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『ヴェネツィアの陰の末裔』感想

『ヴェネツィアの陰の末裔』上田朔也 創元推理文庫

『ヴェネツィアの陰の末裔』上田朔也/創元推理文庫(表紙画像は版元ドットコム様より)

創元ファンタジイ新人賞佳作受賞の本書。16世紀のヴェネツィア共和国を舞台に、魔術師ベネデットと彼の護衛剣士リザベッタを描いたお話。史実に魔術師を登場させたお話で、故に歴史と地理を知っていたらもっと面白く読めたんだろうなと思うと自分の無知が恨めしい。ヴェネツィアのみならず周囲の国の状況すらまるで知らないので。
ベネデットが彼の出自をよくわかっていない、というのはこの時代の孤児院出身としてはしょうがないこととして、周囲の彼への接し方はもうちょっとどうにかならんかったんか、と気になりました。孤児への差別という意味合いではなく、後半明かされる真実を知ってそう思った。
地理がわからないので、ヴェネツィア国内だけで展開されるこのお話の前半部分はともかく、後半部分はちょっとわかりにくかったです。フィレンツェ、ドイツ、フランス、オスマントルコと出てくるのですが、位置関係がわからない。ヴェネツィアとフィレンツェがどれくらい離れているかもわからない。
それはもちろん私が無知であるからですが、作中に、たとえば馬で何日という表記や移動の描写がもうちょっとあってもよかったかな、と。
いきなりフィレンツェにいたり、教皇についての描写が出てきたりしますが、それがどれほど大変なことか、逆に気軽にひょいと移動できるものなのかがわからないので、舞台が変わったことがどれほどの影響があるものなのかがはかれない。
一から全く新しい世界を生み出したファンタジーなどではよくそういう描写があって、その世界に初めて触れてもその大変さや世界の広さを感じたりします。そこからまた読んでいるこちらも物語世界について想像力を働かせるので、そういうシーンもほしいな。

好きだったのは、ベネデットの同僚にあたる貴族出身のイルデブランド。最初は嫌みで変なやつ、と思っていましたが、読み進めるにつれ変なやつ、そして面白いやつ、と変わっていきました。
イルデブランドをフィーチャーしたお話が読みたいなぁ。
そもそもこのお話、続きは出るんでしょうか。ベネデットのお話、としては一つ区切りがつきましたが、ベネデットとリザベッタのこの先も気になるし、ほかのキャラも気になる人が多すぎるので、もうちょっと読みたいです。

ところでこのお話は、ローファンタジーとハイファンタジーのどちらになるんでしょうね。
現実世界から少しはみ出した、または現実世界の上に成り立っているのがローファンタジーと理解しているのですが、それならばこのお話はローファンタジー。
でも世界をまるごと一つ作るハイファンタジーに通じる部分もある。
SFとファンタジーの境界のようなグレーゾーンのようなSFファンタジーというのもあるんですが、ローファンタジーとハイファンタジーにもその合間にあるようなジャンルがあったりするのかな、と気になりました。

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