『みちる』2019.8.26


 恋に形があるとしても、知ることはできない。はっきりさせたいのに、どこか彼方へ、逃げさって、理想へ、ゆめへ、変わり立ちのぼる。知るまえにかならず、壊される。波に、形にとらわれる世界に。あえてよかった、会えてよかった、あなたに。怖いくらい、沈む後悔と、つながれた甘い淡い香り、薫る季節の境界を、何度も何度もふみこえる、ころしてもしなない見えない形。すいもあまいも、にがいも、擦り切れるほど再生する。レコードの騒めきのなかにそれは、いる。
 一生、みえない。いきるとすべては答えを出さない。だれともまじわらない。その指先につながれた、か細い糸が運命なら、たべたい。指先から届くまで、その体温に、きみに、きみに、きみが、世界をぬすみ、収束させ、あなたに変わる。すべてはあなたで、きみで、なのに、ほかのだれかと似た声色でさみしげに、独りを口の中でころがしながら、喉からまねくように手を、伸ばしてくる。触れられるのではないかと、やっとつながるのだと、おもわせてくる。擦り切れるほど再生する。甘い、淡い、みえない形のなかにそれは、いる。
 満ちてゆく。




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