見出し画像

ウィーンが君を待っている/Ep.4 カタツムリのテイクアウト


登場人物

正美…大樹の母。美容師。
やす兄…正美のパートナー。
大樹…ナチョスの大学からの友達。
ブライアン…ナチョスの大学の交換留学生。


あらすじ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大学1年生の時に共に寮生活した交換留学生のブライアン。
半年間の共同生活の後帰国した彼が、
わたしの卒業式に合わせて約1ヶ月の日本旅行に来た。
関西旅行の間、私とブライアンは東大阪にある大樹の実家に泊まらせてもらった。
これは、ほとんどが事実の5人の旅行のお話。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2023年3月28日
@KASUGA TAISHA SHRINE

空は黄昏に染まり、道に続く灯籠が空の光を吸収している。

歩きながら正美は徐に思い出を語り始めた。

場所は人々の思い出を記憶し、その場を再び訪れた人にそれを想起させる。

彼女が語りだしたのは、カタツムリの話だった。

大樹がまだ幼かった頃。この辺りを大樹の友だちとママ友で訪れた時のこと。

大樹はカタツムリに夢中になり、どうしても持ち帰りたくなったらしい。
正美は、そんなものどうやって持って帰るのかと戸惑ったが、結局持ち帰ったのだそうだ。

私はちょうどその頃、子どもにまつわる色んな話を沢山聞いていた事もあり、子どもって恐ろしい生き物だと思った。

私だって、カブトムシやバッタなどの昆虫を捕まえることはしていた。
しかしそれは、よし今日は捕まえるぞ、と準備万端の時だけだった。

旅行中どうしても、しかもカタツムリを持って帰りたくなったことは、私の知る限り私にはない。

でも、大樹ならそんなことを言い出しそうだと思ってしまった。
今でもたまに見せる、彼の子どもっぽい表情が頭に浮かんだ。

正美も正美で持って帰る手伝いをしたというのだから、親という生き物も変だ。
子どものためなら、なんでもしてあげたくなるのが親の生態。

実際に今の私が親になったらと想像してみる。
多分子どもの要望を却下する。

話がひと段落してから、正美は少し前を歩く大樹を呼び止めた。

「だいがカタツムリ持って帰りたいってゆーたの覚えてる?」

「えぇ!カタツムリ!?」

彼は当たり前のように覚えていなかった。子どもの残酷な無邪気さ。


やす兄がスマホを見ながら、後ろにいて1人で歩いている。
淡路島の時もそうだった。

私たちに気を遣っているのか。
いつもスマホと睨めっこしているのは、何か仕事の情報をチェックをしているのだろうか。

いずれにしても、この前1人にしてしまったし、コミュニケーションを取る必要性を感じた僕は、歩幅を徐々に縮め、速度を緩め、ジリジリと彼に並ぶように歩いた。

「あの、髪の毛に関して気になってたことあるんですけど質問していいですか?」

当たり障りのない一言から会話を始めた。
自分が知っていることや、好きなことについて語る時、人の心は無防備になりやすい。
彼が髪の毛の知識について語るときの語調は、非常に穏やかだった。
落ち着いた人だ。
でも子どもっぽさを感じる瞬間もある。
そのバランスがきっと正美と合うのだろう。

ブリーチの話になった時、彼はこう言った。

「まぁ、ここにはブリーチの達人がおるから」

彼曰く、彼女は生かさず殺さずの加減で、髪の毛を扱えるらしい。
いつの日か体験したい。

それから3人で何かの話をして盛り上がったのだが、ひょうきん族の[行きずりの女]の話以外、ほとんど覚えていない。

これはブライアンが帰国する1日前に分かったことだが、やす兄が1人でスマホを触っている時は、大概ピクミンのゲームらしい。

仕事の確認でもなく、ピクミン。
天気やニュースを見るでもなく、ピクミン。ピクミンだったかぁ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?