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アジャイルでのKPTがうまくいかないときの振り返りフォーマットを公開します

こんにちは。atama plusというAI×教育のスタートアップでUXリサーチャー/UXデザイナーをしていますnozawaです。今回はatama plusが大事にしている振り返りについて記事を書きたいと思います!


今回の記事のきっかけ

KTPという振り返り手法について及川さんが投稿されたこのTwitter、見られた方も多いのではないでしょうか。この投稿には1000以上のいいね、50件の返信がつき、私の周りでも多くの方が話題にされていました。

この投稿で募集された「KPTで工夫していること」ついて、軽い気持ちで私から返信したところ想像していた以上に多くの方から「いいね!」や「リツイート」をいただきました。

多くの方に関心を寄せていただいて大変嬉しかったです。一方、実はアジャイルにおける振り返りの効果を最大化するために、私たちのチームではこのフォーマットをさらにカスタマイズして実践しています。

そこで今回の記事では、アジャイル開発で大事になる振り返りについて、私たちがどのようにカスタマイズを進めたのか、現在1時間で行っている振り返りのフォーマットと進め方、大事にしてるポイントをまるっと大公開したいと思います!

アジャイル開発でのチームの振り返りに苦労されている皆様の参考になれば幸いです。

いろいろな方が見ることを想定して&おさらいとして、最初に「そもそもKPTとは?」など前段のお話をします。既にご存知の方は飛ばして目次のお好きな箇所から読み始めていただければと思います。

なぜアジャイルにおいて振り返りが大事なのか?

atama plusではアジャイルにプロダクト開発をしており、スクラムというフレームワークを活用しています。

スクラムでは、重要なチームミーティングとして「レトロスペクティブ」という振り返りのイベントを定義しています

スラクラムの3本柱となる概念に「透明性・検査・適応」という概念があるのですが、振り返りはまさにこれをスプリント単位で実践するための活動です。

(参考)スクラム公式ガイド

振り返りにおける「透明性・検査・適応」は以下のようにイメージしていただければと思います。

透明性
振り返りを効果的に行うには、チームの状況がチームから見えるようになっていることがとても大切です。(ブラックボックスで物事が進んでいたら何が問題の原因だったかを話し合えない)

検査
スプリントでうまく行かなかったことを検査します

適応
次のスプリントのチームの動きを改善するアクションを打ちます

KPTとは?

冒頭の及川さんの投稿でも言及のあったKPT(「けぷと」と呼ぶ方が多いようです)とは、アジャイル開発でも定番の振り返りの手法だと思います。

ざっくり一言で言うなら「Keep・Problem・Try」の切り口で振り返りを行います。

Keep:続けたいこと
Problem:問題だと思うこと
Try:次に試したいこと


よく紹介されている進め方

・ホワイトボードをKPTそれぞれのエリアに区切る
・メンバーが付箋をだす
・それぞれのエリアについて話していく(Keepから話し、Tryで終わることが推奨されています)

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シンプルですが効果的な振り返りの手法としてよく使われており、2010年には既に詳細に紹介されてもいます。


実際に利用されている事例も多く紹介されています

なぜKPTは難しいのか?

前置きが長くなりましたが、本題に入ります。KPTは一見シンプルで簡単そうに見えます。では、なぜ及川さんの投稿のようにKPTに難しさを感じている人が多いのでしょうか?

もともと私達のチームではKPTで必ずTryを出すのが難しいという理由からKPTを改造した振り返りフォーマットを使っていました。

当時使っていた振り返りのフォーマット

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STEP1
◯△☓という切口でレトロで思ったことを各自が付箋に書く

STEP2
もっと話したいことをチームでピックアップする

STEP3
話したいことの着地点を決める。Tryが出せるものは出すが、出せなそうでも話したほうがいいことは話し合う

このフォーマットに私が感じていた課題
及川さんの投稿では「Keepが出ない、自責のProblemばかり出る」というのがありましたが、このフォーマットにも私は同様の課題を感じていました。

・頑張ったことやうまくいったとことを自分で◯にあげるのは恥ずかしい
・優れた仕事をしてくれるのに自分の成果を主張しないメンバーがいる
・ちょっとしたメンバーの取り組みを◯にあげるのが評価してるみたいであげづらい
・チームの取り組みなど何か課題があると思ったときにそれを「問題だと思います」とあげるのはとても勇気がいる

そんなときに出会ったのがihcomegaさんが公開してくださった振り返りフォーマットです。(公開本当にありがとうございます!)


