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オーケストラで発覚した無意識の思い込み

今日のおすすめの一冊は、パク・スックチャ氏の『アンコンシャス・バイアス —無意識の偏見—とは何か』(ICE新書)です。その中から「アンコンシャス・バイアスとは何か」という題でブログを書きました。

本書の中に「オーケストラで発覚した無意識の思い込み」という心に響く一節がありました。

非常に印象的な、オーケストラの男女比率についての調査結果をご紹介します。 1970~80年代、米国の音楽学校を卒業した女性の割合は、40%を超えていました。ところが、プロ楽団員のほとんどは男性でした。
1970年代における米国の5大オーケストラの女性比率は5%以下だったのです。音楽学校卒業の男女割合と、オーケストラの男女割合に、大きな差が出ています。 しかしこの状況は、審査員が故意に女性を入れないようにしていたわけではありません。オーケストラでは最も優れた演奏者を選んで楽団員として採用し ていました。
それなのに、なぜこれほどまで男性が多かったのでしょうか。男女で演奏に実力差があるのでしょうか? 女性はプロの楽団に入るほどの実力に達していないということなのでしょうか? 1970年代から80年代にかけて、このような状況に問題意識をもった米国のオーケストラが、楽団員の採用方法を変えていきました。
その一つとして、「ブラインド・オーディション」が採用されます。楽団員募集の際のオーディション(実技試験)で、受験者と審査員の間にスクリーン(ついたて)を置き、受験者が審査員に見られないようにしたのです。審査員は演奏している姿が見えないため、「音」 (演奏)のみで評価することになります。
そもそも演奏者が評価されるべきは「音」(演奏)だけですから、これにより上手く演奏した人を見極めることができます。
男女の合格率はどのようになったと思いますか?
1.今までと同じ
2.男性の合格率が高くなった
3.女性の合格率が高くなった
答えは3。 この方式のオーディションにより、第一次審査に合格する女性の割合が大幅に向上したのです。 この結果からわかったことは、演奏のみで評価をしたら女性奏者の割合が上がったということ。つまり、それまで審査員は演奏で正しく判断できていなかったということです。
スクリーンを取り入れた前後で男女の合格率が大きく変化したことから、「男性を有利に」「女性を不利に」するという無意識の偏見の影響が明らかになりました。審査員は自分の意識では楽器の音色のみで応募者の選考をしていたと思っていたのですが、実は演奏以外の要素が、無意識的に判断を左右し、選考に影響を及ぼしていたのです。
オーケストラの審査員たちは、公平に演奏だけで評価していると信じていました。ところが、男性の演奏の方が優れている、と気づかぬうちに身につけた思い込み(無意識の偏見)が、彼らの判断に影響を与えていたのです。 スクリーンによってアンコンシャス・バイアスの影響を排除し、審査の公平性を確保できることがわかり、ブラインド・オーディションを採用するオーケ ストラはどんどん増えていきました。
それにより、オーケストラの女性比率は向上していき、今日ではおよそ40% の楽団員が女性となっています。また、女性だけでなく、以前はほとんどいな かった非白人も多く合格するようになり、オーケストラのダイバーシティ(多様性)が高まりました。
この研究で明らかになったことが3つあります。
1.無意識の偏見があった【存在】
2.それは男性を有利に、女性を不利するように機能した 【影響】
3.スクリーンによってその影響を抑えることができた 【対策】
まさにアンコンシャス・バイアスの存在、影響、対策、結果まで示された、 大変象徴的な事例です。

アンコンシャス・バイアスは、SDGsにおける大きなテーマのひとつです。それは、たとえば、ゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」と、ゴール10の「人や国の不平等をなくそう」に深く関連しているからです。

特に根深いものに、「人種による不平等」があります。アメリカでは、このコロナ禍において、アジア系住民がヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害にあう事件も相次ぎました。まさに、アンコンシャス・バイアスです。

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