【短歌】寛ぎながら生きてます
【寛ぎながら生きているような】
海外暮らし
英会話わかったふりをし過ぎたら減った日本語の知ったかぶり
別れると決めてきたんだ飛行機よ 運べ 電波も届かぬ高度へ
有り難や 日本語の書を押し詰める一時帰国の三蔵法師
家事もせず会社も行かずピアノ弾き 短歌詠み出しいよいよ貴族
３年で海外移住欲はほぼ満たされました さらば旅人
ひとり
ひとり部屋 鏡の私 上手に何度か笑えたら リビング向かう
ハロウィンもパーカーのままが一番不気味な仮装だろとつぶやく
息子たちへ
息子らよ 交通事故で死ぬなよな それだけなのにあれこれ叱る
「ベビースター擬態してるよ！」息子追うフローリングに逃したおやつ
もうきみは親の言葉じゃ満たされぬ でも鉛筆は削っておくよ
バス停で「日なたキツイな」父の声 離れた息子は聞いたかしら
弟をマウンティングの夏休み １０歳高笑い むひゃっひゃっひゃっ
子は見事 Gを生け捕り「窓にポイ？トイレにジャー？」処遇紛糾
4時間目 皆のリュックの菓子尽きて 「飢饉だ飢饉だ」叫ぶ叫ぶ
青と白 左右異なる靴下で駆け回れる子が育ちました
食えばいい「アイス食べてもいいの？だめ？」許諾するたび親でなくなる
ピアノ弾き語り
タン、タン、打ち続けるメトロノームに「ごめん今夜はもう弾けないの」
初デートの待ち合わせみたいに出会うつもりだったのに町ピアノ
おじさんはうちのピアノを運び終えピアノ教えてくれと言ってきた
ドラゴンボート
生きてたら乗れたんだから龍の背に 必死に叩くでしょ太鼓とか
ごはん
今すぐあなたの力になりたくて 送るね焼けたお肉の写真
清らかなテラテラスープ飲み干せば 優しい羊の夢を見れます
徒歩５分 惰性で通う麺屋有り 毎度おいしい毎度うれしい
いつの間に 彼女が殻を剥いたから 美味しくなった茹でエビがこれ！
歳とって手に入れたのは 好きなだけネギ入れる自由だけですが何か
「中華はね 熱い・冷たい・辛いのね 三つ巴でしょ」とか言う自分
飲み物
唇が紙ストローに慣れていく 初めはあんなに拒んだのに
レッドブル 語学学校5分前飲み干すやつが一番効くぜ
ハーブティーも僕と飲めば 湯気浴びてずずずとすする芋のお湯割り
コーラすら喉越しで流し込むのは 甘えたい僕も飲み込むため
汗を流す
練習後 見上げた空に鳥が舞う 「うれしそうだな」先輩は言う
初めての夜のマラソン 兄追ったその道のりは 3.64
遊ぼう
エアホッケー 手に持つあれを くるくると回し始めてからが本番
おしゃべり、とか
「もう二度と揃わないよねこの仲間」みんなであえて言わぬ夜です
3個ずつ3行 絵文字送ったら スロットマシンみたいおめでとう
気軽には「いいね」しづらい本音こそ「いいね」されたい「知り合いかも？」ね
その話 そもそも聞いてないおそれ そもそもわかる気がないおそれ
夜
孤独なら夜空に耳を澄ますのさ 僕まで届くトラックの音
「今夜飲めば明日は禁酒」とか言って 寂しい夜を調整してる
操舵室から夜の海へ突き出され 吹かれるままにばたばた泣いた
消えたくて陰のベンチに座り込む しかし定時のオレンジ灯が
誕生日
吹く前にキャンドルすん、と消えたので 尖ったままの僕の唇
何食わぬ顔で過ぎゆく平日の曇りのひとりの誕生日好き
「おめでとう」が日本時間でも届くから じんわり長め誕生日
少年の頃
ファミコンが買えぬゆうしゃのアイテムは ボロボロになった攻略本
体のこと
ピクピクが止まらぬ瞼（まぶた）ちっぽけな画面だらけで進化しちゃうよ
【ヤクルトスワローズの選手たちへ】
０ 並木秀尊
もう君は前進守備の二ゴロでも突っ込む運命（さだめ）と走っている
３ 西浦直亨
サヨナラ打の夜 ニヤニヤが止まらず 遠征ホテルの床はびしゃびしゃ
23 青木宣親
飛距離付きキレキレ打球も見納め それでも人はまた歩き出す
31 山崎晃太朗
オスナ蹴る、胴上げ縦に飛ぶ、そんな君の真面目すぎる流し打ち
【季節の変わり目に風邪を引くような】
夏
「久しぶり！夏バテ平気？」の返事が「カレー食べてる」ああ元気そう
冷や水へゆでたて卵放り込み 声漏らす「すっかり夏バテよ」
プールサイドの「たられば」は不道徳 グラビアアイドルと来ていれば
２秒半 美しいひとは塗りました ストッキング越し液体ムヒ
潮干狩り「粘土いじりが好きだった」の妻のバケツさすがずっしり
