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はじめに


作者挨拶:塚原ゆうき

 はじめまして。
 このnoteをご覧いただき、誠にありがとうございます。
 マジシャン塚原ゆうきです。

 私、塚原ゆうきは、8歳の頃からマジックを始め、高校卒業と同時にプロデビューを果たしました。
 これまで、新宿や銀座のマジックBARを拠点とし、ショッピングモール、お祭り、小学校、結婚式、企業イベントなどなどでパフォーマンスをさせて頂きました。昨年、私のマジックをお楽しみくださったお客様は、述べ3万人以上。その中には、オリンピック金メダル選手やジャニーズ、俳優、お笑い芸人の方など、著名人の方も多数おられます。

 今回、このテキストの執筆を手掛けたのは、監修の廣木さんから
「“テーブルホッピング”についての本を一緒に書いてみないか?」
とお話をいただいたからです。
 確かに私は、居酒屋やレストラン、キャバクラ、ホテルなど、100現場以上でテーブルホッピングの仕事をしてきた経験があり、筆者として抜擢されたことをはじめは嬉しく思いました。
 しかし、よく考えてみれば、もっと現場経験の豊富な諸先輩方がいる中で、私がそれほど大きな顔をして解説してしまってよいのか、と腰の引ける気持ちになったことも事実です。

 そんな私の心を後押ししてくれたのは、動画生配信アプリ「Pococha」のリスナーの方々の声でした。
 このコロナ自粛期間中に始めた「Pococha」で配信をしていると、視聴者の方から
「テーブルホッピングのやり方を教えて欲しい」
という声をいただくことが何度もあり、その要望に応えることができる良いチャンスだと思うようになったのです。

 マジシャンの仕事の中でも、「テーブルホッピング」というマジックスタイルは、興味を持つ方がとても多い、ニーズのある情報だと知りました。
 そのニーズに対して、私の経験がお役に立てるのならばこれ以上の喜びはない、と思うに至ったというのが、このたび筆を執らせていただいた経緯です。

 さて、本書は初心者用の入門書という事で、テーブルホッピングに関する基本的なことを系統的にまとめました。
 このマガジン手に取ってくださった、これからテーブルホッピングをはじめたい方や、既に経験されていて今後もっと様々な現場で活動を広げていきたい方などにとってお役に立てる内容を盛り込んでいるつもりです。
「どんなマジックがウケるのか」
「マジック中はどんな点に注意するべきか」
「チップをもっと頂くためにはどうしたら良いのか」
「新しい店舗に営業をかける際はどんなことをしたら良いのか」
 そのような、あなたの疑問や不安を、きっと本書が解決できることと信じております。

 このマガジンを執筆するにあたり、『レストラン・マジシャンズガイドブック』はもちろんのこと、KOJI氏のnote記事と伊藤大輔氏のYouTube動画を参考にさせていただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

塚原ゆうき

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参考文献
・ジェリー・マクレガー&ジム・ベース(2014)『レストラン・マジシャンズガイドブック』リアライズ・ユア・マジック.
・KOJI(2019-12-27)「失敗談から学ぶ、マジシャンがレストランやバーへの出演を提案して新規開拓で売り込む方法(前編)」<https://note.com/magicaldreamer_/n/n3497d0ef6064?magazine_key=m14198037fae3>閲覧日2020-6-10.
・KOJI(2019-12-31)「失敗談から学ぶ、マジシャンがレストランやバーへの出演を提案して新規開拓で売り込む方法(中編)」<https://note.com/magicaldreamer_/n/nfc7883794cc3?magazine_key=m14198037fae3>閲覧日2020-6-10.
・KOJI(2020-1-4)「失敗談から学ぶ、マジシャンがレストランやバーへの出演を提案して新規開拓で売り込む方法(後編)」<https://note.com/magicaldreamer_/n/ncb6635bd1cc5?magazine_key=m14198037fae3> 閲覧日2020-6-10.
・DAISUKE ITO(2020-3-24)「テーブルホッピングレクチャー|テーブルホップで注意すべき6つのこと」<https://www.youtube.com/watch?v=QOXy9n27mSU>閲覧日2020-6-10.


