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「スカジャン」は複数の服の総称だという話【後編】

前編まとめ

前編 は こちら 。

前編では、スカジャンは単語として少なくとも以下の5つの意味で使われるという話をし、A、B の用法についてまで説明した。

A. ヴィンテージ・リプロダクト系スカジャン
B. パリパリ系スカジャン
C. スカジャン風アウター
D. アニメ・アーティストなどのファングッズ系スカジャン
E. スーベニアジャケット全般

後編では C - E についてみていこうと思う。

デザイナーの数だけバリエーションのある「スカジャン風アウター」

スカジャン専門ではないアパレルブランドがリリースするコレクションの中にも定期的にスカジャンと名づけられたアイテムが登場する。それらのスカジャンを見比べるとそれぞれがバラバラな形をしていて何かしらの共通したルールがあるわけではないことに気づかされる。

ラグランではなくいわゆる普通の袖のセットインスリーブだったり、フロントがスナップボタンになっていたり、柄がなかったり、ジャージー生地に柄がプリントされていたり、前編に登場した2例にあった特徴をほとんど持たないようなものもスカジャンという名称で販売されているのを見かける。

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▲セットインスリーブとラグランスリーブの違い

どうやら、この場合のスカジャンは制作者が「これがスカジャンっぽさだ!」と思うことを表現した服のようである。このようなスカジャンをまとめると、以下の特徴のうち最低1つが当てはまった。

・サテン生地
・ラグランスリーブ
・生地と仕様に関係なく胸と背(袖)に柄が入っている
・スタジャンとスカジャンを間違えている


これまでのヴィンテージ・リプロダクト系パリパリ系が「顧客のニーズ」を具現化したものだとすると、これらのスカジャンは「デザイナーの考えるスカジャン」を具現化したものと考えることもできる(間違えは別として)。デザイナーはリプロダクト系のようにヴィンテージを再現しようとも、パリパリ系のように不良や和柄好きにウケる服を作ろうともしておらず、スカジャン風アウターを自由な発想で作ろうとしているのだ。なので、柄・仕様にはデザイナーの数だけバリエーションがある。

そもそもスカジャンには様々な「らしさ」がある。私はそれを「柄、スカジャン刺繍(横振り刺繍)、布の素材、形状、オーダーメイド、文字」という要素に分解して考えている。デザイナーがこれらの要素のどこを重要と思っているかの違いから、多様なスカジャン風アウターが作られている。なので全部違っていたとしても、全部それぞれ「スカジャンらしい」と言えるのではないかと思えるのだ。

4年ほど前、ハイブランドでスカジャンブームが訪れた話は今でもスカジャン界隈ではよく話題になるが、スカジャンもデザイナーによっていろいろな解釈があるので、すべてを一緒くたにして話してしまうのはやや乱暴かなぁという気がしてしまう。これがもしTシャツブーム到来なら「どんなTシャツがブームなの?」と考えるのだろう。しかし、スカジャンはまるで型が決まっているかのように誤解してしまうことがあるので、その結果市場のニーズを取り違えてしまわないように注意したい(これはただの自己反省的な一文です)。

▼スカジャンブーム期の記事として有名なVogueの記事
どれもスカジャンではあるが、バリエーションの豊かさを感じていただけると思う。(記事中になぜかスカジャンがスタジャンになってます)

使用例
A:「スカジャンなんて今どき誰が着るんだよ www」
B:「は? ハイブランドがどこも作ってるの知らないんですか?!」

新定番「ファングッズ系」

実は2020年現在アメカジ以外でスカジャンが最も地位を確かにしている市場は、アニメやミュージシャンなどのファングッズ系だ。

おそらく全国の各世帯のクローゼット中平均スカジャン数は1着以下だと思うが、アニメやミュージシャンなどのアパレルグッズにはスカジャンが頻繁に登場する。結果、Twitterで「スカジャン」と検索するとそういうものが結構な頻度で出てくる。これはアニメやミュージシャンファンにスカジャン好きが多いということではなく、単にグッズ制作側の都合なのでは? と思っている。アウターとしてスカジャン以上に柄が入れられる服はほかにないので、柄を入れやすい服として選ばれたのだろう。(もはやTシャツやマグカップとともにノベルティ制作のカタログなどに選択肢として掲載されているのかもしれない)

特徴としてはシンプルに以下のような感じだ。

・服のつくりはオーソドックスなサテンのラグランスリーブ
・刺繍はコンピュータミシン系


このようなファングッズ系の特徴はスカジャンは柄を入れることが重要なので、服の作りとしてはオーソドックスなボディな場合がほとんどで、遠目から見ると前編で登場したパリパリ系に近い。

