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おばあちゃまと、「手あて」

夫が「腰が痛い」というものだから、ドラッグストアにやってきた。シップとか、バンテリンとか、腰痛に効きそうな何かを探そうと思ったのだ。イタイイタイという割に、夫が医者に行く気がないのはよくわかっている。

「肩や腰の痛みに」というポップのある売り場には、ちょっと腰の曲がった高齢のおばあちゃまがすでにいて、品定めをしているようだった。その方のじゃまにならないよう、一歩二歩下がったところで私も棚全体を見渡す。

売り場にあるのは貼るタイプ(=シップ)と塗るタイプの2種類。
なんとなく、シップ系はかゆくなりそうな気がしたので塗るタイプに照準を絞った。夫も私も、案外肌が弱い。

よく見ると、同じ銘柄の塗り薬でもさらに2タイプあることに気がついた。
「チューブから出して塗るジェルタイプ」と「スティック型の液状タイプ」。
同じ銘柄なのに、何が違うんだろう。思いがけない選択肢に思考が止まる。
うーんと唸りながら眺めていると、先に見ていたおばあちゃまが通りがかりの店員さんに声をかけた。

「チューブの薬とそうでないの、何が違うのかしらね」。
あー、おばあちゃま、いいこと聞いてくださいました!私も知りたい!
私は素知らぬ顔をしながらその場で耳をそばだてる。

「効能はどちらも変わらないんですよ」と店員さん。
なんだ、そうか。
「ご自分で塗れるならどちらでもいいけど、届きにくいならスティックの方が便利かもしれません」。
なるほど。でもそうなると、うちの場合はまったくもってどちらでもいい。再び考えがぼやける。ふたりの会話はそのまま続いていたが、私はどうにか他の違いを見出したくて、箱を返して成分やら容量やらを見比べる。すると突如、おばあちゃまが明るく声を上げた。

「違わないなら、チューブの方にしようかしらね!」。
え、なぜなぜ?!
「どちらも同じなら、手で塗ってあげられる方がいいものね。ほら、『手あて』って言うじゃない」。
手あて?なあにそれ?思わずおばあちゃまの方を向いて釘付けになる。

「手をあててあげたら、それだけで良くなる気がするでしょう。お薬だって、よーく効くと思うのよ」とおばあちゃま。「おじいちゃんには、私が手あてしてあげなきゃね」。
そう言うと、うふふとかわいい笑顔を見せて店員さんにお礼を言い、チューブタイプの薬を手にレジへと向かった。

手あて、かぁ。
そんな発想、したこともなかった。効能だの成分だの、そんなことばかりに気を取られ、薬まかせで考えていたかも、私。「いたわる」みたいな気持ちが欠けていて、夫の「腰が痛い」に向き合えていなかったかも。もっと言えば、「頼まれなくとも薬を探しにきた自分、エライ!やさしい!」ぐらいに思っていたかも。
そういうことじゃ、なかったんだなぁ。

私が買ったのは、もちろんチューブタイプの塗り薬。「手あて」してあげたいと思ったのだ、私も。

家に帰って「これ買ってきたよ」と薬を見せたら、「なんで?」と夫。
うちはまだまだ修行が足りない。


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