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『三体』感想

『三体』著者:劉慈欣 訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 監修:立原透耶 早川書房 2022/11/14読了

『三体』著者:劉慈欣/訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ
/監修:立原透耶/早川書房(表紙画像は版元ドットコム様より)

発行前からすごいSFが出る、という評判がものすごく、また、発行後は瞬く間に重刷となり、三部作すべて、そしてスピンオフまでもすべて大評判のSF。
私がAudibleをDLするきっかけとなったのが、この『三体』です。
評判はいいし面白いみたいだし読んでみたいけど、ハードカバーの三部作、しかも第二部・第三部は上下巻というのが、この本を読むにあたってネックでした。
面白いとはいろんなところから聞こえて来るけれど、今の私にすべてちゃんと読み通す体力があるんだろうか、と考えていたのです。
Audibleであれば、本と首っ引きでなくても、たとえば通勤時間中に、たとえば家事をしながらだって聞けるはず。それならばきっと完遂できるに違いない。

と言いつつも半分以上は賭けのようなものでしたが、見事まずは第一部の最後までたどり着きました。

しかしこの作品についてどう書いていいのかが正直よくわかりません。
どんな作品だとか、どんなすごい部分があるんだ、なんてことはこれまでにいろんな方がnoteでも書いていらっしゃるようですし、YouTubeで解説されてる方もいるんじゃないかな。
noteには『三体』の出版社である早川書房さんのアカウントもありますし、SFに興味のある方でしたらいろんなところで見ていらっしゃると思います。
そんななかいったい何を書けばいいのか、と真剣に悩んでしまうほど完成度の高い作品なんですよね。

あらすじは早川書房さんのページがわかりやすいと思いますので、そちらをご覧いただくのがいいんじゃないかと思います。

私自身は『三体』を読むにあたり、事前情報をほぼ仕入れずに読みました。つまり『三体』はすごい。読むべき、といういろんな方の感想を見て、あらすじすらも調べずに読んだわけです。
ただなんとなーく感想とともに流れてきたキーワードのようなものから『未知との遭遇』的なお話かなと思っていたのですが、それどころじゃなかった。
『未知との遭遇』の要素もありますが、私が思っていたその手の出来事よりももっとハードでタフなお話でした。
そもそも物語の始まりが文化大革命からのスタートです。こういうものを書いて大丈夫なのかな、と考えてしまうくらい。
実際にこれが書かれたのは2006年のようですから、いまとは社会情勢もずいぶん違うはず。それが良いのか悪いのかはわかりません。わかりませんが、胸を抉られるようなその描写が、この物語の大きなファクターとなり、地球と三体文明を動かすのです。

物語は文化大革命を生き延びた女性天体物理学者の葉文潔イエ・ウンジエ目線の過去と、2010年代を生きるナノマテリアル研究者・汪淼ワン・ミャオの現代とが交互に描写される形で進みます。
汪淼は、軍から科学者たちの集団「科学フロンティア」と接触するよう要請されます。いったんは断ろうとしますが、本件に当たる警官・史強シー・チアンに反発するばかりに要請を受けることに。
今すぐにでもやめてしまいたいという気持ちと裏腹に彼はVRゲーム「三体」に行きあたり、そこで三つの太陽を持つ三体世界と出会います。
三体とは、三つ存在する太陽の現れる周期がまったく規則性が無いことから勃興と衰退・滅亡を繰り返す三体世界の文明をいかに発展させるか、というゲーム。汪淼もゲームを進めていきますが、あるときゲームの管理者らしき人物から接触を受け、その結果、「地球三体組織(Earth Three-body Organization, ETO)」の集会に出かけることに。
葉文潔の過去と現在、そして汪淼の現在とが出会ったとき、事態はようやく目に見える形で動き始めます。そして―。

作中、三体問題を研究する数学の天才・魏成ウェイ・チョンが出てきますが、彼の数学への耽溺ぶりがなんというかこう……好きだなぁ。
私は数学科の落ちこぼれ学生だったので彼のようにはなれませんでしたが、自らの研究対象に没頭する彼にはとても憧れます。
学生時代、私の周りは研究者と研究者の卵だらけだったのでよけいに。

この作品には魏成以外にもたくさんの科学者、主人公である汪淼や、もう一人の主人公と言ってもいいであろう葉文潔、その他にも科学者が出てきます。そうして、彼らの、つまり頭のいい人たちの頭のなかを覗いているみたいで、知らないことがたくさん出て来てそれがとても面白い作品でした。
そんな頭のいい人たちと、粗暴で頭を使うことをむしろ馬鹿にしているように見えて実はよく観察し考えている、つまり科学者とは違う意味で頭のいい史強。
いろんな意味でもスペシャリストたちを見ているみたい。
SFは私の知らない世界に連れて行ってくれるという意味でとても好きなジャンルなのですが、『三体』は数学や物理学やその他にもいろんな知らない世界を見せてくれます。
そして「三体世界」自体が、またこれまで考えたこともないような不思議なことがたくさんの世界で、読んでいるあいだ毎日ずっと新しいものが目の前に現れるような体験でした。

今は続けて『三体Ⅱ 黒暗森林』を読んでいます。
これまたまったく違う新しい世界が開けていて、『三体』という物語はいったいどこまで私を連れて行ってくれるのだろうとわくわくしています。

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