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柴犬サチがすずと呼ばれるまで
実家に暮らす柴犬の「すず」。先代犬コタロウが亡くなった日に、我が家に迎えることを決めたいきさつや、現在のすずのことなどを綴ってみます。
コタロウについての記事はこちら。
出会い
柴犬のすずは2011年生まれ。現在11歳の女の子です。すずと暮らし始めてもうすぐ6年になります。あれ?計算が合わないな、と思ったことでしょう。そうなんです。すずは、5歳の時に我が家にやってきた子なんです。
すずとの出会いは2016年。当時私は、毎朝公園を散歩していました。ウォーキングコースのほかに、野球やサッカーができるグラウンドがある広い公園です。
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散歩の目的は、朝の気持ちのいい空気を体内に取り込むことや、小鳥のさえずりを聴くこと、公園内の大きな桑の木の実を数粒いただくこと、健康維持のためなど、いろいろありましたが、一番は
散歩している犬に会うこと
でした。朝の散歩で犬と出会えると、飼い主さんとお話したり、OKをもらってなでさせてもらったり。実家にコタロウがいたけど、住んでいるアパートには犬がいないので、散歩先でモフモフ不足を満たしていました。
そんなときに一匹の柴犬に出会いました。
サチという名の犬
毎朝、おじいさんが運転する車に乗り、公園にやってくる柴犬です。
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おじいさんにあいさつし、お話を聞いてみました。
名前はサチ、4歳の柴犬の女の子
おじいさんの息子が飼い始めた犬だった
息子が転勤になっため、自分たちの元へ預けられたこと
とてもおとなしい犬であること
夫婦は80代なので、サチの今後が不安
おじいさんは、成り行きでサチと暮らしているといった風で話してくれましたが、毎朝欠かさず、車で散歩に連れてきていることから見ても、おじいさんなりにとても大切にしていることが伝わりました。
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走ることが年齢的に難しいおじいさん。一方若く体力のあるサチ。おじいさんはサチのことを考えて、数メートルはあろうかという長い長いロープを巻いて持ち、それをサチの首輪につなぎ、ロングリードとして使っていました。
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おじいさんはロープを伸ばし、サチはグラウンド中を自由に走りまわることができるというわけです。その様子が微笑ましく、毎日会うのを楽しみにするようになりました。
毎朝の日課
公園で出会う犬たちの中でも、私はサチのことが一番気に入っていました。サチは人が好きで、撫でられることも好き。私はサチに会うたびに、「サチ!」と名前を呼んで撫でまわし、おじいさんと話しながら、散歩も一緒に歩いたりしていました。
そういうことを繰り返していたら、徐々にサチも私を「遊んでくれる人」と認識したようです。公園でサチに出会うと、サチは尻尾を振り、走り回り、私を呼ぶように吠え、全身で表現するようになりました。
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その姿を見たおじいさんが
サチのこんな嬉しそうな姿を、初めて見た
と言ってくれました。
おじいさんの提案
サチとの朝の時間を楽しんでいたある日、おじいさんからこう切り出されました。
サチを引き取ってくれんか?
詳しく聞いてみると、おじいさんの話はこうでした。
私たち夫婦は80代の高齢
今後、散歩もできなくなるだろう
何かあったときにサチを1人にするのはかわいそう
今から新しい家族に引き渡して安心したい
サチもあなたを気に入っているから安心だ
サチのことを考えての決断のようでした。
私は、保護犬の里親探しにも熱心な母にも、サチのことを話していました。いざとなれば、私たちがサチの里親を探すお手伝いができるかもしれない、という思いもあって、私はおじいさんとの距離を縮めていた、というところもありました。
犬との暮らしがなくなること
サチを引き取って欲しい、というおじいさんからの提案だったとはいえ、ご夫婦が大切にしていた犬です。犬と暮らさなくなることで、ご夫婦が元気をなくしてしまうことも考えられました。
毎朝の散歩がなくなることで、外出が減る
愛情を注ぐ対象がいなくなる
心にぽっかり穴が開く
母と私はそんな心配をしました。
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犬は私たちに無償の愛を注いでくれます。毎日散歩をすること、季節の移ろいを感じること、犬との暮らしは、思っている以上に私たちに素敵な時間をもたらしてくれます。それがなくなることによる影響を心配した私たちは、
何かあったらサチを我が家で預かること
我が家には先代犬がいるので、サチを飼うことはできないが、里親探しはすること
を伝え、一度、我が家にサチと一緒に来てみませんか?と提案しました。何かあったときに預かってもらえる場があれば、おじいさんにも安心してもらえると思いました。私たちも、もし預かることになった場合、先住犬(当時元気だったコタロウ)との相性も確認したいとも思っていました。
サチ、コタロウ家にやってくる
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母とコタロウが暮らす実家に、おじいさんとサチは車でやってきました。サチは母にもすぐに懐きました。普段、他の犬には興味を示さないコタロウも、サチを目の前にしたらなんだかキリっとした感じ。小柄だと思っていたコタロウが大きく見えるほど、サチはもっと小柄な柴犬でした。
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我が家とサチとの相性も、良さそうでした。おじいさんも、私たち家族を見て、安心した様子で帰宅されました。
私はその後も朝の公園で、サチとの逢瀬を重ねました。おじいさんは、安心材料ができたとはいえ、サチを引き取って欲しいと、たびたび言われました。多分、安心して次の家で暮らすサチを、その目で見届けたかったのだと思います。
コタロウが逝く
サチと出会ってから半年ほど経った2016年の冬、コタロウが天に旅立ちました。突然のことでした。コタロウについての記事はこちら。
コタロウのことを少しお話します。私たちがコタロウを家族に迎えたのは、初代犬アトムの死後1ヶ月でした。アトムを亡くした悲しみを埋めてくれたのがコタロウでした。私たち家族はアトムにもっとしてあげたかったことをするように、コタロウに愛を注ぎました。けれど、代役というわけではありません。
