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『後宮の薬師 平安なぞとき診療日記』感想

『後宮の薬師 平安なぞとき診療日記』小田菜摘 PHP文芸文庫

『後宮の薬師 平安なぞとき診療日記』小田菜摘/PHP文芸文庫(表紙画像は版元ドットコム様より)

本屋さんで見つけてなんとなく気になって買った本。
タイトルどおり平安京が舞台のお話。主人公は胡人の父から医術を学んだ娘・瑞蓮。
瑞蓮はその腕を見込まれ筑前から京へ向かいますが、本人は別に行きたいわけではありません。今でさえ、福岡というか太宰府から京都へは結構時間がかかるのに、この時代では下手をしたら一度行ったら帰って来れないかもしれない場所ですからそう思うのも仕方がない。それでも向かったのは、筑前守に直々に頼まれたから。
そうして瑞蓮が京で出会った人たちの治療にあたるうち、後宮の陰謀に巻き込まれ……、と言う筋書きの連作短編です。
何しろ時代が時代なもので、今のような近代的な機材や道具、薬はないわけですから、病気の見立ては医師や薬師の腕と経験次第。
それにくわえて陰陽寮の力も大きく、病気を治すために祈祷に縋る人もいれば薬が買えずに諦めてしまう人もいるのです。
そんななか瑞蓮は病気の原因を突き止め、効果のある薬を処方しようと奔走し、他の医師たちとも協力し合いますが、そんな瑞蓮を取り囲む人たちのなかで私が一番興味津々で見ているのは安倍晴明です。
安倍晴明と言えば様々な作品に登場しますが、今まで私が読んだ中ではこういう晴明は珍しいと思う。
それこそ夢枕獏さんの書かれる晴明のイメージが、一般的には強いのかな。
京極夏彦さんの書かれる京極堂のイメージもあるかもしれない。
私は岩崎陽子さんの描かれた王都妖奇譚が一番かなぁ。
ともかく、晴明といえばだいたいのところ、頭が良くてでも捉えどころが無くて人間というよりも異界の住人のようなイメージがあると思うんですよ。人によっては美丈夫なイメージも。
だけどこの作品の晴明はなんか違う。頭が良くてでも捉えどころが無くて人間というよりは異界の住人のようなイメージ、と単純に言葉を並べれば今まで見てきた晴明と変わらないのですが、もっと何というかこう……異界の住人というよりは、大学の頃よく見た変な人のイメージ。
私がいた研究室がそういう人が多かったというのもあるんですけども、言い方は悪いけど勉強大好きでちょっと浮世離れしている人たちっているじゃないですか。常識が無いわけじゃないんだけど、ちょっとズレている自分の専門が大好きな人。
そういうイメージを受けるんですよね、この晴明は。
学生の頃、研究室にそういう人がたくさんいて、というかまさに私の恩師がそのタイプだったので、この晴明は妙に親近感が沸くんですよね。
このシリーズの晴明は、あくまで瑞蓮に絡んでくるちょっと変な人的な位置づけな気がするのです。
私は晴明は好きで晴明神社なんかにも行ったりもしましたが、これまでの晴明像とはちょっと違うこのシリーズの晴明が気になってしょうがないです。

閑話休題。
主人公の瑞蓮は髪の色は薄く、背が高く、はっきり描写はされていないけれどもおそらくは顔立ちは派手なタイプなのかなぁと思います。太宰府でも京都でも、容姿が目立ってしまうタイプ。初めて彼女を見た人はその容姿に驚き、遠巻きにしてチラチラと見られる、というのはどうやらそう珍しいことではないらしい。
が、瑞蓮が京で出会った若い医官の樹雨は物怖じせずに彼女と話し、素直に彼女に尊敬の視線を向けるから、瑞蓮は驚きつつも無意識に心地よくも思っているみたい。
瑞蓮と樹雨がこの先お互いに対してどんな感情を抱くのかはわかりませんが、そのあたりも気になりますね。恋愛感情を抱いてもよし、純粋に医師として尊敬し合うもよし。
このシリーズは現時点ではもう一冊出てるようなので、続きを読むのが楽しみです。

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