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国道1号線

旅をしたい。

知らない街でも、知ってる街でも
いや、出来るだけ知らない空気の、
知らない言葉が飛び交う街がいい。
そんなことを思っていた。

「川辺市子のために」

藤原季節くんの企画「春の朗読」に参加して以来、ちょうど4年ぶりに舞台に立つことになった。東大阪で生まれた"市子"という1人の人間のお話。市子のことが知りたい。知らなくてもいいから一緒にいたい。わかるのにわからない。関西弁もわからない。目標もない。だけど、今はちょっと清々しい気持ちだ。

今年は壁にぶつかりすぎた一年だった。ここ2年くらい生活も人間関係も仕事も、自分の弱さに叩きのめされた。本当にどうしようもない状態だった。

そんな中で、培ってきた縁と、意思とは別に培われてきた縁が少しだけ実りを迎えた実感があった。またこの人たちにたまに再会して、昔話だけでも出来るならまぁいいかって思えた。やっと、ちゃんとこの先を楽しみに思えた、そんな一年だった。自分にとっては大きな雪解け。長かった。

そんな気持ちからか、別の動機なのか、今の自分には関係なかった。やっとここまできた。どこにも来てないけどここまで来た。ここからが楽しいんだ。旅をしよう。旅をするように生きよう。そのために来たんだから。

遠くへ、できるだけ遠くへ行こう。
きっかけなんてなんでもいい。

大阪に行くぞ!捕まえたきっかけを武器に予定だけを立てて、周りに言いまくって、行くしかない状況に持っていくことに成功した出発前夜。うーん。少し電車で進んで、1日歩いて進んでから、ヒッチハイクで行くことにしよう。そんな感じで良い。

今は、どんな朝も夜も怖くない。

起きて、同居人との最後の晩餐の皿を洗う。ごめん、キッチン掃除して出るって言ったのに。出発だ。とにかく遠くへ。細かいことはそこから考えればいいんだ。最高の天気の中電車を乗り継いで、東海道線に乗り込んだ。

建物が遠く見えたり、新しくなったり古くなったりする。冬の太陽は低くて、電車を縁取って通り抜けて、帰宅する子供を迎える。役目を終えて沈む様子は、子どもを迎え入れた後に鍵を閉めて喋り出す母親のそれだ。一つ一つの屋根の下に生活がある。

お腹が空いた。わかりやすく頭が働かなくなる。静岡県の沼津駅に到着した。そいうえば高校時代、ずっと一緒にいた友達が、静岡で美容師をはじめて、出世して、結婚して、子供が産まれた。三島に結婚式にも来たな。そんな街を通り過ぎる。

どこだって、サイゼリアはうまい。

パンパンのリュック。いつも荷物が多くなる。次は静岡駅の方へ。今日のうちに電車で行けるとこまで行って、そこから歩いて、危険を感じたらヒッチハイクさせていただく。するんじゃなくさせていただく。暗い住宅街の中にどんどん入っていく。

違う街で見る月も同じだ。街の終わりの向こうにも、街はある。灯りの向こうにある景色を想像する。

そんなことを思いながら(ほぼしゃべりながら)、浜松から、舞阪?まで歩いてきた。足と背中が痛くなってきた。とりあえず、朝日が出るまで歩いてみよう。まだ歩ける。楽しみだ。

少し嫌な予感がしたので、連絡もせずに通り過ぎた静岡の友達に電話をかける。なんだかんだ、1時間半くらい話してもらった。電話を切ってはじめて、とんでもなく怖いところを通っていたことに気づく。

「いつでも助けに行くわ」

足が前に行かない。目の前は真っ暗だ。足元は見えないが、多分腰くらいまで草が生えている。風に押し戻される。鼻の先の感覚がない。だけど必ず朝が来る。絶対来る。それだけを信じて、寒さを感じないように足を進め続けた。

朝が来た。長い長い、自分との戦いだった。人生を大きく二つに分けるならここ。ワンピースならエネルと戦っている。

ここがどこかも、遠いのか近いのかも、どのくらい歩いたかもわからないけれど、とにかく朝が来た。言ったじゃん!みたいな気持ち。ハロゲンヒーター系のあたたかさが、指先まで浸透していく。頭が冴えてくる。さて、ここはどこだろう。足が棒とはこのことだし、背中が痛すぎるし、瞼は力を持っていない。それでもどうにか、どうにかまだ歩く。朝が来たんだから。止まったら終わりだ。

どこを見渡しても絶景だった。リュックが軽くなり足が動く。少し休み、大きく深呼吸をして足を進め、少し休む。それを繰り返す間に、豊橋に来ていた。眩しくて前があまり見えない。これからどうなるんだろう。そこに、かっこいい色のジムニーが止まった。

「どこ行くの?」

たけし軍団にいそうな、いい顔の人。絶対に怒らせたら怖そうな鈴木さん。柿の木坂あたりでの引っ越し作業みたいに、丁寧に一つ一つ会話をしていく。
※リュックに「大阪」と書いた紙をひっかけてます。

普段は仙台から出ないのに、本当にたまたま三重県の鈴鹿市に向かっていたらしい。バス釣りのルアーのお守り?をわざわざ取りに行くために、鈴鹿まで行くらしい。俺もこんないい顔になりたい。