この世に里親を募集している犬がいて、その1匹を家族に迎えることができるなら、微力だとしても迎えてあげたい。それが私たち家族にできることだと思っていました。
コタロウが亡くなったその日、母と私は決心し、おじいさんに連絡しました。
サチを家族に迎えたい
こうして、次の春、サチは我が家にやってきました。
サチ、すずになる
コタロウが亡くなった冬が明け、暖かくなった4月。春とともにサチは我が家にやってきました。
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おじいさんは、サチのために使っていたベッドや毛布、首輪、リード、おもちゃ、あらゆるものを持ってきてくれました。
おじいさんには
いつでも遊びに来てください
こちらも遊びに行きます
名前を「すず」と呼びたい
と伝えました。
公園で出会うまで共通点のなかった私たち2組の家族の交流は続いていきました。おじいさんは時々、我が家に来ましたし、私たちも、おじいさんの家にすずを連れて行きました。
すずの里帰り
初めておじいさんの家にすずと行った時のことです。
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もしかしてすずは、おじいさんの家から帰りたがらないかもしれない。おじいさんとまた離れることを、寂しがるかもしれない。と不安に思いました。
おじいさんの家に到着するなり、すずは、わがもの顔で家の中にスタスタと入っていきました。おじいさんとの再会を喜んでいました。足の不自由なおばあさんにも撫でられて、嬉しそう。何よりご夫婦が嬉しそう。
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ひとしきりお話して、さぁ帰ろう、という時のこと。
すーちゃん(すず)、帰るよ
と母が声をかけたら、すずはあっさりと車に乗り込んだのです。
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すずは、我が家に来た最初の一晩だけ、寂しそうに鳴きましたが、すっかりうちの子になっていました。こうして里帰りをしても、すずはもう、私たちの家を自分の家だと認識していました。
おじいさんもちょっぴり寂しかったと思います。すずも最初は、突然の家族との別れを寂しく思ったと思います。すずが私たち家族を家族として見てくれる嬉しさの反面、全て人間のエゴだよなぁ、と胸が痛んだのも事実でした。
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田舎生活に馴染むすず
おじいさんの家は、散歩コースの公園まで車で移動しなければならない住宅街にありましたが、我が家はのどかな田舎。すずはコタロウと同じく、庭での生活を楽しんでいました。時にはドッグランで遊ぶことも。
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コタロウと同じく、とにかく外が好きなすず。虫やトカゲ、カエルを追いかけるのにも、夢中になりました。
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散歩は朝晩、しっかりと。父と母の健康維持のよき相棒です。母は大工さんに頼んで、すずのための木製の温かい家を作ってもらっていました。父はすずの暮らす土間に、薪ストーブを投入し、土間の扉に犬用の小窓を作りつけ、いつでも自由に外に出れるようにしてくれました。
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別れ
おじいさんは時々、すずに、といろんなお土産を持ってきてくれました。
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だんだんとその回数が減り、「最近おじいさんどうしているかねぇ?」と母と話していた2021年の年末。
1通のはがきが届きました。
おじいさんの家族からの、喪中はがきでした。
公園で出会って4年後、おじいさんは旅立ちました。おばあさんも既に入院されていたため、あの家にはもう誰もいません。
サチは独りぼっちになることはありませんでした。おじいさんのサチを思っての決断は、結果的に、サチを救ったことになったのかもしれません。
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何が正しいかは分かりません。サチはサチのままで、最期までおじいさんと一緒にいても幸せだったと思います。
私たちも、すずと出会えて幸せです。そして、すずがいつまでも元気でいてくれたらな、と思うし、おじいさんにも安心してほしいなと思う、ただそれだけです。
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保護した犬たち
私の母は、犬を保護することに情熱を傾けています。犬を好きな仲間との個人的な活動ですが、犬を飼いたいという人と保護犬とのマッチング、野良犬の子犬の里親探し、飼育放棄されている犬の救出など。
母には本当に、頭が下がります。その愛情、その行動力はどこかから来ているだろうか、と娘の私は尊敬しっぱなしです。私のアパートは犬と暮らせないので、せめて情報発信担当として、母の手伝いをしています。
私が犬のことを発信するのは、「犬との暮らし」を考えている人に、少しだけ、保護犬のこと、里親のことも考えてもらえるきっかけになったらいいな、と思うからです。
「犬と暮らしたい」と思う人にも、そして逆に「犬と暮らすことはあきらめよう」と決断するためにも。犬との暮らしは楽しいです。だけど、年齢、環境、家族、健康。いろいろな要素で、突然犬と暮らせなくなる人を見てきました。そのことを伝えたいとも思っています。その上で、「飼わない」という選択も、犬を守るひとつの選択だと思うのです。
今後はこれまで我が家で長期に預かった保護犬たちのことも、綴っていく予定です。
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笑顔いっぱいのビーグルの女の子、ジホちゃん。この子との出会いも暮らしもドラマでした。
次回はシンデレラガール「ジホ」のお話をしたいと思います。
また次の記事でお会いしましょう!
入海ヒロの「犬と暮らす」マガジンはこちら。
追記
読んでくださった、ライターの雨宮べにさんが、記事にしてくださいました!迷いつつ書いたこの記事を、私の想いよりはるかに優しく温かく読み解いてくださいました。
この記事が受賞したコンテスト
フィンランド情報のリサーチと執筆への活力に、記事でまたお返ししていきたいと思います。また、犬猫の保護活動団体に寄付することもあります。