【日常】日々のあれこれ

「あれだけは買ってこないで!」はどこまで担保されるのか~理想と現実~

 家族というのは、忌憚なく様々なことを話せるもので、誰かが旅行するとき「お土産は何がいい?」「部屋における置物がいい」「銘菓のあれ買ってきて」と要望が飛び交う。無事に帰ってこれることが一番だが、僅か…よりもちょっと多い期待をして、留守を預かるものである。
 年長者になればなるほど旅行に行く機会も増え、10年近く前母と叔母がハワイに行った際は、南国の土産に期待した。よくある『マカダミアナッツチョコ』ではなく、なんかおいしいチョコレートのかかったクッキーがハワイ土産として配られることが多くなっていた時だった。
 私には海外に行く予算はなく仕事だけはあったため、母にある程度条件を付けたお土産をお願いした。一つは、『マカダミアナッツチョコ』以外のお菓子のお土産。もう一つは『Hawaiiと書かれたTシャツを買ってこないこと』だ。
 これは、観光客向けの店が多いというハワイでは、容易くクリアできると思っていた。なおかつ、叔母も一緒に行くのだから、レジに行く前に「それはダメって言われたでしょ!」のセキュリティが働いて、私は理想のお土産が日本で手に入ると思っていた。
 帰国後、お土産の披露会が行われた。いよいよという時、叔母の表情に陰りが見えた。
 母は、『Hawaii』と書かれたTシャツを買ってきた。
 止めても聞かなかったという母に理想のお土産を買ってもらうのは、相当難しいらしい。他の家族も、どこかしらHawaiiだったりしている。
もちろん『Hawaii』Tシャツも立派なお土産の一つだ。しかし、どうしてこんなにも理想のお土産をもらうのが難しいのかと、袋小路に追いやられた気分だった。
 時は流れ今年、母は、海外へ飛んだ。次は、スイスの高原の景色が見たいという。技術が進み(家族の)リアルタイムで現地の美しい写真が届いた。本当に素晴らしい場所で、アルプスの少女ハイジやサウンドオブミュージックの世界があった。私はそれだけで十分なお土産だと感じていた。
 半ば諦めつつ、今回も一応お土産のオーダーをした。私はネットで見つけたスクショを数枚送った。今回の条件はただ一つ、『Lindt(リンツ)のチョコだけは買ってこないでほしい。しかし、チョコを買ってはいけないという意味ではない』というものだ。スイスのチョコレートは食べてみたい。それも、スイスの人が日常で買ったり食べたりしているスーパーにあるものがいい。むしろそのほうがお土産としても受けはいい。なので、どうやって『スイスのチョコ』を食べるために『Lindt(リンツ)』だけを排除するか、伝え方に苦労した。
 もちろん『Lindt(リンツ)』のチョコレートも立派なお土産の一つだ。時々ショップの量り売りやスーパーで買ってしまうくらいにおいしいのだ。しかし、せっかくスイスに行く家族がいるのなら、Lindt(リンツ)以外のチョコレートがお土産で欲しくなるというものだ。
 リンツについては、画像をいくつか送り付け、板チョコもあるから注意しろ、一見リンツと読まなそうな綴りだから気をつけろと再三伝え、出発前には口頭でテストをした。
 帰国の日、私は用事が済んだ後、お土産を入手するため実家に寄った。無事にヨーロッパの長旅から帰った母は、時差ボケなんて言葉を知らないかのように、夕食の準備をしていた。
 最悪リンツのチョコがテーブルに並んでいたとしても、ありがたくいただいていこうと思っていた。しかし、テーブルには私の知らないメーカーのチョコレートやスイスの生協で買ったいろんなマスタード等が並んでいた。
 今回のお土産は完ぺきだったと言わざるを得ない。実際買ってきてくれたのは「Halba(ハルバ)」のチョコレートバーとTHOMY(トミー)のチューブに入ったマスタードだった。
 母のお土産を買う能力を誤解していたのかもしれない。
 やはり一番は、無事に帰ってきてくれることだと思いつつ、ほとんど食べてしまったありがたいお土産の残りを楽しもうと思う。
 定年後も働いていた母は、今年は一区切りの年として、旅行を詰め込んでいる。月に1回の割合で、ばあちゃんの面倒を見たり留守番役や送り迎えをさせられるのには、不満が湧くときもある。しかし少しでも理想的な形でお土産を手に入れるために、努力を惜しんではいけない。

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