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しん/たい

いい子で自粛していた間に、ヨガにはまった。
わたしの偏ったお楽しみの数々が、すべてコロナによって封じられ、やさぐれながらYouTubeばかり見ていたここ数ヶ月。
世界中の劇場が新旧硬軟とりまぜたさまざまな作品の動画を公開してくれて、それはそれで意外と悪くない、どころか見逃していたものや現地に行かねば見られなかったものなんかもアップされて、むしろ追い付かないくらいだった。まさしく不幸中の幸い。
しかし、動かない生活というのは身体を錆びつかせる。特にスポーツなどもしておらず、ただ劇場映画館図書館美術館カラオケに通うために出歩く程度でも、わたしのなまくらな身体にとってはそれなりに運動になっていたらしい。それが歩くことすらしなくなったら、座っていて何気なく立ち上がった途端にいきなり膝がよろけ出した。これはヤバいと、それまで舞台関係の検索ばかりしていたYouTubeで、身体を動かすための動画を見始めた。
すると、これまた世界中のインストラクターたちが新旧硬軟とりまぜたさまざまなエクササイズ動画をアップしてくれている。ワールドワイドウェブ万歳である。
最初のうちは、ストレッチや整体など、いかにも筋肉や関節に直接効きそうなものを見ていたのだが、たまたま見つけたヨガの動画で何気なく動いてみたら。
「…なんじゃごるあ?!」と知らぬ間に腹に刺さっていたナイフばりの衝撃が身体中に走った。ものすごーく、気持ちよかったのだ。
身体の芯がキューッ!と絞られるような、眠っていた細胞が我も我もと起き出すような。そしてひとレッスン終わったあとには、今までにないくらいの身体の軽さを感じたのだった。
これでも学生時代は演劇部で野口体操という基礎訓練をやっていたり、20代の頃には中国舞踊を習ってみたり、それなりに動けると自負していたのだが、忙しさにかまけて運動もしなくなり、加齢とともにこんなに身体が硬くなっていたのかと実感した。
一時期、ヨガがブームのようになっていた頃、ヨガマットを抱えて街を行くおねえさんなどを見かけると、「インドの行者はヨガマットなんか使わねーしー」などと、ごめんなさい内心で揶揄していたのだが、ええ買いましたとも、ヨガマット。いやヨガマット最高ですよ。なんならベッドじゃなくてヨガマットで朝まで寝てますよ、インドの行者も全員ヨガマット使うべきですよ。
朝起きてヨガ、昼休みにヨガ、寝る前にもヨガ。朝は早く起きる、昼食は腹八分、夕食後もダラダラせずにさっさと皿を洗って。寝そべる体勢を取ると、部屋の埃が気になるので掃除もこまめにする。とにかくヨガの時間を作りたいがために、その他の家事もちゃちゃっと片付ける。テレビやSNSもほとんど見ない。
そのうち身体が変わってきた。腰幅と太ももが締まった。のっぺりしていた脚に、筋があらわれた。むくみが減った。首のしわが薄くなった。でもいいことばかりではない、柔軟性はそこそこあるけれど、実は筋力が足りないことにも気づいた。なので最近は筋トレも並行してやり始めた。
…うん、まあちょっとやりすぎかもしれない。もともと何かに夢中になると寝食を忘れるタイプなので、「健康のためならしんでもいい!」みたいなことにならないよう気をつけねば。
それにしても。なんでこんなにヨガが気持ちいいのか。やっぱり「呼吸」なのかしらんと最近思うようになった。
わたしは瞑想とかヨガのメンタル面にはまったく興味がなくて、「心を穏やかに(^^)」「呼吸で毒素を排出!」とか言われると「…はあ」と遠い目をしてしまうひねくれた生徒である。ただやはり動きながらスーハ―するのは必要で、実際に呼吸するとしないとでは身体が違うので、それはちゃんとやっている。
もはや第二波が来ていることは確実なこのコロナの状況下で、家の外ではマスクが欠かせない生活だ。日頃マスクで浅くなっている呼吸をしっかりと意識しながら行うこと、これが実は効いているのかもしれない。
息ができること≒生きていること、なのは確か。今後平穏無事に過ごせるとして、平均寿命まであと30数年。頭も身体も「動けるばあちゃん」を目指そうかな。

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