本書について:廣木涼

 本書を手に取っていただき、ありがとうございます。
 このテキストの、企画・監修を行いました廣木涼と申します。

 僕は8ヶ国で活動し、国内200店舗以上の現場でテーブルホッピングを行ってきたマジシャンではありますが、2冊の推理小説と6冊のマジシャン向けwebテキストを執筆した文筆家でもあります。そして、そんな文筆家マジシャンの役割とは、マジシャンとしての働き方を世に広めていくことである、と密かに使命感を燃やしている者でもあります。
 すでに『ストリートマジックハンドブック』を執筆、販売しているとおり、様々な現場での働き方を読者の方にお伝えできれば、と思っているわけです。

 ところで、僕がこのようなことに使命感を燃やす理由は、現状では、そのような書物が世の中に存在しないからです。
 「マジックの教本」はたくさん出回っているのに、「マジシャンの働き方の教本」は、ほとんど出回ってはいません。ことテーブルホッピングに関する教本となると、僕が知る限りでは、『レストラン・マジシャンズガイドブック』があるだけです。一般に秘匿性が高いとされるマジックのタネよりも、さらに秘匿性が高いのが、マジシャンの働き方だということになるのでしょう。マジシャンにとっての「飯の種」は、実はマジックのタネではなくて、働き方の秘密であったのです。

 さて、この唯一の教本とも言える『レストラン・マジシャンズガイドブック』は、1980年代のアメリカを舞台にした方法論であると見受けられます。それが40年近く経った、現代日本でも適用できる項目も多く、その内容の普遍性に驚かされもしますが、このガイドブックを参考にして僕が実践しているうちに、現代日本でテーブルホッピングを行うにあたって、より適した方法論があるのではないかと思うようにもなりました。時代も国も違う中で、文化の違い、観客の嗜好の違い、働き方の違いがあるからです。
 今回、若い塚原君に執筆の話を持ち掛けたのも、新しい時代の方法論を確立するにあたって、より適切だと思ったからです。塚原君も、『レストラン・マジシャンズガイドブック』を参考にしながら、僕と同じような考えを持っていたのです。

 塚原君が若いからと、ご心配には及びません。彼は若いに似ず、熟練のマジシャンが驚くほどのペースで仕事をしていますし、数多くの現場経験を持ち、このテキストの執筆に相応しいマジシャンです。
 また、もちろん僕自身の経験も記されていますし、僕や塚原君が他のマジシャンから得た経験談から共通点を洗い出し、それをもって本書の理論を補足しています。つまり本書は、「ひとりの著者による机上の空論」から最も遠い、「多くのマジシャンが実際に現場で経験した血の通った実践的方法論」であり、それこそが本書の最大の強みなのです。
 したがって、本書『テーブルホッピング入門』は、“初級者のテーブルホッピングのためのマニュアル”を目指して書かれてはいますが、中級者以上のマジシャンの方にとっても、十分に参考にできるテキストであると、自信を持っております。

 おそらく本書は、日本においてはじめての、系統立てたテーブルホッピングの一般教本となるでしょう。
 この『テーブルホッピング入門』を、あなたがマジシャンとして仕事をはじめるための一冊に、あるいは、マジシャンとして成功するための一冊にしていただければ、製作者冥利に尽きる喜びであります。

廣木涼

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テーブルホッピングとは

 そもそも、テーブルホッピングとはどのようなものなのか、まずはその説明をする必要があるだろう。
 マジシャンには様々な働き方があるが、その中で「テーブルホッピング」とは、観客がいる会場の各テーブルを、マジシャンが移動してマジックを演じるスタイルのことである。
 たとえば結婚式場などの、100人の観客がいる会場において、10人ずつ10回に分けて演じる、5人ずつ20回に分けて演じる、ということが可能であり、状況に応じて、一度に100人に演じるステージマジックと使い分けられる。
 また、レストランなど、1グループが少人数であっても適用できるため、ステージマジックと比べると、より狭い環境に適している。そして、ステージマジックができるほど広い会場は現実的には極めて少ないことから、テーブルホッピングというスタイルのほうが、広く汎用的であると言える。
 主な現場は、上記以外にキャバクラ、居酒屋などがあり、スタンディングでマジックを、3〜10分程度で演じる事が多い。「テーブルホップ」や「ホッピング」とも言う。

 マジックバーやショッピングモールイベントでのマジックショーの場合、観客がマジックを見るために会場に足を運ぶケースが多いが、企業イベントやレストランなどのテーブルホッピングの場合は、観客はマジックを目当てに来ているわけではない、というのが両者の大きな違いである。多くのテーブルホッピングの現場において、マジックは「主役」ではなく「脇役」なのだ。
 そのためホッピングマジシャンの仕事は、観客がマジックを見たいと思う姿勢を整えるところから始まり、そこが一番苦労する部分でもある。
 観客との心の壁を壊して心理的距離を縮めることを「アイスブレイク」と呼ぶが、テーブルホッピングの現場はマジックショーの場合と比べてこのアイスブレイクが占める割合がより大きいと言える。

