東大に提出の博士論文に書かなかった思考過程:博士編

修士課程を終えて博士課程に突入する。

士課程1年目

論文書き始めると最初の論文よりは大分ましな気がするけど、ボスが全改訂して跡形も残ってない感じで、あららと。最初の雑誌はrejectで次の雑誌で通る、なるほど最初の論文と同じくまたこういう感じかと。理論研究したと言っても結局一体問題の解析で間に合う系だったということで、次は多体系の解析でしょ、と。Bethe格子、ランダムグラフとか解けるらしいと。random field Isingもその設定でいけるんじゃね!ということで、実際staticの性質を計算する論文はあって僕のdynamicalな設定はなさそう。そのstaticのアイディアが使えるか全くわからんのでとりあえず原点に戻ってpure Ising on Bethe latticeダイナミクスはどうなってるのかと論文探すと、近似手法はあるけどどうやら厳密な解析はできないっぽい。そうかむずいのね。。でもとにかくその近似手法をrandom ising on Bethe latticeダイナミクスに使ってみると、厳密じゃないけどそれっぽい力学系がでてきてシミュレーションと定性的には同じだなと。力学系で書けたから分岐解析ということでrandom field Isingの動的異常性が分岐解析の結果と一致して、おーっと。

博士課程2年目

同じ論文にpure Isingダイナミクスの近似精度を上げる方法も書いてあったので、それを使ったらどのくらいよくなるかやってみようと。あれ近似なはずなのにシミュレーションとほぼ一緒だし。無限時間極限がstaticの結果とほぼ一緒。すごい近似だなと。それをボスに見せると、exactなんじゃないか、と。いやこれは近似手法なはずだけどと言ったけど、staticと一見同じようだけど一見不思議な量で書かれたdynamicalな式が厳密なんでないかと言う。そこに書いてある量はなんだと聞くと、今までになさそうな量でこれかあれかとやりとりするとこういうふうに測れる量なはずだからということで、シミュレーションでみるとこっちの式もほぼ一緒。最初のおそらくexactの式は封印して論文書く。この結果は結構いいかも、と期待するけど今までと似た感じで、最初reject、次でacceptでまあこんなものかと納得する。pure Isingダイナミクスの近似手法がまだ他にも使えそうだったので、修士一年であきらめたGriffith相がでる希釈bond Ising on Bethe latticeダイナミクスの解析にも使えばどうなるかなと。ベルギーのサマースクールに来て環境に慣れ始めたころ皆がなんとなくくつろいでいる大部屋で手持ち無沙汰もあってか思い立ってプログラムを書いて見てみるとおーいい感じ。先行研究より確実にいいことがわかって初めて単著で論文書いてみることにする。一人で書くのは大変だろうけど、いつかは通らなきゃいけない道だろということで、なんとかして提出する。今考えるとrefereeのコメントが的を得ていて、基本的に従って修正すると一発で通った。案外うまくできてうれしい。

博士課程3年目

近似手法がうまくいくので、厄介そうなガラス格子模型に使ってみたらどうなるかな、とやってみると。これはやっぱり厄介と分かって、単純に力技でより近似精度をあげてみると、このままいくらあげてもこの模型の特徴的な相転移を拾えなさそうと悟る。(わかる人だけの注:トランクスそれはだめ。)同じ模型を解析していたフランス人にフランスまで行って突撃して、話を聞いてもらってunpublishedのノートを見せてもらう。僕がやってる解析より意味ありそうだなと。そのノートを参考にさせてもらいながら、僕の方法で何か意味のありそうな特徴を探すとこの模型のパラメータの組みがクラス分けできそうな結果がでたので、そこで単著でまとめて論文かくと、またrefereeが的確で基本的に従って修正して一発で通った。この論文自体はあまりうまくいかなかったと思ってるけど、初めて独立した研究者としてやっていけるかも、と前向きになれた。博士過程の最後の研究としては、今までの延長でできないような問題をやろうということで、明らかに難しいことがわかっている相転移を示す2次元上ガラス格子模型を作って解くということに挑戦してみることにする。毎晩寝転がりながらノートに球を球で周りから閉じ込める絵をかきまくることを繰り返す。やっとこれかなと思った模型を、directed percolationみたいな系にマップしてシミュレーションしやすくして相転移することがわかってとりあえず第一ステップ突破でうれしくなる。基研の研究会で話したときに、ある方に厳密な証明のアイディアを教えてもらう(論文謝辞に記載)。博士論文に入れるには時期がぎりぎりになってしまったので、この研究はポスドクになってから論文にしようと思っていたら、ボスにせっかくだから入れたらと言われる。時期的にまだ決まってない卒業後の進路とか気にしなければいけないことが結構あったし個人的には博士論文は通ればいいと思っていたので、やっぱりいれないことする。

博士論文公聴会は1時間くらい発表してその後の質疑応答も1時間くらいだったか。出席者は発表者の僕と評価者のみで、その評価者のメンバーは今考えると緊張するような豪華さな気もするけど、その時は個人的にやり切った感からか特に緊張はせず最後のご褒美くらいな印象で発表する。せっかくスーツ着てるけど部屋が寒くて上着脱がず全く意味ないとしゃべりながら気にしていた。評価としてはそれぞれの章の関連性が見えづらいので、そこに関して付け足しが必要とのこと。それで、博士課程3年目に出たrandom field Isingの相転移とガラス転移の関係性についてのイタリアの論文に関するレビューの内容を付け加えて出すとどうやらokということで、大学院生活が実質終わることなる。


その感慨に浸る時間は全くないまま、希望と自信と不安が複雑に入り混じった感触で、ポスドク生活へ突入することになる。

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