離れ、三国志の人物が後世どのように政治の手本にされたかを論じる
・C(正しく読みたい)を欠落させ、歴史書三国志のさまざまなバージョン(版本)の文字比較のみを機械的にして系統図を作る

上記の「3つのうち1つを削った」テーマも、十分に研究として成り立つものです。これらの研究が悪い、と言いたいのではありません。ぼくがやる理由が相対的に少ない、やっても優位性がない、というだけです。

A 三国志を題材とし、B 三国志の微細な文字の検討が関わることで、C 歴史書を正しく読むための研究がしたい(読める状況を維持したい、より広めたい)、これを兼ねるのがぼくの研究テーマだ、と定まります。

「実現手段」は先行研究にある

自分の内面を掘り下げて、研究テーマは決まりました。
しかし、まだ論文を書き始められない。なぜなら、このテーマを研究として成り立たせる(論文化を可能にする)方法は、自分のなかにはないからです。これ以上は、内省を続けても、かえって危うい。

論文化を可能にする方法はどこにあるのか。
自分の外側。先行研究です。

A 三国志を題材とし、B 微細な文字の検討に関わり、C 歴史書を正しく読むことについて、どのような先行研究があるか。類似する研究テーマについて、先人はどのような切り口・材料を使ってきたか。
先人の成果で完全にテーマが一致し、「何も足せない・何も引けない」ことは稀だと思います。

A・B・Cのうち、1つぐらいならば完全に一致していることはあるでしょうが、2つ・3つが一致することは確率論的に減ります。
反対に、A・B・Cの三者が完全に一致するけれど、どうも結論に納得がいかないなというとき、乗り越えるターゲットのロックオン状態(固有の他者)。譲れないテーマなら挑むことで、「論文化ができない」という悩みはなくなります。※乗り越えられるかは自分次第

ぼくの場合、研究室の先輩から、
A 三国志を題材とし、B 微細な文字の検討をし、C 歴史書の読み方を研究した学問が、中国の清の時代(日本の江戸時代)にあることから、それを研究対象にしたらどうか?とヒントを頂きました。
※もうちょっと示唆的・断片的な言葉だったと思いますが

清の時代の学者が、A 三国志を題材に、B 微細な文字の検討をし、C どのように「正しく」歴史書を読もうとしていたか?
という観点から、清代の学問に関する先行研究を見てみると、まだ「何かを足せそう・何かを引けそう」な予感がありました。

三国志の微細な文字の検討をした清代の文を読むことは、一般的には苦痛でしょう。しかし、ぼくは清の学者を「同じB 得意なこと」を持った先輩として仰ぐことができますから、苦になりません。
どちらが A 三国志を偏愛しているか?という対抗心も燃えます。

清の時代から見れば、三国志は1500年前のこと。ぼくらには、三国志は1800年前のことです。「歴史書を読み、三国志を知ろうとする」とき、1500年も1800年も誤差です。清の学者が C 歴史書をいかに「正しく」読もうとしていたかを分析することは、今日の自分たちがいかに「正しく」読めるか?に接近します。
自分の内部のABCと交点を保ちながら、自分の外部にある清代に関する先行研究に「何かを足す・何かを引く」ことができたならば、それは論文化に堪え得る研究テーマになるのではないか??

いったん落ち着きましょう。。

この記事の方法論(メソッド)とタイトルは、

この本のものを借りました。著者の八木仁平さんは、仕事の「やりたいこと」の見つけ方を整理しています。ぼくが勝手に置き換えて、研究のノウハウにも流用し、自分の例に引きつけて説明してみました。

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