迷える手 Ep.2/ナチョスの短編
ある日男がキャンパスを歩いていると、どうしても治したい、背骨が曲がった女子学生を見つけてしまった。
俺が施術してやれるなら、彼女を苦しみから救ってやれるのに。
しかし、彼と彼女に面識はなく、さらに陰気な性格になっていた彼には声をかける勇気はなかった。
第一、どう声をかけるというのだ。
「背骨が曲がっているから、横になれるところに行きませんか」
「背中の痛み、辛くないですか」
「すいません、5分だけ背中触らせてください」
絶対に無理だ。
彼は名案を思いついた。
後ろから近づき、有無を言わせずに押し倒して、体重をかけて動かないようにしてしまえばいい。
彼以外の人間にとっては最悪の方法だった。
「きゃー!」
「びっくりする話があるんだけどさ」
「めっちゃハードル上げるじゃん、どうしたの?」
「この前さ、会ったことも話したこともない男にいきなりキャンパス内で押し倒されてさ」
「ええ!な、何それ、フツーにやばくない!?」
「いや、私もびっくりしたんだけど、やっぱりいざという時って思ってるより声出ないねぇー」
「いやいやいや、出ないねぇー。じゃなくて!なに、新種の痴漢?じゃなくてもシンプル通報レベルだよ。え、それで、押し倒されて何されたの」
「なんか、、背中の、、マッサージ?」
「はぁ!?え、どーゆーこと、知らない男にいきなり後ろから押し倒されて、マッサージされたってこと?いやいやいやごめん、ちょっとわかんないわ。で、沙由里は、それを、受けた、ってこと?」
「それがさぁ、私、ちっちゃい頃からずっと慢性的な背中の痛みに悩まされてきてるって前に言ったじゃん」
「えっ、うん、」
「それこそ本当にいろんな病院とか接骨院とか整体とか言ったんだけど、治らなかったの。それがね、、、治ったの」
「えぇーーーー、きもっ!それで治せるんかい!!なんかもう別角度のキモさだわ。キモい話であんまそっち方向に曲がることないよふつう」
彼女たちは念の為に学生課にこの話をして、大学側としてもそれぞれの部活や授業での注意喚起を促した。
高校の時のように学内を飛び回り、誰彼構わず診ることもバレる危険性があるのでできなくなってしまった。
彼は合法的に欲求を満たすために、この頃から整体のバイトを始めた。
以後彼は退学を恐れ、学内で2度と同じようなことはしなかった。
一回きりの犯行であるが故、学生の間でも真偽を問う話だったが、だからこそ盛り上がった。
この話は学年を越え、学生たちの間で【透明整体師】の都市伝説として語り継がれていった。
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