この記事をatama plusのスクラムマスター(@chankawa919)が社内のSlackでつぶやいていて、感じていた課題にマッチすると思いました。そこで、「面白そう!やってみたい!」と手を上げて、即トライすることにしました。

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他社のフォーマットを自分たちにフィットさせるまでにしたこと

まずはihcomegaさんのフォーマットをなるべくそのままやってみました。ihcomegaさんのフォーマットの特徴は、付箋を出す切り口です。

「聞いてほしいこと」「変えたいこと」「続けたいこと」「ドやりたいこと」「お礼したいこと」の切り口で付箋を出します。

ネガティブなことから始める流れです。

初めてこのフォーマットに挑戦したときに、この形式を続けるのかチームで考えるワークを設けました。振り返りの最後にチームメンバーから新フォーマットへの感想・FBを書いてもらいました。

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ポジティブな意見で多かったもの
・考える観点・テーマが示されているので意見が出しやすい
・テーマが好き

フォーマットへのFBで多かったもの
・議論はこのテーマごとでなく別にしたい
・議論の時間が足りない・時間配分が難しい
・ポジティブなテーマを最初にしてテンション上げたい


私達のチームは課題について議論するということをとても大事にしていたので、それをしやすくするようにこのフォーマットを改造したいなと考えました。そこで、ポジティブな意見とFBを踏まえ、今まで自分たちがやっていた振り返りフォーマットと融合させ、新フォーマットを作りました。

カスタマイズした新フォーマットの全体像 ※詳細は後述

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新フォーマットの進め方

※付箋は振り返りの前に各自が事前記入しています

①ポジティブなことはチームのテンションを上げるために先に共有する(ドヤりたいこと・感謝したいこと・続けたいこと)

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②議論したほうが良さそうなことを次に共有する(聞いてほしいこと・変えたいこと)

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③全部をなめた後にチームで議論したほうが良いことをピックアップして、議論の着地点を決める。

Tryが必要なテーマならTryを設定するが、共有や議論するだけのテーマもOK(サンプルがないと分かりづらいと思うので実際の振り返りの付箋をのせます!※atama plusはあだ名文化なので、みんな付箋にあだ名を書いています。)

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新フォーマットにしてから出るようになった話題

ドヤりたいこと
このテーマには「この人実はこんな仕事もしてくれてたんだ!」「こういう仕事をすることを大事にしてるんだな」という気づきがあります。チームメンバーが「実はこの仕事を頑張ってました」とドヤってくれるのが振り返っていて本当に楽しく、いつもチームで盛り上がります。

感謝したいこと
このテーマは◯ではなく「感謝」なのが嬉しいです。「案件の交通整理してくれてありがとう」「忘れてたタスクフォローしてくれてありがとう」など労りの言葉をメンバーからかけてもらえると報われた気持ちになり、来スプリントも頑張ろうと思えます。

続けたいこと
このテーマはKeepと同じです。例えば、私たちのチームでは「テスト設計をモブスタイルでやるの続けたい」「プロダクトオーナーと1on1するのを続けたい」のようなものがあがります。

聞いてほしいこと
このテーマはいろんな事が出てきます。「最近疲れてる」「こんなTips見つけた」「ここで詰まってる」「この案件めっちゃ大変だったんだよ!!」「今不安に思ってることがある」などなど。またみんなに聞きたいことをこのテーマに出すことも多いです。「新しいTryどう思ってる?」など。メンバーが抱えてる小さな不安やモヤモヤ、ナレシェアがよく上がります。

変えたいこと
このテーマはチームで強く課題に感じていることや、チームルールへの提案がよく出てきます。穏やかなスプリントだと軽い話題になることもありますが、サンプルとして私たちのチームのあるスプリントの実際の付箋をお見せします(このスプリントは大きな案件が山場でチーム課題を強く感じる振り返りでした)。

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議論したいこと

このパートが私たちのレトロの目玉です。一通り各トピックをなめた後にチームとして話し合うことをピックアップします。着地点と時間配分して時間の限りチームとして成長するために議論を行い、必要な場合ネクストアクションを決めていきます。もやもやしたことをチームでしっかり話し合うことができ、いつも話してよかったと思えます。

アジャイルでの振り返りを効果的に行うためのその他の工夫

先程紹介したフォーマットの他にも、振り返りを効果的に行うためのアクティビティをたくさん入れています。

①前回のスプリントのアクションプランおさらい
②チェックイン
③直近4sprintのベロシティ振り返り
④今スプリントやったこと振り返り
⑤今スプリントの手戻り案件の振り返り
⑥チェックアウト
⑦心がけることのメンテナンス
⑧次スプリントのチームタスク当番決め
⑨次スプリントのチェックイン決め

それぞれアクティビティの内容と効果を実際のレトロの付箋と一緒に紹介します!

