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間違えないようにすることが、賢くすることを阻害する

勉強ができるかできないかということ以上に、我が子には「考える力はつけてあげたい」と思っている親御さんは多いです。

でも、親が子にアドバイスしているシーンに遭遇すると、逆になってしまっているケースがとても多いです。つまり、思考力を鍛えるのではなく、「勉強ができたらよい」という発想でアドバイスをしています。

計算できるようになるだけではない計算の練習

たとえば、27+38=というひっ算をしているとします。
1問解くのに、じーっと考えて、時間をかけています。
しばらくすると、答えをいっきに「65」と書きました。

ポイントは、「65」と書いたところです。
通常、小学校で習うのは、一の位同士をたして、くり上がりの「1」を書いて、下に「5」と書く。次に、十の位同士をたして、くり上がりの「1」をたして、下に「6」と書くという手順で計算をします。

その手順を経ずに、じーっと考えていっきに「65」と書く。
すると、「くり上がりを書けばいいのに。そうしたら早くできるのに」と思う人が多いです。
理由は、自分たちがそう習ってきたからです。「たし算のひっ算は、くり上がりを書きましょう」と。自分がしてきたことは、疑いなく、我が子にもしがちです。

本当にそのアドバイスは適切でしょうか?

賢くなる解き方とは

「くり上がりを書いて、一の位から計算する」やり方は、すぐに手が動いていて止まりません。だから、「やってる感」が出ます。
一方、くり上がりを書かずに、十の位から答えを書こうとすると、頭の中で計算する時間が長いため、手が止まっているように見えます。

前者のやり方のほうが楽に決まっています。だって、頭も使わず、速く解けている感じの達成感もあるからです。後者の方が何か言いたくなります。「速く!」とか。
でも、計算しながら頭を使って、頭を鍛えられているのは後者です。

その日の学習の速度では、前者の解き方のほうが速く終わるでしょう。けれど、3ヶ月、半年、1年経つと、二度と逆転できないほど、後者の解き方をしていた子の方ができるようになっています。

その計算で何を鍛えているか

習熟度が変わってしまう理由は、後者の解き方は、計算以外のことも身につけているからです。
たし算のひっ算を解くことで、たし算のひっ算を解けるようになるだけでなく、一段レベルの高い頭の使い方ができる子になっています。

くり上がりを書いた方が楽に解けます。
でも、たし算のひっ算は、いずれはできるようになります。だから、たし算のひっ算をできるようにするだけが目標ではもったいないんです。より多くの「見えない力」をつけて進むと、先の課題でも質の高い学習ができます。

ひっ算のたし算でどんな力つくか

くり上がりを書かずに27+38=を十の位から答えを書く子の頭の中がどうなっているかというと、

  1. 十の位の2と3をたして、頭に5を置く

  2. 一の位の7と8をたして、15を出す

  3. 答えが15になるということは、さっきの5が6に変化すると判断する

  4. 答えが、65であると出す

  5. 答えを書く

という手順を踏んでいます。紙に書かずに頭の中で計算するため、はたから見ると時間がかかっているように見えます。

最初のうちは、5を置いておくということがよくわかりません。5が6に変化するということも、どんな場合に変化するのかを掴めなかったり、忘れてしまったりします。

けれど、一の位が、3+4とか7+2のときは変化せず(つまり、くり上がりはなく)、6+5や9+3のときは変化するという体験を重ねることで、原理を理解していきます。
教えられることなく、経験しながら分類していける子どもの力は、本当にすごいものがあります。

ちなみに、幼児期であればほぼ100%の子ができます。
学校でひっ算をならってからだと、できない子もいます。

頭の中で計算した結果として、

  • 頭の中に数を保持しておく力

  • 頭の中で数を操作する力

がついてきます。くり上がりを書いて、手順通りに計算しているだけではつかない力です。ただのたし算、ひき算とは違う、一段レベルの高い頭の使い方です。

時間がかかることより、間違えないことより、頭を使いながら解いていくことの方が価値が高いと考えています。その解き方の方が、より難しい算数や数学になったときの、思考力における盤石な基盤が作られるからです。

小学2年生で学校で出会ったときにやっている余裕はなかなかないでしょう。授業では、習熟を待たずにすぐに次の課題が与えられるからです。
時間的に余裕のある幼児期に、「ひっ算をできるようにする」だけでなく、「頭を使う学習」を経験させてあげたいものです。


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