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家計データからCO2を算出する

1.家計データからCO2排出量を算出し「見える化」

日経新聞のPro会員向け記事に、興味深い取り込みを見つけました。その記事はニュージーランドの環境系フィンテック企業コーゴが日々の支出から消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を算出するカーボン・フットプリント(CFP)管理サービスを日本で始める、というものです。
このサービスでは、銀行やクレジットカードなどの金融データ(取引明細データ)を使い、さらに各取引明細データのカテゴリー(約500)の取引に独自の「排出係数」を割り当てて、取引明細の支出金額を掛けて算出するというもの。つまり、
 ガソリン 1万円 ✕ (ガソリンの排出係数)
 スーパー 5万円 ✕ (スーパーの排出係数)
 ・・・
のような算出です。この排出係数はサービスを提供する国ごとに異なるデータを設定しているようです。その算出方法とは以下のように書かれていますので、このカテゴリごとに決められる排出係数というものに、この企業のノウハウがあるようです。

排出係数はサービスを提供する国ごとに異なるデータを設定する。例えばパンの場合、小麦を輸入しているか自国で生産しているかでCO2の排出量が違うからだ。燃料構成や国民の消費動向、生活習慣も異なるため、各国の公的機関や専門機関、大学の研究室などと連携し、国ごとに排出係数を決めている。
電気代やガソリン代などは単純に排出係数と取引金額を掛ければ出るが、難しいのがスーパーや外食店など1回の取引で様々な商品・サービスを購入するケース。その場合は国が公表する、実際の購買行動をもとに国民の平均的な買い物かごの中身を調べたショッピングバスケット分析の平均構成支出割合などを活用して算出する。アプリの初期設定でベジタリアンかどうかや再エネ由来の電気を使っているかなどを入力しており、その回答も反映して数字を導き出す。

2023/6/6 日経産業新聞

2.二酸化炭素の見える化で「排出削減の行動変容」

このサービスの目指すところは、個人が自分の排出したCO2の量を知り、排出削減の行動変容につなげる、という点です。このサービスにおいては、
 ・前月の排出量との比較(視覚化)
 ・応援メッセージを表示(コミュニティ)
 ・環境負荷が低い商品・サービスを選択した場合に拍手アイコンを表示
 (ゲーミフィケーション)
と健康サービスなどでも取り入れられるような行動変容モデルをうまく取り入れている点、とても画期的だと思いました。
この記事で驚いたのは、ロンドンでのその行動変容の実績です。

例えば英国では、平均的な利用者は肉の消費量削減などを通じて1カ月あたりのCO2を約11キログラム削減したという。コーゴの宇田川和宏ジャパンカントリーヘッドは「消費者が問題意識を持って行動を改善することで排出自体を減らすことが重要」と力を込める。

2023/6/6 日経産業新聞

3.排出量を起点としたプロモーション施策

さらにこのサービスをビジネスに繋げ、持続可能な状況にしているという点に興味を持ちました。上述したような見える化と個人の行動変容のみでは、なかなかマネタイズが難しいと思うのですが、さらに企業を巻き込むことで、企業による、個人のCO2排出量を起点としたビジネスを展開し始めているという点です。

コーゴはサービス拡大に向け、世界の金融機関と連携を進めている。金融機関はガソリン支出が多い消費者に電気自動車(EV)乗り換えローンやディーラー紹介をしたり、光熱費が高い消費者にリフォームローンを紹介したりするサービスにつなげられる。宇田川氏は「今後は金融機関の幅広いリーチと影響力を通じて、より多くの消費者の行動を変える動機やインセンティブを提供できるようにしたい」と語る。
現在は各国の銀行と組み、欧州やオセアニアを中心に約10カ国でサービスを展開しており、英国では30万人以上の利用者がいる。近く北米でサービスを始める。日本では2021年度の東京都の「グリーンファイナンス外国企業進出支援事業」に採択され、補助金を受けて事務所を設立した。年度内にも日本の3つの金融機関と組んで実証導入を目指す。

2023/6/6 日経産業新聞

4.気候変動への興味の高さと購買行動の低さのGAPを埋める

日本の気候変動関心層は高水準であっても、実購入が低いというアンケート結果も出ているようです。企業の商品・サービス開発、マーケティング戦略に課題とも書いてある以下の記事を読んでると、このコーゴ社の取り組みは日本においてもうまくビジネスモデルと組み合わせたことができるのではないか、期待を感じます。

すでに日本ではクラウド会計などのデータアグリケーターのほか、ポイント制度を持つ企業やオーガニック製品に力を入れる大手スーパーなどと連携しサービスを展開する方針とのこと。このサービスによって、個人の意識が変わることを期待しています。


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