両腕よ、ありがとう
いつもなら、なんてことのない距離。
ほんの170メートルくらい。
とても長い道のりだった。
引越しを控え、カラーBOXの引き取り手が見つかり、無事に貰われていった。あの子をよろしくお願いします。カラーBOXに収納されていた本たちを床に置いておくのも忍びない。茨城へ送ろう。
迷ったけれど、手放せない本たちを段ボール箱に詰める。まだまだ入るけれど、これ以上入れたら、持ち上がらない。3分の1程度に抑えて、あとは靴や衣類を入れてみた。もっとぎゅうぎゅうに詰め込みたくなるけれど、これ以上は重過ぎる。
まずは段ボール1箱。あと1箱で足りそうかな。
急に、引越しがすぐそこまで迫っていることを実感する。ちょっぴりせつない。
段ボール箱に詰めた物たちは、本当に必要な物だろうか。残り数日の沖縄生活に、なくても困らないものということだ。
段ボール箱の封を閉める前に、もう一度考える。送る必要のないものも、あるのではないか。読んでいないけれど読みたい本は、もう読まないのではないか。そんな気持ちも湧くけれど、私にとって価値があるなら、必要なものだ。
必要なものと、もう必要のないもの。
引越しは、人生の棚卸しになるんだなあ。
数回の断捨離を生き残ってきたものたち。
迷ったけれど、段ボール箱の封を閉める。
荷物を両手で抱えて、郵便局へ持参する。
一人暮らしは気楽だけれど、
なんでも自分でやることになる。
力仕事だって、頑張ります。
特大サイズの段ボール箱を抱える。
うむ。重い。
だけど、なんとか抱えて、持つ。
行くしかない。
行けなくったって、行くしかないんだ。
3階から、降りる。なんとか、降りれた。
郵便局までの道のりは、約170メートル。
気合を入れて、歩き出す。
車で運べば楽だけど、車もない。
こんなとき、誰かに甘えられればいいのかもしれない。けれど、それができないから、私は未だに独り身なのだろう。それが理由かは分からないけど(自虐)。
車もないし、歩くのみ。
ここからの道のりが、まあ遠かった。
両腕は段ボール箱の重さに耐えきれず、段ボール箱はどんどんどんどんずり落ちてゆく。左腕に乗せてみる。ちょっと右腕が楽になる。だけど、すぐに左腕が死にそうだ。持つ位置を変えて、お腹に乗せてみる。これは、なかなかいい。だけど、少し後ろに背中を逸らすことになる為、背中と腰に疲労が溜まる。毎秒毎秒、確実に疲労は蓄積していく。
道にしゃがみ込み、苦肉の策で両膝に段ボール箱を乗せて、休憩する。
人の目なんか、関係ない。
私の両腕が死にそうなのだから。
少し進む、休む、をくり返す。
道沿いにある塀に、段ボール箱を乗せる。
ほっとひと息。
両腕が耐えられるタイムリミットは、もうあとわずか。だけど、ここでずっと休んでいる訳にもいかない。進まなければ、辿り着かない。
一歩進めば、一歩近づく。
ほんの少し、進んでいる。
必ず終わりは、くる。
辛い時に、いつも自分に言い聞かす。どんなに小さな一歩でも、進んでいれば、辿り着く。終わりは来るんだ。
ただ段ボール箱を運んでいるだけなのに、修行みたいだ。
私は、なにと闘っているんだ。
自分を励ましながら、ついに郵便局に到着。
郵便局の自動ドアが目の前に迫る。
ウィーーーン。
自動ドアが開き、入店する。
やりきりました!私!!自分の頑張りを讃え、両腕を突き上げて、歓喜の雄叫びを上げる。私のまわりにはゴールを祝う紙吹雪が舞っている!
実際は、両手に段ボール箱を抱えているから、
もちろん脳内のみだけど。
段ボール箱を置いて、送り状を書く。
文字を書く。
手が震えて、文字が乱れる。
もう両腕はほぼ死んでいたのだ。
よく耐えた、私の両腕よ。
ヘタクソな文字を恥じながら、送り状と段ボール箱を窓口に届けて、無事郵送する。
ちなみに、以前送った事のある宛先であれば、そのときの送り状を持参すると、送料が割引されるそうです(同一あて先割引)。お得だね。なんだったら、持ち込み割引もあった。持ち込んだ甲斐がありました。
郵便局に来たついでに、転居届の手続きも行う。
先日は、ガスや電気の閉栓日の予約も行った。
こうやって、ひとつずつ必要な手続きを済ませていけば、引越しも安心だ。
それにしても、両腕が痛む。その日のうちに筋肉痛が起こる。そんなに負荷がかかったのか。ほんの170メートルの移動なのに。
次の日。
両腕の痛みは、続いている。
あ。
おーるーだ。いや、あおなじみだ。
左腕上腕内側に痣。
左腕に負荷をかけたことを思い出す。
ごめんよ、私の左腕。痛むわけだ。
きっと、この経験も、笑い話になる。
段ボール箱を乗せて休んだ塀は「段ボールの塀」と勝手に名付け、そばを通るたびにこの経験を懐かしんでいる。私的観光名所だ。しみじみ。
引越し準備は、つづく。
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