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ぼくらの働き方と賃金を決める「資本装備率」

佐藤ひろおです。会社を休んで早稲田の大学院生をしています。
三国志の研究を学んでいます。

よくある質問。「大企業の社員の給料は、なぜ高いのか?」

納得できなかった説明

大企業は「名門」だ。入るのが難しい代わりに、給料が高くていい生活ができるのだ……というのは、なんの説明にもなっていなくて、特徴をなぞっているだけです。無意味な回答。
昭和時代から続いている企業は、高度経済成長の恩恵を反映した給与設定になっている。給与は、いちど上がると下げづらいので(下方硬直性)、伝統的な企業は給与が高いのだ」という説明を読んだことがあります。失われた40年になんなんとしている時代に、高度経済成長に遡って説明するのは、さすがにナンセンス。
昭和から続いている企業は、労働組合がある。労働組合による賃上げ交渉の成果が蓄積されている」という話も聞いたことがあります。ぼくの肌感覚として、労働組合にそこまでの交渉力がある、という気がしない。経営者と労働組合は同輩なんです。

おそらく正しい説明

大企業の社員の給料が高い理由は、社員が生み出す価値(要するに利益)が大きいからだと思います。
ただし、大企業の社員は優秀だから、ではありません。
では、なぜ大企業の社員のほうが、高い価値を生み出せるか。それは、「いい道具を使わせてもらっているから」でしょう。屈強な男が体力の限界までものを担いで走るよりも、標準体型のひとが軽トラックを使ったほうが、輸送効率はいい。その延長だ。

どれだけいい道具を使わせてもらっているか?
を「資本装備率」といいます。

いやいや、生半可な説明をするなよ、と言われるでしょう。Google検索すると、資本装備率の説明は、以下のとおり。

資本装備率とは、総資本を労働力で除した指標で、これが高ければ高いほど資本集約的となる。 反対に、低くなるほど労働集約的と評価することができる。 また、生産性向上のためには、投資した機械や設備が効率的に活用されることも重要である。

悪くない説明だと思いますけど(十分わかる)、ややしんどい。

ぼくにとって、異業種のあいだで比べることに意味は感じられなくて(仕事内容が違えば、おのずと「どれだけ道具に頼れるか」が変わる)、同じ業種のなかで、「どれだけ道具に頼れるか」を比較するとおもしろい。

大企業は、いい道具を労働者に使わせることができ、生み出せる利益が大きくなりがちで、そのぶん、分配される給与も増える。

ここでは分かりやすく「道具」といいましたが、土地・建物、工場などの生産設備などもこれに含みます。会社の信頼と実績、ブランド、かんばん・のれんなどの「無形」資産を、ここでいう道具に含めてもいいでしょう。

働き方への影響

以上が数字の上での説明ですけど、ぼくは体感的に、この「資本装備率」が、労働者の「働き方」に影響すると思うんです。

大企業でいい道具を使わせてもらえるということは、見方を変えるならば、「道具に使われる」という側面が大きくなります。道具の使い方のルールを厳守しなければならない。職場のルール、拘束力がおのずと増える。堅苦しくなります。
大企業の人使いが非人間的だとか、組織が旧弊を払拭できずに淀んで腐敗しているとか、そういう印象論ではありません。「値段が高くて高性能の道具を使う」ならば、必然的にルールが増えます。だって、道具を壊されたら困るので。みんなで協力し、安定的に使うべきなので。

では、「資本装備率」はどれぐらいが最適か?

企業活動の分析とか、会社経営で設備投資の決断をするときは、その良し悪しを数字で割り切れるでしょう。

しかし個人の場合、業種・会社選びにおいて、どこまで道具を利用・道具に依存した働き方がしたいかは、「好みの問題」ではないか。
どこまで「腕一本」でやりたいか(やりがいは感じやすいが、給料は上がりにくい)。どこまで「組織の力学」に巻き込まれたいか(やりがいを見失いやすいが、給料は高止まりしがち)は、好き好きです。

資本装備率の高低の例

パソコンが1台あればできる仕事(物書き、youtuber)は、「資本装備率」が低い仕事ですね。
これは、現代における「腕一本」の「ひとり親方」です。そのような働き方をすれば、給料は上がりにくい。蟷螂の斧。
小説家になって出版して一発あてて印税生活をしようとか、youtuberになって富豪になろう!というのは、ウソです。もしくは、そのように煽ることで利益を得ているひとのポジション・トークです。

大企業に勤めているひとは、「あなたにとって仕事とは?」「仕事における喜びとは?」というインタビューを受けても言い淀む。これは、いい道具を使わせてもらっている代わりに、日々オリジナリティを発揮していないから。発揮する必要がないから。発揮していはいけないから。
では、これが不幸な働き方か?というと、そうではない。むしろ、自分が目先では「たいしたこと」をせずに、高い利益を生み出すのは、経済活動の粋を集めた成果だと思います。

個人のキャリアと「資本装備率」を組み合わせた話は、ほかで読んだことがないのですが、リンクさせたら理解しやすそう。働くときの幸せの感じ方、満足度に関わりがある指標だと思います。少なくとも、「大企業の歯車」みたいな、悪意を持った比喩よりは見通しが良くなるのではないか。

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