スキ! になると怖くなる【第1話】
「もうゼッタイにこの手を離さないでよね」
「うん」
「ゼッタイだよ」
「もちろんだって……」
あれはいつだったかな、大好きな彼と約束したのは。
もう忘れちゃったっけ。いつのまにか。
仕事が終わった後、ジムで汗を流したあとはヨガで瞑想。クールダウンしてグリーンスムージーを一杯飲む。まだほてったからだに冷たいスムージーがひんやりと響く――まいっか。
彼と別れたのは2年くらい前、夏が終わったころだった。付き合って3年。これからかを考えようというときだった。
ことしのクリスマスはどうする? 他愛もないやりとりをして、空いた日に逢おうねと言い合っていた。けれど秋を迎えたころから返事が途絶えがちになった。
きっと忙しいんだろうね、ケイくんも。
LINEの既読も最初はついて、リアクションがあったけど、だんだんとそれも減ってった。ようやくつながって「最近どう?」と尋ねても「うん、最近仕事が立て込んでいてね、ゴメン今度挽回するから」「ムリしなくていいよ~(^^♪」と送ったのが最後だった。
たぶん、縁がなかったんだ。
中学からの親友モモと話した。そうだよ、縁があるんだったらメッセージ送ってたら連絡くるはずだもん。愛のことそこまでなかったんだよ、きっと。そう言われた。そうだよね、そうに違いない。だって最後に逢ったとき、ずっと話さないでねと言っていたのに彼の手が緩むの、感じたから。
そう自分に言い聞かせていた。
9月の終わりごろ、知人のアユからインスタメッセージが届いた。
「なんかイタリアンが食べれて、お話が聴ける会があるんだって。行かない?」
「何それ? よくわかんない。どういうの?」
「それがうまく説明できないんだけど、なんか恋愛の本を出した作家の人がお話をしてくれるんだって。ダンナさんと。美味しいワインもいただきながら……」
「行く! いつあるのそれ」
「10月の〇〇日土曜日。レストランヴァリエッタで。17時からだそうよ。愛、空いてるの?」
「空いてる! いや空ける! その日は友だちとごはん食べ行く約束してたけど、キャンセルする」
わたしはイタリアンが食べたい、そして美味しいワインが飲みたい、ただそれだけの気持ちだった。ただ後になって考えてみると、違う理由があったのかもしれないけれど……。そのときはまだどうしてそこに行こうと思ったのか、まだわからなかった。
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