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オンライン授業について

たまには学部授業の話も

現在僕は法学部・法科大学院兼担教員ですが、持ちコマは法科大学院の演習が大部分です。他方で、法学部執行部の一員として、法学部の授業運営にも相当程度関与すべき立場にあり、少し検討したいと思います。

オンライン授業の位置付け

withコロナ時代で一般化しているオンライン授業は、文部科学省が定めたいわゆるメディア授業告示に従うことが必要と考えられています。その内容は、以下のようなものです。

通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第二十五条第一項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。
一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第三十一条第一項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。)において履修させるもの
二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生の意見の交換の機会が確保されているもの

このメディア授業は、通常の(通信制でない)大学では取得単位数60単位という上限がありますが、現状に鑑み、2020年度・2021年度はこの制限の適用が除外されています。特に現状で問題となりそうな点(上記ご質問にかかるものもそうですが)は、ボールドにしておきました。

かつての苦い経験

多くの方がご存じの通り、放送大学や各大学・学部の通信教育課程は通信制の大学として、対面授業を原則とする通常の大学とは異なった運用で授業・単位認定をしています。多くの場合スクーリングがあったり、試験を受ける前のレポート合格のハードルが高いなど、通常の大学に比して容易に単位認定できる状況には全くないと思います。

他方、かつて、株式会社立大学が一定数誕生し、その後うまくいかずに縮小・撤退に至ったという、大学教育にとっては苦い経験もあります。具体例を書くつもりはありませんが、大手資格予備校が、予備校教師のビデオ録画授業を(その方が大学専任教員として位置付けられた)大学の授業科目としても配信したことがありました。しかしこれは上記メディア授業告示の要件を満たさず、大きな問題となりました。予備校のビデオ講義同様、ビデオの上映は行われても、「当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うもの」という態勢が整備されていなかったのです。そのため、当該大学は全国にキャンパスを展開していたものの、短い期間で規模縮小に追い込まれることになりました。

オンライン授業に求められるもの(オンデマンド方式)

僕は現在、ロースクールの演習や学部演習ではzoomを利用したリアルタイムオンライン授業を実施しているので、これはメディア授業告示の1号に該当するものです。要件もはっきりしており、フルに授業時間を使う点でも問題が少ない方法です。

これに対し、ご質問を頂いたいわゆるオンデマンドオンライン授業については、wirhコロナ2年目にもかかわらず、その内容についてあまりにも差が大きいことが問題視されています。昨年度の僕の学部授業(今年度は非常勤の関学と本務校である関大のオムニバス講義1コマ)については、原則としてレジュメをオンラインで配布し(PDFとパワポの生ファイルの両方を提供)、zoomひとり会議を録画したものをYouTubeにアップロードする対応をしていました。授業時間にもよりますが、1講義あたりのパワポスライド枚数は15~30枚程度、授業時間は授業内レポート用の時間を用意する場合は60分、標準的には80分程度でした。あくまでも個別意見になりますが、受講生からは(当該方式をオンライン授業開始前から用意していたこともあって)対面と遜色ないと一定数評価してもらえました。

問題は、くだんのPDF3~4ページがメディア授業告示2号の要件を満たしているといえるかにかかっています。資料提供型授業にも様々な工夫があり、僕の学部同専攻の同僚は、いわゆる「実況中継本」的な口述講義録を用意して提供しています。これであれば、十分に本来の対面授業と遜色ない内容を提供できますし、質問もオンライン対応等で十分な指導を行うことが可能です。通信手段が十分でない学生への配慮も十分といえます。他方、3~4ページのPDFは、ひょっとすると実際の90分授業で配布しているレジュメの量に相当するのかもしれません。しかし、それだけを提供しても、多くの場合レジュメは箇条書きですから(上述のような口述講義録なら、そんな枚数には収まりません)、それだけ読んでも理解することは困難です。むしろ通常の対面授業では、それを配布しつつ、その記載がどのような内容かを説明することで授業が成立していたわけで、資料提示だけで同様の教育効果が上がるとは到底思えません。また、授業に際して当該資料が提供されても、内容についての「設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導」ができているかは相当疑わしいと思います。

教員の努力・学生の評価

海外のMBAにおいては、以下のようなケースもあったことが、Twitter上で若干の話題になっていました。

このような手法が日本の大学でどの程度現実的かはよくわかりませんが(某ロースクールはできていたとのエアリプもちらほら)、受講生の皆さんも、授業の内容や方法について声を上げてもいいと思います。ただし、楽単基準で授業を選択した方やシラバスを読まずに履修登録をされた方にどの程度発言の重みがあるかはわかりませんが……。僕もそのような批判的な評価がありうることを意識しつつ、複数回のミニッツペーパー・コメントカードで授業の改善提案をしてもらうこととしており、可能な限り即時に対応できるようにしています。

大学教育のある意味ブラックボックスな状態がwithコロナ時代には可視化されやすくなっているともいえるので、お互いによいオンライン授業のあり方を模索できれば、と(個人的には)性善説的に考えています。

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