「途中に名古屋通れるから、乗りな」

暗闇を抜けたあとの出会い。求めていたものな気がする。何も考えずに車に乗り込んだ。そこからは、24時間起き続けていることを忘れるくらい濃厚で、新鮮な時間だった。何にもなくなって、求め続けたあとの人の車のあたたかさ。人それぞれの生き方。乗せてあげようって思ってくれたこと。

鈴木さんは地元から離れずに、昔からの友達との週末の最高の予定を楽しみに生きている。地元でいい顔出来る人は、どこの街を走ったっていい顔だ。

名古屋市周辺の、国道一号線沿い。ラーメンまでご馳走になってしまった。ありがとうございました。またいつか。

鈴木さんとのことを考えながら、大阪方面へ。コンビニで飲み物と魚肉ソーセージを買って、歩き出す。すぐに、軽自動車の窓が開く。

「大阪までは行けないけど」

名古屋市在住のご夫婦は、四日市にあるお肉屋さんに、おせち用のお肉を買いに行くんだそう。毎年必ず、同じ日に。四日市は大阪に近づく通り道!有り難く、乗せて頂くことにした。

奥さんは感謝を伝えてもずっと謙遜して、

「私はダメだけど、この人はなんでもできるの」
「あなたみたいなひとこの人ほっとけないのよね」

とベタ褒めだ。寡黙なお父さんは少し笑って、早口で静岡のいいところについて教えてくれた。お肉屋さんは一号線の目の前だった。

旅に出て良かった。本当にありがとうございました。

また少しずつ歩いていこう。と、思いながら青看板の地名を見て、もしかして?と思い友達に電話する。

「え、車で10分?!」

俳優の友達の実家の近くに到着していた。全国の僕らの青春、イオンのフードコートに集合した。サプライズで友達の父ちゃんが。こんなところで会えると思っていなかった。知ってる人とその家族に会えたとんでもない安心感で脱力。スガキヤのラーメンをご馳走になり、ここからの予定について議論する。

「奈良まで送ってあげても全然いいよ」
「いや、あの山は自分で越えないと意味がないです。」

いよいよだ。自分が何を言ってるのかわからなくなった。お父さんすみません。

四日市駅の近くに降ろしてもらった。商店街があり栄えていて、安心感があり、逃げ道として電車もある。良かった。ありがとうございました。味方の味方は味方だ。また会いに来よう。街を一巡して、また国道一号線へ。

さて、ここからどうなるか。ベンチに座ってこれからを考える。無事、大阪にたどり着くことが出来るのか。日が暮れる前に少し歩こう。そういえば全然知らない遠くの街にいるんだ。心が落ち着かなくなる。

「津までだったら行きますよ!」

19歳の大学生2人。小さい頃からずっと一緒のいとこ。経由するであろう津駅まで送ってくれるらしい。安堵。本当に優しい人ばかり。

「こいつ彼女とばっかりいるんですよ」
「お前インスタのDM見せてみろや」

2人の会話は、笑って見ているだけでいいくらいテンポがいい。お母さんからの呼び出しをよそに、マックを買って3人で食べた。3人だけの思い出だ。お母さんごめんなさい。19歳。聞きたいことをたくさん聞かせてもらった。また会いたいな。乗せてくれてありがとう。津駅の近くでお別れ。

また歩く。峠を恐れず歩く。
とにかく歩く。理由なんていいから。

急な行き止まり。この道は歩いて通れないらしい。とんでもないところに来ていて、ちょっと座っていたら地元の人に怒られた。歩いて行く方法はなかった。とにかく大阪に行くんだ。充電が切れそうだったので、とにかく頑張って、線路を見つけた。まだまだ自分は弱い。お疲れ様。電車に乗ることを決めた。

大阪までの1時間、あっというまどころかマイナス。ほぼ気絶。大阪駅の隣の天満駅で降りる。久しぶりの繁華街に安心する。この時の記憶が曖昧。

「漫画喫茶ってありますか?」

とにかく横になりたくて、ネットカフェのフラットルームへ。家を出てから2日半経っていた。シャワールームは満室。時刻はあっという間に9:00。よく眠れた。ここはどこだ?

体を芯から温めたくて近くのスーパー銭湯へ。スーパー銭湯は市民の味方だ。"スーパー"とつくだけある。あ、大阪にいるんだ!

今回の目的に戻る。出演する「川辺市子のために」同じく戸田彬弘さんが監督、杉咲花さんを主演に映画化された「市子」を観る。これだけをしたくて大阪に来た。どうしてもこういうかたちで市子に会いたかった。やっと、シネリーブル梅田さんに行ける!また歩く。足が強くなった気がする。東京で作ったTGCカードを大阪で使えた。

生きるって、関わるって、生き抜くってなんなんだろう。ずっとわからない。

旅が終わった。

2023年も終わった。生まれてから30年が経つのか。どうなっていくかはわからないけど、出会いや失敗や恥ずかしさを喜んで、旅をするように生きていきたい。まだ知らない沢山のことは教えてもらって、あとは新鮮さを求めて、わからないものを見つめ続けたい。ひたすら実感を感じて生きていきたい。来年の抱負。旅をして良かった。

そんなことを言っていたら年が明けていた!
あけましておめでとうございます。
いつも、本当にありがとうございます。素敵な作品をお届け出来るよう、ひたすらに目の前と向き合います。

今年も、皆さんの毎日が穏やかでありますように。

サトウヒロキ

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