柄を入れてグッズを作りやすい服としてスカジャンが選ばれた結果、今ではスカジャンといえばファングッズという印象のひとがいるのではないか? と思える頻度でファングッズスカジャンは販売されている。しかしこれが本来のスカジャンのあり方から逸脱しているか? といえばそうでもないところが面白い。

スカジャンのルーツであるスーベニアジャケットは初代が作られた1940年代から持ち込みの柄を刺繍するオーダーメイドを売りにしてきた。その中には、飼い犬や馬を刺繍したものや、ミッキーマウスやポパイを刺繍したもの、所属する部隊のエンブレムを刺繍したものなどがあり、好きや所属する群を主張するためのアイテムとして活用されてきたのだ。これを商業的に発展させたものと考えるとファングッズスカジャンもまたスーベニアジャケットから続くスカジャンの歴史の流れ上に必然的に登場したアイテムだと気づかされる。

▼アニメ漫画系のスカジャンが豊富な墓場の画廊ECサイト

使用例
A:「いやウテナのスカジャンかわいすぎかよ!」

※ウテナ:1997年4月2日~12月24日までテレビ東京系列で放送されたアニメ『少女革命ウテナ』のこと

「スーベニアジャケット」をスカジャンと呼ぶことも

スカジャンのルーツがスーベニアジャケットと呼ばれた服だったことには、少しずつ言及してきた。「souvenir(スーベニア )」とは「土産物」「記念品」という意味だ。文字通り、日本の基地に配属になった米兵たちがその記念に土産として持ち帰った服がスーベニアジャケットである。スカジャンに地名が書かれていることが多いのはこのためである。

スカジャンはスーベニアジャケットであるという事実から、2つの疑問が浮かんでくる。

・刺繍以外のスーベニアジャケットはないのか?・横須賀(日本)以外にはスーベニアジャケットはないのか?

まず前者に関して、実はペイントタイプのスーベニアジャケットというものも存在したのだが、刺繍タイプよりも生産効率が劣ったためか下火になったようである。これらのペイントタイプは数も少ないのでスカジャン業界においても会話に登場することは滅多にない。

後者が本項の主題なのだが、もちろん横須賀以外でもスーベニアジャケットは売られてきた。代表的なものがベトナムのいわゆるベトジャン、ドイツのスーベニアジャケット(ジャーマンジャケット)、韓国のベロアジャケット(コリアンジャケット)などである。(ほかにも各国の米軍基地内で日本製のいわゆるスカジャンもスーベニアジャケットとして売られた)

このようなスーベニアジャケットを説明する際に、「ドイツのスカジャン」「韓国のスカジャン」と呼ぶことがある。この場合スカジャンという言葉はスーベニアジャケットと同義として扱われている。これはスーベニアジャケットという用語よりもスカジャンのほうが広く知られているからだ。

スカジャン業界で取り上げられたところを見たことがないが、メキシコでも1940年代からツーリストスーベニアジャケットというものが売られていた。また中国でもお土産で刺繍の入った服が売られており、手刺繍で日本より簡略化された龍が定番柄として使われている。

そんな他国のスーベニアジャケットを調べてつつ、なぜ日本で和柄とも中華柄とも言えない独特のスカジャン柄が作られたのかというスカジャン発祥の背景に想いを馳せると、着るだけではなく歴史散策的にスカジャンカルチャーを楽しんでもらえるのではと思う。

▼ベトジャン
形状がスカジャンよりシンプルで、胸に虎の顔と「福」の漢字、背中に地図と地名が入っているのが定番柄。

▼メキシコのツーリストスーベニアジャケット
刺繍やフェルトのアップリケメキシコ文化を想起させる柄が鮮やかに描かれている。

使用例
A:「こっちのジャケットはなんですか?」
アパレル店員:「ベトジャンすね! ベトナムのスカジャンみたいなもんす!」

まとめ

以上、スカジャンとして呼ばれる5種類の服についてまとめてみた。この記事を書こうと思ったきっかけは、自分がスカジャンに関わる仕事に就いてから様々な場面で「これってお互いの「スカジャン」の意味するところが違うから会話が成立していないのでは?」と思う場面が少なくなかったからだ。5つの分類はまだ仮だが、言語化してみたたことでスカジャンに関するミスコミュニケーションが減っていけばと思っている。

私は普段新規のヴィンテージ柄を考える仕事をしているので、ヴィンテージやスーベニアジャケットに関心が向きがちだった。記事を書くにあたって、改めて考えてみるとすべてのスカジャンと呼ばれるものにスーベニアジャケットにつながる「スカジャンらしさ」があることに気づかされた。それぞれの入り口から入ったファンの方々にスカジャンカルチャー全体を知ってもらうようなきっかけづくりをこれからも続けていきたいと思う。

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