 一方で、それはそのまま「マジックが占める割合は小さい」という意味でもある。
 目の肥えた観客が
「どれどれマジックを見に来たぞ!」
とやって来たわけではなく、はじめてマジックを見るという観客が
「マジック見られるの?ラッキー」
という雰囲気になることが多いという点では、ショーに比べればマジックのハードルは低い現場だと言えるだろう。
 酒席であることもあり、複雑なマジックは全く求められないし、初歩的で単純なマジックを演じたとしても、リアクションの跳ね返りが良い。
 難しいマジックができたり、ハイレベルなテクニックを習得していたりするよりも、「気さくなマジシャン」であることのほうが、よほど重要な現場だと言える。


テーブルホッピングを行うメリット

 どのような仕事であっても、働き手の独りよがりな気持ちで成立できるものではない。
 テーブルホッピングにおいても、仕事をする側、仕事を頼む側の、それぞれのメリットがあることを理解する必要があるだろう。自分自身がメリットを得ながら、より大きな他者のメリットを生むことが、マジシャンに限らず、すべての働き手が考えなければならないことである。
 ここでは、マジシャン側、飲食客側、店舗側の、それぞれのメリットを説明する。マジシャンがテーブルホッピングの仕事ができるのは、飲食客と店舗にメリットを出すことが前提だということになる。

マジシャン側のメリット
 「1日に沢山の場数が踏める」ということが大きなメリットだと言えるだろう。場数を沢山踏むことができれば、飛躍的にマジックは上達し、自信にも繋がる。
 また、レストランが練習場所であるということではないが、他の現場に比べて新しいマジックを試しやすいという点も挙げられる。テーブルホッピングの現場で新しいマジックを試し、出張マジックのための、より磨き上げたルーティーンを作ることもできる。
 さらに、ホッピングの観客に名刺を渡したりS N S交換をしたりすることができれば、企業イベント等の出張マジック獲得に繋がることもある。
 このようにテーブルホッピングでは、マジックの技術は勿論、コミュニケーション力やトーク力、観客の盛り上げ方、場の空気の読み方や雰囲気の作り方、出張マジックの営業の取り方等の様々なスキルを磨く場にもなるのだ。

飲食客側のメリット
 レストラン等の飲食客のメリットとして、飲食以外のサービスを受けられるということが大きい。
 一般人にとって「マジック」というエンターテインメントは、テレビで見ることはあってもライブで見る機会はとても少ない。マジックバーなどもあるにはあるが、一般人にはあまり認知されていない。そんな中、たまたま行った飲食店で、テレビでしか見られないようなマジックを目の前で鑑賞できるということが、飲食客、観客への価値の提供になる。
 「マジックを見ている時間」に価値があるのである。


店舗側のメリット
 飲食店側のメリットは、「売上」や「利益」であり、「集客」や「知名度」である。
 私が専属契約をしている店舗は、「マジシャンがいるお店」と広告している。そうやってイベント感を出す事で他店との差別化を行い、マジック目当ての飲食客を集客できるのが店舗側の利点となるだろう。
 もちろん、常連客も楽しめるので顧客満足度も上がることになり、リピーター確保の点からも売上の向上が期待できるのである。
 店舗がマジシャンにギャランティー(「出演料」「ギャラ」とも言う)を支払う契約の場合は、マジシャンはギャランティー以上の利益を上げなければならないと、心しておくべきである。


収入について

 会社員であれば「給料」という形で仕事の対価を得ることだろうが、マジシャンの場合は、主に「出演料」という形の収入を得る。
 テーブルホッピングでは、出演料を得る現場も多いが、より多いのが「チップ」を得る現場である。
 ここでは、それぞれギャラ制、チップ制として解説することにする。なお、両方の複合型もあるので、それも解説する。


