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『竜の医師団1』感想

『竜の医師団1』庵野ゆき/創元推理文庫
粗筋は以下のとおり。
この世は竜の作りしもの。竜あるところに豊穣あり。だが竜がやむ時、彼らは破壊をもたらす。<竜ノ医師>とは竜の病を退ける者―――。極北の国カランバス。虐げられし民ヤポネ人の少年リョウは憲兵から逃れるため<竜の巣>に向かう途中、目的を同じくする名家のお坊ちゃんレオニートに出会う。第4回創元ファンタジイ新人賞優秀賞の著者が贈る、竜の医師を志す少年たちの物語。(東京創元社HPより)

庵野ゆきさんの『水使いの森』が好きだったので、続きを読もうと探していたときに見つけた新シリーズ。
現在二巻まで出ているのですが、始まったばかりの物語なら続きを追いかけるのも難しくはないだろうからとりあえず読んでみるか、くらいのかるーい気持ちで読みましたがまんまと嵌まりました。

竜の棲む国というまったく架空の国を描くファンタジーのようでいて、主人公であるリョウの出身のヤポネとはおそらくは日本なんだろうなと思います。
そんなふうに現実の国をモデルとしたと思しき部分がありつつも、やはり竜という完全にファンタジーの世界のお話なのですが、部分的にはものすごく現実味のあふれたお話。
それというのも竜を治療する医師団のお話なので、竜がどんな症状に悩まされているか、どうやって治療すればいいか、根治が可能か対症療法か、そんなことが結構な紙幅を使って描かれています。
それがとても実際的であり、専門ではないとはいえ、それなりに年齢を重ねるうちに自分でも見聞きしたことのあるあれこれと合致する部分が多いからだと思います。

著者の庵野ゆきさんはお二人の共同ペンネームで、そのお一人は現役の医師なんですね。だからこその実際の病気や症状に根ざした描写なんだなあと。
庵野ゆきさんのお話は読んでいて目の前に情景が浮かぶようなことが多々ありますが、それは著者のもう一方がフォトグラファーであることにも寄っているのかなと。

そして登場人物も魅力的。
虐げられし民であり、教育を受けることさえも禁止されていた主人公のリョウ。
お金持ちの坊ちゃんであり驚異的な記憶力を誇り、ゆえに入学した時点で知識はすでに人並み以上どころか相当高度な者まで持っているけれど血を見ることがてんで駄目なレオナード。<竜ノ巣>で生まれ<竜ノ巣>で育ち、竜の医師団のメカニックを目指すリリ。
優秀だが変わり者でなかなか自分の研究室に学生が来てくれない医師カイナ・ニーナ。
他にも個性が強いと言うよりクセが強すぎる医師の面々。
学生たちの胃袋を満たすために日夜働く料理長。
なにより大きな大きな竜のディドウス。
リョウは、レオニートは、リリは果たして竜の医師団で無事に目指す者になれるのか。

しっかりと地に足のついたビルドゥングス・ロマンといったこのお話ですが、一巻の最後で「ええええええ!?」と声を上げてしまいましたよね。しっかりと世界に惹き込まれたという紛う方なき証拠です。早く続き読まなきゃ。

このお話は口コミで広まったようで、2巻が出たばかりなのにすでに3巻、4巻の刊行が決まっているそうです。
キャラクターは魅力的で、読んでいると情景が浮かんできて、彼らの行く末にはらはらドキドキする。
これってもしかしなくても映像化に向いているんじゃないかなあ。アニメ化とかされたら絶対に見る。
「ハウルの動く城」で城が動くシーンはそりゃあもうテンション上がったのですが、それを思い出すようなシーンもありましたし、スチームパンクぽいところもあるので、絵にするとすごく映えると思うんですよね。メカニックのリリも可愛いし。

ともあれ、まずは2巻を早く読みたいと思います。

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