家づくりにまつわること⑥:建築家選定時に間取りと概算を集め過ぎないことのススメ
前回の投稿では、多くの家づくりが理想的なものとはなっていないことを書きました。これは当社の相談会などでのヒアリングで良く感じることですが、建て主が家づくりをしようとした時に、まず建築設計事務所を探し、手始めに候補者へ「間取り」と「金額」を求め、集めることが住まいづくりの第一歩として一般化してしまいました。
感覚的に約9割の建て主はこれらをまず求めているように思います。そして、それらを比較して、、、という流れで、ひとつの設計事務所を見つけようとされています。
しかし、建築設計事務所側の目線も踏まえると、この「間取り」と「金額」ベースの選定はあまりオススメできません。この投稿では、その理由や業界的にも悪循環になっていることついてシェアしてみたいと思います。
◉ 建築設計事務所の提出する「間取り」と「金額」の意味するところ
建て主にとって、家づくりを相談すること自体が初体験である場合がほとんどですが、それだけに要望の整理や、依頼の仕方に難しさを感じられている方が中にはいらっしゃいます。確かに生活スタイルや感覚が決まっている方でないと要望をはっきりさせることは難しいですし、依頼にしても各社それぞれに違った設計条件を伝えてしまったケースも良くあるようです。相談会に来られた方々の中には、そのような結果、提出される間取りの条件が一致していないケースもよくあります。
何より、間取りや金額を集めることに重きをおいて、どのように住まうかという本当に大事な生活感が、そっと右に置かれてしまっているように感じることが度々あるのです。一方、建築設計事務所にとって、まだ自分の会社に依頼があるかわからない時に提出する「間取り」と「金額」は、当然営業活動として行なっています。時にはメール上の箇条書きの要望をもとに、作業に取りかかる時もあります。
とはいえ、無責任なことは言えないので、土地に関わる法律を調べ、建築できるボリュームを捉え、建て主の要望を取り入れたプラン計画を”とりえあえず”描きます。この”とりあえず”、皆さん気になっていることと思います。
前回のブログ「家づくりにまつわること⑤:建築にけるデザインとは?」でも書きましたが、建築を計画することは、多様で複雑な情報を一つの形にまとめる行為です。そういった行為を全営業にしてしまうと、ビジネスが成立しません。そのため、”とりあえず”という意識が発生する傾向があります。
そうなると想像し易いと思いますが、ビジネスを先行した場合にそうした”とりあえず”の間取りで設計契約し、実際にそのブランの延長で建物が出来上がる例が実際にあります。
以前には、実際に設計事務所選定中の相談者が集めた同条件による約10社の建築プランのメリット・デメリットを整理し、アドバイスをしましたが、内2社は仕上表や設備関係の図面まで作成していました。恐らく契約後は約1週間あれば設計図はまとめられるような内容でした。そのため、当社ではこのような営業を行う場合は、必ず”とりあえず”の内容で図面を描いていることを伝えます。(特に法令関係では、建築基準法は考えますが、条例は反映できていないことを伝えます。これを踏まえると営業という名目では対応できない程に作業が発生するからです。)
そして、設計契約後はきちんと要望と想いを再確認・整理し、再度リサーチから始め、比較検討を行います。この「間取り」と合わせて提示を求められる「金額」は、「家づくりにまつわること③:建築家に家を依頼することのデメリット?」にもあるように建築設計事務所に工事金額の決定はできず、設定しかできません。
各設計事務所は概算として、過去の経験からこれくらいの坪単価で実現できるであろう金額を予想し、伝えているのが現状です。
つまり言い換えますと、建て主は「とりあえず」と「予想」を基準に比較していることになります。ステップとして必要なものではあると考えていますが、それを集めて比較することは、有意義とは言えません。
そして、建て主皆がこれを求め、この営業活動がより加速して繰り返し行われることで、ひとつの案件にかけられる時間が短くなり、またそれが完成してしまうという業界構造が成立してしまっていることも注目すべきことだと思います。
もし、本当に提案内容を比較検討したいと思われましたら、設計競技(コンペ)として必要な情報を要綱化し、間取りと金額以外の提案も要求して公正に比較検討される方が良いです。現在は、建て主が気軽に参加できるコンペサイトもあります。
ちなみにハウスメーカーや工務店のように設計・施工一括方式発注が可能な会社の選定時に「間取り」と「金額」を集めることにおいては、ある程度有効です。比較的規格化されたプランや仕様が限定されており、また工事も自社で行うため、確かなものとして参考になるからです。
◉ 住まいづくりの”パートナー”を選ぶということ
建築設計事務所にとって、少なくとも当社においては、住まいをはじめとする建築物は建て主とともに育む子供のように捉えています。
大げさかもしれませんが、バイクや車を趣味とする人が、それを謳歌することで、愛情が芽生えることに近いところがありますし、また、建物の完成後もメンテナンス・将来の改修という形で、建て主・設計事務所・工事施工会社の関係は続いていくことが理由にあると思います。
つまり、建て主は長期的にみれば、業者ではなくパートナーを選ぶというニュアンスの方がふさわしいように思います。そのように捉えると、この「とりあえず」と「予想」が基準として、パートナーを選定している現状にとても違和感を感じています。
パートナーを見つけるなら、やはり相性が大事であり、それを限られた時間で把握するには、やはり「実例を説明してもらうこと」が大事だと思います。この実例は、「とりあえず」と「予想」ではなく、確かなものとして雰囲気・間取り・コスト・建て主の生活イメージを知ることができるでしょう。その上で、3社程度に絞り、同じ条件を伝えた上で「間取り」や「概算」を要求することは、とても良いように思います。
住まいは車や服といった物と共通点はありながらも、少し違う独特な存在です。
「とりあえず」と「予想」は程々に、気兼ねなく設計事務所にヒアリングしてみてはいかがでしょうか。
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