ギャラ制
 店舗や企業などのクライアントから、ギャランティーを受けて、マジックを行うシステムを、ここではギャラ制と呼ぶことにする。仕事の報酬をクライアントが支払うという、一般的な仕事の受け方だと言える。
 飲食店からのギャランティーは、1時間○○円の時給制、1日○○円の日給制、一定期間で○○円の期間給制のどれかが多い。時給制では「1時間千円〜五千円」、日給制では「1日一万円〜三万円」、期間制では「1日一万円〜三万円×日数+諸経費(拘束費、交通費、宿泊費)」が私の経験上は多かった。
 企業からのギャランティーは、1時間○○円と決まっている場合がほとんどであったように思うが、三万円から十万円の間の依頼が多いという印象である。
 マジックを演じる際にはこれが無料のサービスである旨、クライアントから出演料を頂いている旨を伝えると、飲食客(観客)も喜んで見てくれるだろう。そうしなければ、有料だと思われて断られることもある。
 先述したとおり、ギャランティーはクライアントの利益を見越して支払われているのだから、クライアントに対する飲食客の評価を高めるためにも、
「お客様にマジックをお楽しみ頂くために、お店から出演料を頂いていますので、どうぞお楽しみください」
と言うとよいだろう。
 ギャラ制の現場は、企業イベント、ホテル、結婚式、レストランが主に挙げられる。


チップ制
 クライアントからはギャランティーを受けずに、直接観客にチップという形の報酬を受けてマジックをするシステムをここではチップ制と呼ぶ。
 チップの金額は店舗や客入り状況などによって様々で、1日あたりで言えば、十万円のときもあれば0のときもある。
 無料のサービスで演じているわけでもないので、ギャラ制と比べると断られやすいのが一般的である。ただし、断られることを嫌ってチップ制であることを告げずにマジックを演じてしまうと、後からチップを請求した際にトラブルやクレームになることが多いので、必ずはじめにチップ制である旨を伝えなければならない。
 具体的に私がどのような声かけをしているかについては、後の章で詳しく説明する。
 チップ制の現場は、居酒屋、キャバクラが主に挙げられる。


複合型
 チップを得るという前提で、比較的安いギャラで依頼される仕事もある。私の経験では、キャバクラからの依頼はこの形が多かったが、それは私がそのような提案をして交渉・契約をしているからである。その詳細については後の章で解説をする。
 このように「ギャラ+チップ制」という現場もあるが、この「ギャラ+チップ制の現場」と「ギャラ制のときにチップを得ること」を混同してはならない。
 ギャラ制であってもチップを渡されることがあるが、注意が必要である。なぜならば、一般的にクライアントは、観客にはチップを貰わない前提でギャラを支払っているからである。
 ギャラも受け取り、チップも貰うというのは、給料の二重取りのようなものであることを知っておく必要がある。二重取りになる場合は、クライアントにその旨を伝えなければならない。結果的には、二重取りを快く認めてくれるクライアントも多い。
 前述のキャバクラの例は「二重取りをする契約」であるから問題にはならないが、そうでない場合は注意が必要である。
 また、ギャラ制でチップを渡されることとは真逆だが、チップ制でマジックを演じてもチップが出ないこともある。
 必ず出るとも、絶対に出ないとも言い切れないのがチップというものだ。それを決めるのは、マジシャンではなく観客だからである。

2章以降の予告

 ここまでお読みいただきありがとうございます。
 さて、本書『テーブルホッピング入門』は全10章で構成されています。次章以降も、テーブルホッピングのお役立ち情報満載でお届けする予定ですので、お楽しみに!

 2章、3章、4章の内容は、このようになっています。
 ぜひ、続きも読んでください!

2章:ルーティン構成の考え方
 オススメマジックの特徴
 ・
①現象が分かりやすい
 ・②身近な道具を使う
 ・③本格感のある道具を使う
 ・④テーブルを使用しない
 ・⑤リセット不要
 ・⑥観客参加型
 ・⑦道具をスマートに持ち歩ける
 ・⑧角度に強い
 ・⑨道具を調べることができる
 ・項目まとめ
 オープニングとエンディングに適したマジック
 ・オープニングマジック
 ・エンディングマジック
3章:現場で愛用されるマジック
 インビジブルデック
 アンビシャスカード
 トライアンフ
 スポンジボール
 リンキングリング
 コインアンダーザウォッチ
 クレイジーマンズハンドカフス
 メタルベンディング
 ビルチェンジ
4章:実践編
 声の掛け方

 ・ギャラ制の場合
 ・チップ制の場合
 始め方と終わり方
 ・始め方
 ・終わり方
 観客別の演じ方
 ・家族連れ
 ・カップル
 ・学生
 ・団体
 名刺について
 ・名刺のデザイン
 ・タイミングと渡し方
 ・名刺を配る目的
 ・注意点

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