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シェアハウス生活と冷蔵庫の中身 

 何の話かというと、尾道のシェアハウスに住んでいた時の話だ。

 昨年の秋、一か月という短い時間ではあったがシャアハウスで暮らしていた。ドミトリーではなく部屋は個室でプライバシーは保たれている。
 正確に言うと、シェアハウスという呼称の物件ではなくて、中長期滞在施設で、まあシェアハウスに限りなく近いゲストハウスである。
 とまあ、そんな細かい話は今回どうでもよくて、シェアハウスの大きな特徴のひとつが冷蔵庫だと思う。

 一台の大きな冷蔵庫に住人の食材が詰め込まれている姿はシェアハウスの醍醐味(?)だと思う。

 僕が滞在していた施設は、一か月のうち多くて5人が滞在していた。
 一台の冷蔵庫に対して多いような気もするが、そのうちの一人は週末のみ施設で寝泊まりをする方で冷蔵庫の中身は少なかった。
 自炊の規模感の大小は人に寄りけりで、食材を多く有する人、出来合いの品をストックする人、そもそも外食を楽しみにして滞在している人もいる。

 僕は当時、無職だったから節約の意味も込めてわりかし自炊もした。
 何より、共有の台所がお洒落で、食器も洗練されていたので、「使いたくなるキッチン」であったので楽しく自炊をした。

 男一人の自炊なので大した料理はしなくて、炒め物ばかりだったけれど。

冷蔵庫に入っている調味料は共有の物がほとんどで、生鮮食品等は名前を書いてマーキングしたりしていたが、特にこの場所に誰々の物を入れるという決まりはなかった。

 がしかし、施設は人の出入りがそれなりにあり、歓迎会と送別会がわりかし頻繁に行われたので、会のために買った食材と個人で買った食材の区別が住人ですら分からなくなる事態が発生した。

 歓迎会を経て、台湾からの滞在人ー日本語はほぼ話せない、が入居してからは、なんとなくこの段には○○さん、下段は○○さんといった緩めの規則ができた。

 だんだん僕にはそれがその人の部屋に見えてきた。

 もちろん個室の部屋には一回もお邪魔したことはなくて、でもどこからともならアコースティックギターの音が聞こえてきたり、別の部屋ではポップスの音色が聞こえたり、と思えばリモート会議の声が聞こえたり、これが僕は心地よく、○○さんの部屋の中の暮らしぶりが浮かんできたりした。

 ピリ辛卵のにんにく漬けをおすそ分けしてくれた日、アヒージョを大量に作っておすそ分けした日。
 出張から帰ってきたお土産に博多通りもんを配ってくれた日、広島市内に遊びに行きもみじ饅頭を持ち帰って配った日。
 元々、ビールを飲まず嫌いしていたけれど「飲みます?」と一本分けてくれた日、アルコール飲料を持ち合わせていなくて何もお返しできなかった日。
 ビール、思っていたより美味しいかもと発見できた昨秋。

 
 先週、シェアハウスの方たちと現地で再会した。

 みんな、お盆の夜にシェアハウスの共有の居間に集まってくれた。

 僕が居ないうちに新たに何人か入居していて、はじめましてと会話をした。

 9か月振りに冷蔵庫を覗くともうその中身は全く知らない世界だった。

 それでも相変わらず楽しい人たちばかりで、一緒に暮らしていた人たちも元気そうだった。

 お好み焼きにたこ焼きを用意してくれた日、僕は地元で買ったお土産を持って行った。

 今、実家で家族三人で暮らしている。弟が今年の春に就職して家を出たのを機に、家族それぞれが自炊をするスタイルになった。
 各々生活リズムも異なるし好きな時間に好きな食事を摂ろうぜ、というわけだ。

 実家の一台の冷蔵庫は今、上段が父、中段が母、下段が僕、と区分けされている。
 これを見て、ときどき僕はシェアハウスの日々を思い出している。


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