・前回のスプリントのアクションプランおさらい
レトロの最初に、前回のアクションプランとレトロのチェックアウトコメントを振り返りします。前スプリントで決めたことはうまくいっているかをレトロで話すことも多いので、その記憶を呼び起こします。

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・チェックイン

アイスブレイクと声出しとして、毎回お題を決めて行っています。「好きなラーメンの味」「好きなアイスクリーム」などを一言ずつ話して盛り上がり、ワイワイした雰囲気を作ります。(うちのチームは食いしん坊が多いのか食べ物の話が多いですw)

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・直近4sprintのベロシティ振り返り

より良いプランニングを行うために、ベロシティを見て自分たちはどのくらいのポイントをDoneできるのかを確認します。「今週は重かったね」「いつもこのくらいだね」などサクッと振り返ります。

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・今sprintやったこと振り返り

ロールやチーム単位で今週何があったかを思い出して書き出します。振り返りのベースになるアクティビティです。

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・今sprintの手戻り案件の振り返り

品質向上のために手戻りがあった案件の振り返りを行います。

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・チェックアウト
レトロの感想や改善点を書きます。ファシリテーターへの感謝などがよく出ます。

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・心がけることのメンテナンス
私たちのチームでは、振り返りでの学びをもとにチームの心がけることを作っています。心がけることはデイリーで毎日or決めた曜日にチーム全員で確認します。

今まで生まれた心がけることを紹介すると、「ガンガンぼやいていこう」「やらされ感は悲しい」などのコピーが生まれました。

心がけることをデイリーでずっと確認しているとチームが実行できるようになってくるので、そうなったものは読み上げから外します。ですが、できるようになっても消してしまわず、図のようにアーカイブしています。

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過去の教訓はチームの財産です。状況に応じて「これはまた意識した方がいい」と復活させています。またアーカイブしておくと、新しく入ったメンバーにチームが大事にしていることを伝えるときにも役立ちます。


・次スプリントのチームタスク当番決め
スクラムではデイリー、プランニング、レトロなどのイベントがあり、それぞれにファシリテーターや書記が必要です。私たちのチームはそのようなチームタスクの当番をあみだくじで毎週決めています。

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私個人は最初はそれぞれが得意なものをやったほうがいいのではと思っていたのですが、あみだくじスタイルには3つのメリットがあると思っています。

・担当が偏らず、様々な役割を経験して学べる
・同じセレモニーのファシリテーションでも人によって個性があることを学べてメンバー理解に役立つ
・各セレモニーを誰がやっても(さらに久しぶりにやっても)品質が担保できるようにシステム化が推進できる

・次スプリントのチェックイン決め
スプリントのチェックインは毎回変えているため、最後に次のネタを1分で考えて終わります。次回は「好きなパン」でチェックインする予定ですw


今回は私たちのチームの振り返りを紹介しましたが、atama plusの開発チームは各チームが振り返りかたを自分たちに合わせてカスタマイズしています。

他チームでは振り返りと向き直りをしている話もありますので、よければご覧ください。


チーム間でお互いのプラクティスを学び合い、他チームの取り組みを輸入することもしています。

開発組織だけでなく全社で振り返りを大事にする

プロダクト開発チームだけではなく、atama plusでは会社全体として振り返りということを大事にしています。コーポレートチームやファイナンスのチームも振り返りをしています(コーポレートチームが開発チームの振り返りを見学に来てくれたりもします)。

またビジネスチームとプロダクト開発チームの間でも時期を見て振り返り(大レトロ)をしています。大レトロでどのような話をしているかは以下の記事で公開しています。合わせてご覧いただけたら幸いです!


まとめ

以上、atama plusで私たちのチームが行っている振り返りを紹介しました。

atama plusは会社全体として、自分たちの取り組みを振り返ること、建設的な議論を行うこと、そして前よりも良くしていくことをとても大事にしています。なので、2年前に私が入ったときからatama plusらしさは残したまま、まるで別の会社のように進化しています。

急速に成長しているとどうしても成長痛が生まれます。ですが、振り返りを大切にすることによってそれを乗り越えてきたと感じています。

今回紹介した振り返りがみなさんのお役に立てば幸いです。また記事のきっかけを下さったihcomegaさん、及川さん改めてありがとうございました!


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長岡紘子(野澤紘子)  Hiroko Nagaoka (Nozawa)
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