冬
会議室 彼が吹いてた口笛の 曲は確か「雪だるま作ろう」
寒い夜 想像するの自分がね肉まんの具になってるよって
【絵葉書を送るような】
香港
室外機と竹まみれの建物に 僕はとっくに挟まれていた
タワマンは年季入って穴だらけ 尺八なので台風で鳴る
森を抜け見てしまったの 密やかに放水に耽る夜のダムを
昼間から玄関先にただ座るおじさんたちと目が合うのです
乗るだけで沸いてくるのさ香港が のろいボロい可愛い二階建て
夏過ぎるビクトリア湾 窓辺から眺めてばかりページ進まず
金龍も情報量に迷い舞う 過多な街並みこそ暮らす価値
エコバッグの柄が「夜のネオン街」 持続可能な欲望なんて
ほんのりと塩対応の血のプリン 推しの「豬紅（ジューホン）」 スープと踊る
「テッテレ〜どこでもドア〜」の身軽さで おいで香港 冒険しよう
虹色の団地のバスケのゴールにダンク決めるよ また会えるなら
キラキラのビールを飲めば勝ち馬のツヤツヤお尻が見えてきます
紅磡（ホンハム）の海辺を見れば荒川の川面と同じ光り方かも
奈良
雨宿る二月堂にて 縁側に濡れた足跡 僕の扁平
祀られし雨乞いの龍 大社にて本領発揮か びしょ濡れです
コタキナバル
夏休み 妻に連れられ飛行機に いつか夢見たどこかの国へ
サンセットの瞬間でも「帰ろうよ」 小さき君はすでに美しい
この場所にこのブランコをこう立てた職人さんへ 絶景ですね
アスファルト ガタガタ鳴らすツアーバス 眠る花嫁 口開けたまま
バナナの木 錆びた電柱 蔦まみれ 置きっぱなしの鉄道工事
リアルジャングルクルーズで子は見張る「見えたぷかぷかは全部ワニね」
あれ以来「僕は見たんだ完全な虹を」と思い続けています
ラフティング 前のめり漕げば「ARMYだ！」言ってもらえて練習の成果
ラーメンのなるとぐらいの謙虚さで ジャングルに咲く世界最大
【恋のような】
寝室
「おやすみ」とダブルベッドの端っこで 夫婦それぞれ抱く抱き枕
触れたくて心を強くしたけれど 君は寝返る 夏じゃない方
「抱き合えば窓のガラスが曇りだす部屋ありますか？」と不動産屋に
「僕のこと嫌なら仕方ないよね」と ずるい夫が横で寝返る
同じ夜 同じ手癖で抱いたもの 思い出せないのもう僕だけじゃ
手
笑い方わからず雑につないだ手 やや引き探す 指の引っかかり
手紙
便りでは 会えない君の長い髪 ツヤツヤらしいから目を閉じる
キス
キスをした回数なんて 意味がない数字ね日経平均ぐらい
会いたい
向こう岸 手を振る君と歩き出す 小さな橋へ 同じ歩幅で
嫌い
はっきりと「もう大嫌い」言ってすぐ抱いてくれたの君だけでした
【サブカルに憧れたような】
映画
河川敷 フリースの2人は黙り 同じ流れに目、澄ましている
火炎瓶や人を投げる田舎者 「真犯人は？」だいぶそっちのけ
ＡＫＡＳＡＫＡもＴＥＮＥＴじゃん！と知りし時 逆走するといふ千代田線
雪景の駆け落ちごっこ2分ずつ積もったね ユー、忘れないでよ
J-POP
「サザン神！」桑田語りは任せたよ 僕は歌い継ぐ 忘れかけの歌
中年はようやく悟る“ポジティブメンタルアティテュード“ただ叫ぶ歌を
洋楽
スティーヴィーがFor Your Love叫んでいる 僕にも愛は残っているか
アニメ
ドライバーが他人行儀なセイウチだ 事件巻き込み じわり焦らそう
歴史
かんのわのなのこくおうのきんいんのみつかるたんぼのはなしすきなの
【市民のような記者のような】
ニュース
手のひらが制御不能に熱くなる もうその記事は追っちゃいけない
オリンピック
誤審だのスポンサーだの 総理から電話まで来る平和の茶番
はしゃげない「メダルラッシュ」と言われても スポーツが好きってそうじゃない
コピーライター
肩書がコピーライター？代理店の方ですよね？後でいいですか？
自民党
「総裁の椅子に座れば手のひらが返る仕様で納品しました」
選挙
「人気者」ではなく「人」を見る目には自信あるので比例はれいわ
政権を交代させたことがある市民でいたい せっかくなので
先生
教室と診察室の「先生」とその他「センセイ」は同音異義語
【歌人のような】
アクセントは「か」じんですか？か「じん」ですか？ 呼ばれなくても歌人ですけど
五七五七七を九八七七で数えてみれば ずいぶん自由
五七五は顔と体幹 七七は足腰性器 歌になる僕